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第41話 恵まれている

 子供たちが帰ってきた。


 馬車とすれ違ったみたい。誰?誰がきたの?と興味深々。

 洗濯物を畳むのを手伝ってちょうだいと先生は、話を逸らした。

 小さい子はそれでごまかされたけど、大きな子たちは意味ありげにわたしを見る。


 レイに腕を取られた。

 裏庭の畑の前に来ると、手が離れる。

 ジークやモクたちも勢揃いだ。


「もう決めたのか? 迎えが来たのか?」


「迎えだったら、メイは残ったことになるよ」


 ジークが控えめに言った。


「まだ決めてない。あれは別便。母方の親戚」


 レイとジーク以外には元の家族のことも話していないので、みんな息をのむ。


「すっごい立派な馬車だったぞ、貴族なんじゃねーか?」


 トールが早口で言った。

 みんなには話してもいいか。


「うん、そう。わたし、令嬢だったんだ。だけど、母が亡くなったら、父の愛人が乗り込んできて、屋根裏部屋に追いやられてメイドみたいに働いてご飯をもらっていたの。

 仕事をしてお給金がもらえる年になるまで、あの家で我慢するつもりだったんだけど、半分妹の頬を叩いちゃって。

 叩かれて食事抜きが続いて、今までより長く酷いのになるんだろうなーと思ったら、逃げ出して町に行く馬車に乗ってた。

 その馬車が強盗にあって、川に落ちて、レイたちに拾ってもらってんだ」


 みんな薄く口を開けている。


「貴族だからって、みんな幸せってわけじゃねーんだな」


 モクが言う。


「母方の親戚には反対を押しての結婚だったから、みはなされていたんだと思ったけど、そうじゃなかったみたい。今の人はわたしの伯母で、わたしのために家にお金を入れていた。父はね、わたしが伯母とは会いたくないと言って追い返していて、伯母からのお金は父の懐に入ってた。母が残していたわたしへの物も、妹の名義に変わっていた。

 調べてくれたのはハッシュ伯爵様で、伯母に知らせてくれたのも伯爵様。

 わたし、父のこと嫌いだった。嫌いだったけど……、父の方がもっとわたしのことを嫌いで。わたし、何をしたのかな? そんな嫌われるようなこと、何をしたんだろう?」


「お前、バカか?」


 レイに怒鳴られる。


「お前は何一つ、悪くなんかねー。いっか、嫌ってくる奴のことなかほっとけ! んなことに傷つくな!」


 ドスドスと足音をたて、レイが行ってしまった。


「レイは、メイは悪くないのに傷ついているのが悔しかったんだよ」


 と言った。


「うん、意味はわからないけど、励ましていたんだと思う」


「俺もそう思う」


「私も」


 とみんな賛成意見だ。


「……伯母さんは何をしに来たの? メイを引き取りに?」


「そう言ってくれたけど、わたしは新しい戸籍を作って生きていくことにした」


「メイ、よく考えた方がいいよ。貴族の子でいられるなら、絶対その方がいいって」


 ナンが決めつけるように言った。


「それは人それぞれ違うよ」


 ジークがそれに反論する。


「孤児より、貴族の方が、道はいっぱいある!」


 それにはみんな同意する。


「それはそうでも、決めるのはメイだ」


 ジークが言い切る。


「確かにそうだね。メイは恵まれている。それなのに、それを蹴るなんて悔しい。私が代わりたいぐらいだから」


 そう言って、ナンも背をむけて離れていった。


「ナンのいうこともわかるな。だってせっかくの機会を、自分で踏みにじるのはさ、それがいいなって思う者を踏みにじられて感じる」


 そうか……。

 みんなには、いうべきではなかったのかもしれない。


「ごめん、わたし……」


「メイが悪いとは思わないよ。ただナンの気持ちもわかってやろうって言いたかっただけだ」


 モクの言葉にわたしはただ頷いた。


「でもさ、結局のところ、メイのこれからなんだから。誰が何て言ったとしても、メイがいいと思う方にすすめよ」


 トールの言葉に、みんな頷いた。


「……ありがとう」


 引き止めて欲しいなんて、本当におこがましい願いだった。

 保護者がいない子供が生きていくのは大変なことだ。

 まだ未熟な成長期にあって、自分の行き先が見えないのに、人の未来を思いやったり、喜んであげられるのは、難しいことだ。

 それなのに、みんなわたしの未来を心配してくれてる。

 わたし、やっぱり、みんなが好きだなぁ。

 ここから離れたくない。

 この孤児院をずっと守っていきたい。

 いつまでも〝ここ〟にあって欲しい。


 確かにただの孤児院の〝メイ〟では何もできないだろう。

 できたとして小金を稼ぐことぐらい。

 それでは院長先生の助けにはならない。

 わたしにできること……結論は出ているけど。言いにくくて、言ったら自分から別れを突きつけるわけだから……。

 先送りにしていた。


 後からナンには謝られた。間違ったことを言ったとは思わないけど、感情的になってごめんと。メイの未来なんだから、メイの思う通りに進めばいいんだと背中を押してもらった。

 それからはみんな、驚くぐらい普通に接してくれた。


 冬のための保存食作りを頑張った。

 街では相変わらず領主の息子が幅を利かせている。

 まだ借金を耳を揃えてお返しした話は届いてないのかな。

 わたしたちは、念のため、領主の息子やその取り巻きからは目につかないよう活動している。


 そうして今年初めての雪が降った日、ダンジョン屋で、わたしたちは目につかないように孤児院に帰れと言われた。

 領主の息子が荒れているそうだ。

 孤児院のある土地を借金のカタに手を入れられると思ったら、反対に訴えられるは、金額は少なくなるは、院長先生は弁護士をたて、さらに後ろ盾にハッシュ領の領主付きで、借金を返してきた。

 狙っていた院長先生にも会ってはいけない措置が取られているそうだ。

 とにかく荒れているから、しばらくは来ない方がいいと教えてもらった。 


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