目次
ブックマーク
応援する
いいね!
コメント
シェア
通報

北の帝国と暗黒神の使徒

失われたモフモフを求めて

「いざ、出陣!」


「お気をつけて!」


 意気揚々と出発するレナさん達を見送り、私はギルドの留守番を恋茄子に頼んで外出しました。行先は王宮です。さすがにギルドの冒険者がハイネシアン帝国に入るのを上に黙っているわけにもいきませんからね。闇エルフのことはクレメンスさんにだけ話しておきましょうか。


 それにしてもエルフの森は思っていたより複雑な世界でしたね。いくつもあるエルフの国に黒エルフと闇エルフが入り乱れていて、外からは分からない荒れようでした。その上ハイネシアン帝国は武力侵攻したり獣人を騙してさらったり……開拓も簡単にはいかないでしょうね。


「そうですか。闇エルフに協力したことは他言しない方がいいでしょうな」


 クレメンスさんは事情を聞いても眉一つ動かさずに言いました。さすが敏腕宰相。


「ハイネシアン帝国に潜入する冒険者には、かの国の首都ケストブルグがどのような防衛体制を敷いているのか調べてきてもらえますかな?」


 おや、なかなか過激な要望ですね。ハイネシアン帝国の首都を攻める可能性があるのでしょうか?


「分かりました。サラーフ・アッディーンに伝えておきます」


 サラディンさんもそのつもりでしたし大丈夫でしょうが、後で伝えておきましょう。


「それで、レナ殿は任務を全うできそうですかな?」


「きっと大丈夫ですよ、モフモフを求めてやる気に満ちてますから」


「そ、そうですか。例によって後方支援をよろしく頼みますよ」


「やあエスカ。息子のフィリップが開拓技能者組合に興味を持っているみたいでね。良かったら二人で食事でもしながら話をしてみないかい?」


「へ、陛下!? 申し訳ございませんが、私のような者よりフィリップ殿下とお話したい貴族の方は沢山おられるでしょう」


 クレメンスさんへの報告を終えると、何故か国王のオルレアン三世が王子と会わせようとしてきたので逃げるようにギルドへ帰ってきました。次期国王のフィリップ王子と二人で食事なんて、貴族のマナーもよく知らない私には無理です!


 王様は気さくでいい人ですけど、もうちょっと下々の人間との距離感を把握して欲しいですね。


「おかえり~」


 ギルドに帰ると恋茄子が歌っています。複数の冒険者パーティーが依頼を受けた形跡があるのですが、どうやっているのでしょう? 自分で頼んでおいてなんですが。


「それではレナさん達の様子を見ますか」


「ヨハン達は見なくていいの~?」


 さっそくうさちゃん助け隊の様子を見ようとすると、恋茄子が聞いてきます。いいんですよ別に。


「放っておいても大丈夫ですよ、コタロウさんとタヌキさんもいますし」


 一応管理板で確認したら全員生存していたので、そのままレナさんに追跡をかけました。


 どうやら海沿いに北上して今日はポストブートの町で一泊するようですね。アルストロメリアさんはいつもの真っ黒衣装を着ていますが、町の人は気にしないのでしょうか?


◇◆◇


「今日はこの町で泊まりましょう」


 ミラさんが他のメンバーに言います。サラディンさんとコウメイさんは同意して当然ですが、モフモフを求めるレナさんとアルストロメリアさんはごねる様子もなく首を縦に振ったのがちょっと意外ですね。


「無理して助けられなくなっても仕方ないですからね。奴隷として連れて行かれたなら差し迫った命の危険もありませんし」


「奴隷商人に売られて別のところに行ってたらどうするんです?」


 意外に冷静なアルストロメリアさんに、コウメイさんが質問しています。確かに、どうするのでしょう?


 するとアルストロメリアさんはフフフと悪そうな笑みを浮かべながら鏡のようなものを取り出しました。


「これはエレシュマ様から授かった星見の鏡です。探しているものがどこにあるのか、空から見下ろす風景で教えてくれます」


 彼女の言葉が終わるや否や、鏡に沢山の家が立ち並ぶ都会の風景が映し出されます。かなり栄えていますね。このフォンデール王国の首都であるアーデンと比べても、相当に洗練された雰囲気を感じます。人口も多そうですね。


「これはハイネシアン帝国首都のケストブルグです。ここが奴隷を集めて管理する建物になっています」


 その中心部にある大きな四角い建物を指差す闇エルフ。これはかなり便利な道具ですね。まさに神の奇跡というべきでしょうか。暗黒神ですけど。私の遠隔魔術では依頼を受けた冒険者の周辺しか見れませんから、比較になりません。どの辺が星見なのかはよく分かりませんが。


「ほう、これは便利な道具だな」


 サラディンさんが感心していますが、たぶん使用目的はアレでしょうね。コウメイさんは「モンスターも探せるんですか?」といつも通りマイペースです。


「慌てなくても大丈夫だねー。それじゃあおやすみ」


 出発時のやる気はどこへやら、レナさんはいつもの調子でさっさと自分の部屋に引きこもってしまいました。まあゆっくり休むのは大切なことです。長旅ですしね。


 こうしてうさちゃん助け隊の旅が始まったのでした。

この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?