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黒エルフの国ヴァレリッツ

「というわけで、黒エルフの国に乗り込んでエルフの女王アレキサンドラを助け出すという無謀極まりない依頼を出すことになったのですが」


 私はサラディンさんとミラさんに相談しました。依頼主はシトリンにしておきます。報酬は向こうから謝礼として受け取ってもらうことにしましょう。うちがお金を出す理由がありませんからね。


「ただ相手の国に侵入するとなったら、まず不可能だろう。そういう場合は陽動として軍による侵攻を行うぐらいしないと、とてもじゃないがその黒エルフが捕まえた敵国の女王の警護を手薄にすることは無いな」


 ですよね。でもギルドには軍を動かすような権力はありません。


「その助けを求めてきたエルフがなんか隠し通路とか知ってたりしない?」


「シトリンは見た感じそういう知恵が回るタイプではなさそうです。いきなり攻められたという状況から見ても、策があるとは思えません」


 仮にそんなものがあっても、ヨハンさんとシトリンでは実力的に実行不可能でしょうね。三人で頭を悩ませていると、ソフィアさんが事も無げに言いました。


「黒エルフの国を手薄にするのは可能ですよ」


 自信満々な様子。大帝国の皇帝陛下がそう言うなら、何か有効な手段を知っているのでしょうか?


「それは、どういう手段ですか? ギルドに可能な方法なのでしょうか」


 ソフィアさんは笑顔で言いました。


「その黒エルフの国の領地を開拓すればいいんですよ。今回エルフの国が攻められた原因がそれですから」


 冒険者が黒エルフの国の近くを開拓しにいけば、前回のサフィール達のように妨害しにきて国が手薄になるという寸法ですね。理屈は分かりますが、上手くいくでしょうか?


「出てこなかったらそのまま開拓を続けて黒エルフの国までいけば国の騎士団や兵隊が攻めることになります。我々にとっても楽に領地を広げられてお得です。アレキサンドラ女王には何の情もないので急ぐ必要もないでしょう?」


 確かに。おっとりしてそうな見た目なのにけっこうドライな考え方しますよね。皇帝の職責がそうさせるのでしょうか。


「エルフと戦うなら、また私の出番ですね!」


 ソフィアさんの後ろに控えていたアルベルさんがちょっと得意げに言います。最近活躍してるからか積極的ですね。活躍の理由が巨乳好きというのが残念すぎるのですが。


「それは無理ね~」


 そこに恋茄子がダメ出しをしました。何故でしょう?


「エルフと言えばアルベルさんじゃないですか。なんで無理なんです?」


「黒エルフは普通のエルフと違ってグラマーな体型が特徴なのよ~」


 はい無理!!


「ではアルベルさんは今回お留守番ということで」


「そんな!?」


 そんな話をしていると、ヨハンさんがシトリンを連れて帰ってきました。


「お帰りなさい、ヨハンさん。ちょうど今どうやって女王様を助け出すかの話し合いをしていたところですよ」


「どうすればいいっすか?」


 やる気満々のヨハンさんが食い気味に聞いてきますが、まだ具体的なところまでは決まってません。


「基本的にはギルドが黒エルフの国近くを開拓し始めて向こうの兵を出させ、その隙に少数精鋭で侵入するという流れになる予定ですが、そのために必要な情報が全然足りない状況です。シトリンさんに色々とお聞きしたいのですが」


 そう言ってシトリンを見つめると、彼女は緊張した様子で「はっ、はい!」と返事をしました。


「まず黒エルフの国はどこにあって、どの辺までを領有しているのですか?」


 シトリンの説明は要領を得ないものでした。予想していましたが。


「ええーっと、ヴァレリッツはジュエリアから北西の方にあって、ここからちょうど反対側にあるの」


 言葉ではよく分からないので地図を持ってきて彼女に指差して貰いながら位置関係を明らかにしました。ジュエリアはグラズク川の上流にあります。フロンティアから北東に600ギタールは離れているでしょうか。そこから更に北東に200ギタールほどのところにヴァレリッツがあります。ひと言で表現すると、凄く遠い。


「これは……陽動でどうにかするのは難しそうですね」


 確かに恋茄子がエルフの国はもっと森の奥にあると言っていましたが、思っていた以上にずっと奥の方にありました。そこまで開拓するのは年単位の時間が必要ですし、ハイネシアン帝国とも競合しそうです。


「なんでこんな遠くから開拓の邪魔をしに来たっすか?」


 私もヨハンさんの疑問に心から頷きました。


「エルフにとっては森を移動するのはそんなに大変じゃないからね」


 何故か胸を張って自慢気なシトリンですが、遠距離という以前の問題がありますよ。


「こんなに近い反対側に敵国があるのにこんな遠くに兵を出すから攻め落とされるんですよ」


「はうっ!?」


 ソフィアさんの正論に、シトリンがショックを受けた様子で崩れ落ちました。いちいちオーバーリアクションな子ですね。


「ところでこの北の方にある黒っぽいところは何があるっすか?」


 ヨハンさんがグラズク川の北、ハイネシアン帝国の南にある地図上の網掛け部分を指差しました。横に長く伸びていて、左右で色が違いますね。ヴァレリッツの北まで伸びています。


「そこは獣人のテリトリーだぬー。色違いなのは住んでる種族の違いだぬー」


 そこ出身のタヌキさんが補足します。そういえばタヌキさんはここからフォンデール王国までやってきたんですよね。もしかすると……?


「なら、獣人のテリトリーを通らせてもらうことって出来ないっすか?」


 ヨハンさんがタヌキさんに聞くと、タヌキさんはちょっと悩んでいるようです。


「うーん、出来ないことはないぬー、でもちょっと難しいかも知れないぬー」


 そして、今度はタヌキさんが獣人の森について説明を始めました。

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