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獣人のテリトリー

「獣人には国はないぬー。森の色んなところに固まって住んでるぬー」


 タヌキさんの仲間はネーティアの森の中でも西の方に固まって住んでいるそうです。


「でも、俺が住んでいた場所はタヌキとキツネが隣り合っていて、よく喧嘩してるぬー」


 タヌキさんは地図を指差しながら獣人のテリトリーを教えてくれました。


「色んなところに獣人のテリトリーがあるんですね。もしかしてこのブタって、オークですか?」


 大陸の東側にタヌキさんが示したブタのテリトリーを見ながら聞いてみます。ブタの獣人と言えばオークという印象ですが、タヌキさんは首を振りました。


「オークは別の種族だぬー。ブタの獣人はただのブタだぬー」


 そうなんですね。完全にオークをブタの獣人だと思っていました。ただのブタってなんとなく悪口感がありますが、そういう意味ではないんでしょう。


「オオカミの獣人はいないっすか?」


 ヨハンさんが目を輝かせて聞きます。興味深いですが、これはいつものカッコいいもの好きな態度ですね。


狼人ライカンスロープはモンスターだぬー。あいつらは獣人を襲って餌にするから危険だぬー」


 わお、それは恐ろしいですね。タヌキさんは思い出すだけで怖いのか少し震えました。


「オオカミが大人しくなったらイヌと変わらないからな。単に呼び方の問題だろう」


 サラディンさんの指摘。なるほど。


「ちなみにコボルトとイヌの獣人も別ってことで良いんですか?」


「そうよ~、コボルトはイヌっぽい顔をしてるけどイヌじゃないわ~」


 へー。あまり開拓が進んでいない地域のモンスターは情報も曖昧ですね。だからこそコウメイさんのような学者が重要なんですけどね。


「このネコの獣人が住んでる島が俺の故郷すよ。優秀なネコ忍者も沢山います」


 コタロウさんが大陸の北東にある島を指差します。ネコ忍者! 見たい!


 おっと、ついはしゃいでしまいそうになりました。


「モフモフ……」


 ミラさんが何やらうっとりした顔で呟きます。よく燃えそうとか思っているんでしょうか。獣人を燃やすのはやめてくださいね?


「それで、このタヌキとキツネのテリトリーを通るのが難しいのは、喧嘩をしているからか?」


 サラディンさんの質問に、タヌキさんが首を縦に振りました。


「そうだぬー。タヌキの獣人はキツネに化かされないように警戒してるし、キツネの獣人は他種族を一切信用してないぬー」


 キツネの獣人は幻術が得意で、よく姿を変えているらしいです。ミミックのような変身ではなく幻術なので実際には姿は変わっていないみたいですけどね。


「何とか話し合いが出来ないでしょうか?」


 ソフィアさんが話し合いを提案します。通りたいだけなので当然ですが、こちらが敵ではないことを獣人達に納得してもらうにはどうしたらいいものか。さすがに敵国に捕まった女王様の身の安全を考えるとあまりのんびりもしていられないでしょうし。


 ギルドとしてもエルフに恩を売る機会は利用しておいた方が後々いいことがありそうですからね。


「シトリンさん、ジュエリア以外のエルフの国は協力してくれないんですか?」


 恋茄子の話によれば普通のエルフだけでも複数の国家があるみたいですが、黒エルフを相手に団結したりはしないのでしょうか。


「えっ? それは……うーん、たぶん無理。一応サフィールが助けを求めに行ったけど」


 あ、あの隊長さんも生きてるんですね。まあ敵国が滅ぼされたところで助けになんか行かないですよね。せいぜい自国の守りを固めるぐらい。


「なんでそんなに薄情なんっすか? 仲間っすよね?」


「いや、敵同士。肌の色が一緒なだけで、むしろ黒エルフスヴァルトアールヴより他のエルフアールヴの方が仲悪いぐらいだもの」


 そりゃそうですよね。我々人間も人間同士争ってますからね。


「やはり、獣人の協力を得るしかないようですね。ポンポさん、ヨハンさんの手伝いをお願いできますか? タヌキ側はそれで話ぐらいなら出来ますよね?」


「それぐらいなら何とかできると思うぬー」


「私も行きます!」


 ソフィアさんが強く主張します。何か思うところがあるのでしょうか? 護衛のアルベルさんが黒エルフ相手では不安なのですが……まあさすがに恋人(ですよね?)の前で鼻の下を伸ばしたりはしないと信じましょうか。


「一応お聞きしますが、同行したいのは何故ですか?」


「それは、我がソフィーナ帝国も多くの獣人を奴隷にしているからです。この機会に獣人と友好関係を結べば、獣人の待遇改善に繋げられるのではないかと」


 奴隷の待遇改善……まさかソフィアさんがそこまで考えていてくれるとは、ちょっと意外でした。元々冒険者ギルドを作った理由でもありますからね、とてもありがたい考えです。


「分かりました。では護衛のアルベルさんと……あと、コタロウさんにもお願いしていいですか?」


 女王救出という任務を考えると、忍者のコタロウさんに同行してもらいたいですね。何となく忍者は色仕掛けに強そうな気がしますし。何となく。


「ええ、一緒に行きましょう」


 こうして、ヨハンさんとシトリン、タヌキさん、ソフィアさんとアルベルさんにコタロウさんというメンバーで獣人のテリトリーを通って黒エルフの国ヴァレリッツへと侵入することになりました。


「サラディンさん、ミラさん。他のメンバーはフロンティアへ向かって、そこからジュエリアへの道を切り拓いてください。少しは陽動になるでしょう」


「分かったわ!」


「森を焼いたらダメですよ」


「ええっ!?」


 なんで驚いてるんですか……まったく。


「サラディンさん、みんなをお願いしますね」


「ああ、任せておけ」


 ふう、やはり信用できるのはサラディンさんとタヌキさんぐらいですね。あ、コタロウさんも頼りにしてますよ。ちょっと普段の言動が微妙にズレているから心配なだけで。


 私はここから支援に徹します。指示を出す人間が自分で動いたら現場が混乱するとサリエリ先生から散々釘を刺されていますしね。


 だから、私に出来ることはみんなの支援と宰相閣下への説明だけです。


 頑張ってくださいね、皆さん。

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