目次
ブックマーク
応援する
いいね!
コメント
シェア
通報

水のダンジョン

 妙にダンジョンの話が出てくるから気になります。ちょっとハンニバル将軍のパーティーを追跡してみましょう。


 水の中のダンジョンというのも、なかなか面白そうですね。ちょうどユウホウさんが水の精霊に道を聞いているところです。


「ウンディーネ、この先はどう行ったらいいんだい?」


 そんな普通の会話的に話してたんですか? 神に近い存在なんだから、もっと仰々しい呼びかけをするのかと。私が精霊術を使った時はもっとこう……やめておきましょう、思い返しただけで恥ずかしくなってきました。


 ユウホウさんの呼びかけに応えて水の精霊ウンディーネが現れます。見た目は完全に美女の形をした水の塊ですね。透き通った美女と言った方がいいでしょうか。でも性別はないんですよね、水だから。


「えっと……分からない……です」


 ウンディーネはそれだけ言って消えてしまいました。ユウホウさんは水の精霊と仲が良いはずなので、本当に知らないのでしょう。


「精霊が分からないということは、このダンジョンは構造が変化するタイプだね」


 精霊が逃げてしまっても特に困った様子もなく、自信満々に解説しています。精霊術に長けていると精霊の反応から色々なことが分かりますからね。


「構造が変化するか。それではマップを作成しても無駄だな」


「そーんなときは! ステラちゃん特製、反響定位エコロケーション盤をどうぞ! 常に周囲の地形を映し出す優れものだよっ」


 ステラさんが魔法道具を出しました。どうやら円盤状の道具に周囲の地形が表示されるようです。すごく便利ですね。


「素敵な道具ですね! この赤い点はなんですか?」


 アルスリアさんが円盤に表示されている地図上で光る赤い点を指差しました。なんでしょう、あまり良いものには見えませんが。


「それはモンスターだよっ! 敵の接近も分かる優れもの☆」


「すぐそこじゃねぇかぁ! 戦闘準備ぃ!」


「大丈夫だ、この私に任せておきたまえ」


 ハンニバル将軍がパーティーの最前列に出ます。いくら強いからって、依頼主が未知の敵相手で前に出るのはどうなんですかね?


「正義の力を!」


 アルスリアさんが強化の術を使うと、全員の身体がほんのりと光り出しました。


「ウンディーネ、頼む」


 ユウホウさんはまた水の精霊に呼びかけます。そんな曖昧な指示でいいんですか!?


『キュッキュー!』


 曲がり角の向こうから、ゴムをこすり合せるような声を上げてモンスターが現れました。見た目は太くて短い蛇のような、何とも言えない形をしています。ハンニバル将軍とゲンザブロウさんが武器を構え、アルスリアさんが拳を胸の前に持ってきてポーズを取り、ステラさんがピンク色のファンシーなハンマーを鞄から取り出します。戦闘態勢に入ったようですが、ユウホウさんは……?


 バシュシュシュシュ!!


 次の瞬間、水で出来ている壁から突然無数の棘が伸びると、蛇っぽいモンスターを串刺しにしてしまいました。なんていうか、栗みたいな状態になりましたね。当然あっという間に絶命してしまいました。たぶんコウメイさんが見ていたら残念な悲鳴を上げるでしょう。


「えっと……水があればいくらでも……力を出せます……」


 ウンディーネが壁から顔を出して言いました。これは、他の人が戦う必要なさそうです。精霊術は相性が良いととんでもない強さになりますからね。


「やるじゃねぇかぁ!」


 ゲンザブロウさんが笑顔でユウホウさんと手を合わせます。このパーティー、まるで隙がありません。本当に放っておいてよさそうです。なんという安心感!


 コタロウさん不在の今、ゲンザブロウさんにはもっと働いてもらわないといけません。人間関係が不安でしたが、どうやらユウホウさんだけでなく上手くやれる仲間ができたようですね。


 あ、そうだ!


『突然すみません、ギルドマスターのエスカです』


「おお、賢者殿! どうなされた?」


 遠隔魔術で声を届けるのもハンニバル将軍は経験済みなので、スムーズに話ができますね。


『実は別のパーティーからの情報で、強力なモンスターがダンジョンを作り出すのにダンジョンコアという秘宝を使っているらしいんです。それっぽいものを見つけたら報告をお願いします』


「秘宝だってぇ!?」


 ゲンザブロウさんが食いつきました。目の輝きが三倍ぐらいになっています。ダメですよ?


「承知した。奪取はしなくても良いのですな?」


『ええ、それは別のパーティーの仕事になると思います』


 というわけです。ゲンザブロウさんには諦めてもらいましょう。新しい依頼を受けてまた来るかもしれませんけどね、人手不足なので。


「今回は偵察だからね。気になるならまた依頼を受ければいいさ」


 ユウホウさんがゲンザブロウさんの肩を叩きます。ゲンザブロウさんは肩を落とすかと思ったら、むしろ腕を挙げてやる気を見せました。


「よぉっし! さっさと調査を終わらせて、秘宝を探しに来ようぜぇ!」


 いいですね、その考え方。ちゃんとルールを守った上でやりたいことをやるのは冒険者としてとても好ましい態度です。他の二人もまた来る気満々の顔で頷いています。パーティー継続しそうですね。


 やはり、この人達のランクは上げておきましょう。この先もっと活躍しそうな予感がしますからね。


 さて、ソフィアさん達がムートンに着くのはまだもうちょっと先のようですし、今度はヨハンさんの様子でも見てみましょうか。


 ああ忙しい!

この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?