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第42話 強硬手段

「なに変な顔してんだ?」


 レイに尋ねられる。

 変な顔って。


「わたし、領主の息子は絶対何かしてくると思うんだよね」


「先生と関わっちゃいけないって、言われてるはずだろ?」


「はいそうですかって、素直に納得するかなー?」


「……奴らが来ると思うのか?」


「うん。法の手続きで手は出せない。だとしたら……焼いちゃうとかしそう」


「焼いちゃう?」


「だからさ、孤児院が火事になったら、さすがに立て直す費用はないから手放すでしょ? それに火事は重罪だから、管理責任者が問われるし、そのことで罰金を払うことになるから、お金がなくなる。お金は必要。この土地を売るしかない。だから買い叩ける」


 ジークとレイが喉を鳴らした。


「それ、やべーじゃん」


 うん、ヤバイ。本当にヤバイ。

 だって大人は院長先生しかいないもん。お嬢様のね。


「夜に来るよね、きっと。対策ねらなきゃ」


「対策って……」


「まず、火はすぐに消火。

 できれば放火犯は捕まえたい。

 魔法が使える子はどれくらいいるっけ?」


 いつ来るかも分からない。

 来なきゃいいけど、長丁場になったら疲弊していくだけだ。



 院長先生には内緒だ。いたずらに心配させるだけ。

 警備する人を雇えば、それは相手に伝わり、もう来ないなと解除したタイミングでやられる気がする。

 そんな余分なお金はないし。

 自衛しかない。


 というわけで、孤児院の周りをまずグルリと堀を作ることにした。

 まあ、浅いものだ。

 中に水を張り、ドボンと落ちた人が声でも上げてくれれば、対処ができる。

 一度にはできないから、まず潜んで孤児院に向かった際に、来そうなところから始める。

 土魔法が使える子にところどころ掘ってもらって、その間をシャベルで掘っていく。飛び越えようと思えば飛び越えられるけど、堀があると知らず、そして真っ暗の中来たらドボンだ。

 だんだん深くさせていくとして、今日は膝くらいまで。


 総出であらゆるところに水を貯めておく。

 先生は初雪にわたしたちがはしゃいでいると思っているので好都合だ。

 お水も雪を貯めておくことで、労力も半分で済む。

 放火が目的だとしたら、雪の日に決行はしないだろうと思っていたけれど、夕飯を食べたらみんな一斉に眠ってしまった。重労働だったからね。


 次の日から、少しずつ範囲を広げて堀を築いていった。

 男の子たちは潜んでくるルートを想定して、いくつか落とし穴を仕掛けている。

 待ち望んでいたわけじゃないけれど、なかなか来ないので、罠が立派なものになっていった。

 みんな罠のあるところだけはちゃんと覚えて、先生が院を出る時やお客様がくるときはすかさずエスコートした。


 そうしてある日、とうとうその日はやってきた。

 前日に落とし穴に痕跡があった。獣では決してない逃げ去った後が。

 それで、今日の夜やってくるだろうと辺りをつけていた。

 怒り心頭なのだろう。

 放火は罪が重いから、馬鹿息子が自分でやることはないだろう。絶対子分にやらせる。大人数でくれば見つかるリスクが増えるから、少人数のはずだ。

 とにかく、火をつけられないことと、そんなことをしようとした人がいたという証拠で訴えるのが目的だ。


 暗いうちといっても、いつくるかはわからないので、交代制で眠る。

 わたしは3番目の班だ。眠くて起きるのが辛い。

 みんな目を擦っていた。

 でも一番辛いのは真ん中の班の子たちだよね。

 眠って途中で起きて、見張りして、また時間が来たら交代して眠るんだもん。

 真ん中はジークとモクとトールが名乗り出てくれた。

 おやすみと言って交代する。


 空が明るくなりかけている。星が薄い空に淡い光を放っていた。

 寒くてトイレに行きたくなりそうだ。

 外で待つことにしなくてよかった。

 ユーリは座ったままこっくりと船を漕ぎ出した。


「あ、いま音がした」


 イックスとレイが顔を合わせている。

 音のなる仕掛けが発動したみたい。

 くる、ね。

 人影は二人か? 

 窓からそっと見て、二つは確かめられたけど、わたしの息で窓が曇ってしまったので、それ以上見られなかった。


「外に出るぞ」


 と言われて、わたしは頷く。

 ユーリを起こす。

 今から外に出るけど、わたしが合図したら、大声でみんなを起こしてねと告げる。

 ユーリは覚醒して、不安そうに頷いた。

 イックスとレイとわたしで外にそろりと出る。


 暗さが薄らいでいるので、ふたりの男がこちらにそろりと近づいているのがよく見えた。

 あ、やっぱり。

 壁にオイルを撒いてる。

 もったいない!


「お前たち、なにしてる!」


 え?

 イックスだ。

 火をつけられたら消す予定だったけど、我慢ならなかったみたいでイックスが飛び出ていた。


「な、なんだ、起きちまったのか、運が悪いなお前」


 ニタリと笑う。

 レイがイックスの手を引く。

 ふたりの相手を太っちょがしている間に、痩せ細った人がマッチのような物を擦った。小さな炎をオイルをかけた壁に捨てる。

 ぼっと音をたて、火が大きくなる。


 鎮火!

 わたしは水魔法で火を消そうとした。

 まだいっぱい出せるわけではないので、チョロチョロと長いこと放出。

 なんとか消せた。


「お前なにしやがる!」


 首根っこを掴まれた。


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