間抜けだ、大間抜けだ!
俺は昨晩のことを思い起こして、頭をかいた。
気づいたら、ルカが夜這いにきていた。寝ようとしていたところで、とっさに寝たフリをしてしまったのが運の尽き。そしてシィラも来て、俺の横で寝た。
俺は目を閉じていたから、ずっと視界は暗闇。何がどうなっているか想像しかできないが、死んだフリよろしく寝たフリを実行し続ける羽目になった。
……いや、実は起きてましたって、いうタイミングが掴めなかったというか。俺が寝ていると思っている二人に、極力恥ずかしい思いをさせないように機会を窺っていたんだ。姉妹で色々話していたから、余計に起きられなかったというか……。
俺の両隣で、おそらく寝間着もなしの彼女たちがいると思うと、正直落ち着かないのだが、そこへさらにヴィオがやってきた。
果たして彼女がどんな顔をして、俺たちを見たのかはわからないが、そのまま四人で一緒に寝ましょうみたいな雰囲気になり……。
正直『それでいいのか?』と思いつつも、寝たフリをしている俺は何も言えず。ド緊張していたら――いつの間にか、眠っていた。
なんてこったぃ!
いつ寝たのか、さっぱりわからないし、何であの状況で寝られたのか、理解できない。……本当、いつ睡眠に入った?
こうなると現金なもので、3人の生まれた姿を一瞬でも目に焼き付けておきたかったと後悔する。
夜中に目がさめて、真っ暗だろうけど、寝ぼけたままでもいいから彼女たちと肌が触れるのを感じたり、とか……そういうのも覚えていないんだよぅ。
いつもの如く、朝になったら誰もいないしさぁ!
彼女たちが深夜に部屋にきたって夢を見たって言ったほうがまだ信じられるわ。
勇気を出して、シテおきてばよかったんだ! 決戦だぞ、今日は! 最後なんて言ったら縁起が悪いが、最後の夜だったかもしれないんだし!
「笑っていいぞ、ダイ様、オラクル」
「……」
「……」
何で無言なんだ? お前ら、昨日の顛末は知っているんだろう? 俺が寝ていたから、結局ただ添い寝しただけで終わったっていうやつさぁ!
「というか、いつ寝たかわかんねえから、彼女たちが何かしたか教えてくれない?」
「いやー、聞かぬほうがよいと思うぞ? なぁ、神聖剣よ?」
「そ、そうじゃな。世の中、知らぬ方がよいこともあるのじゃ」
やっぱ知ってるんじゃねぇかお前ら。……とは言うものの、俺とルカ、シィラがこういうことなのは、この剣たちも知っている。
何もなかったと、散々にからかってきてもよさそうなのに、何かを隠すような素振りを見せる。……決戦前だから、あまり控えているのか? いや、それはそれで余計に気になるからね。
「というか、前もこんな反応だったような……。俺、また寝てる間にやらかした?」
前回は、翌朝にルカとシィラを大いに赤面させていた。何やら俺は寝ている間に凄まじい寝相を発揮して、触りまくったとか何とか。寝ていたんだから本当かどうか知らないけど、彼女たちがそういうのならそうだったんだろう。
「まー、今回に関していえば、やってはないな」
「うむ、主様は何もしとらんな。むしろやられた方――」
「おいおい、寝ている間に何をやられた!?」
最初のほうにつつかれたのは、まあ覚えがある。吐息が凄く近くて、ゾクゾクしたのも、触れていないのに、近かったからか体温のようなものを感じたりもした。
ダイ様とオラクルは顔を見合わせている。
「……まさか四人目が現れるとは」
「まったく、のーまーくだったのじゃ」
「でも前科はあったんだ。何で考えなかったかなー」
え、何、四人目って何? ヴィオの後にさらにもう一人来たの?
「誰!?」
「……」
二人は剣に戻った。黙秘しやがった。そして思い出す。前にもこんなことがあったぞ、と。
・ ・ ・
リベルタメンバーで朝食を摂る。今日はいよいよ領主町だからな。よく寝たせいか、やたら力が漲っているというかね。
何だろう、やたら体が軽いんだよな。夜中に体力を使わなかったのが、いい感じなのかもしれない。……決して、抱けなかったことの負け惜しみじゃないんだからな!
しかし――
ダイ様とオラクルは、俺は何もしていないと言った。だが何だ、この空気。
ルカとシィラ、ヴィオが心なしか顔が赤い。何かやったというか、やらかしたというか、そんな顔をしている。
俺の方を見た時、あからさまに顔が赤くなるのは何なんですかねぇ……? まるで俺とやったような顔されても、困るんですけどぉ? 添い寝しから、そういうエッチぃ夢でも見たのかね。
と、この3人だけじゃないんだよな、今回。
イラが何やら熱っぽい視線を向けてくる。セラータも俺と目が合うと、照れたように視線を逸らすし挙動不審。普段、無表情のファウナもやや赤面していて、口元が何かを堪えるようにムズムズしている。
ひょっとして、昨晩のことを彼女たちは覗いていたとか? いかにも夜這いな雰囲気なのに、何もなかったことで裏で笑っているとか……?
くそ、どこまで知られている? 俺はそれとなく仲間の顔色を窺うと、ネムとリーリエはいつも通りだ。
耳ざといリーリエが、まったく無反応というのは珍しい。あのイタズラ好きフェアリーが、まったく知らないというのもおかしな話だ。
マルモも元気に朝ご飯、ニニヤも普通。……彼女の表情が固いのは、決戦前の緊張だろう。ニニヤも白。ディーは……あ、反応がおかしい。こいつも赤面してる。しかもチラチラ俺の方を見てる!
アウラは――、何か知らないが、ラウネを汚いものを見るような目で見ている。……というか睨んでる?
そのラウネは、何やら上機嫌だった。この中で一番柔やかな顔をしている上に、何か艶があるというか。
あ、ひょっとして、こいつが俺の部屋にきた四人目か!?
そういえば、彼女は前科があった。ドラゴンブラッドによる変異体ではあるが、ドリアードってのは男を誘惑して、木に引きずり込むって話もある。
何かしやがったな、ラウネ!
しかし、場所が場所だけに、今は聞けない。ラウネが何かやったとしたら、ルカたちの意味深な反応にも関係しているかもしれない。
アウラが何か知っているっぽいから、後でそっちから聞いてみるかな……。