目次
ブックマーク
応援する
いいね!
コメント
シェア
通報

ムートンの勇者

 ヨハンさんは既にムートンへ到着しているようです。ちょっと到着直前から見ていきましょうかね。


「なんでエルフはそんなに仲の悪い種族が多いんっすか?」


 ヨハンさんがシトリンさんにわりと洒落にならない質問をしています。確かにエルフは人間やドワーフ、ブタと仲が悪い上にエルフの中でも黒エルフや闇エルフなど異端の種族を作っては戦争を繰り広げていますからね。人間も大概ですけど、種族として仲が悪いのはエルフぐらいなんですよね。


 そのエルフと人間が、実は他のどの種族よりも好意を持ちやすいのだそうで。メヌエットの言葉に嘘はありませんでしたし、実際ヨハンさんとシトリンさんとか、サフィールが何となくアルベルさんのことを気に入っている様子だったのも考えると、間違いないのでしょう。


「それはね、エルフがこの大陸の支配者だからよ」


 おっと、シトリンが予想外の角度から攻めてきました。


「そうだったんっすか!?」


 そうだったんっすよ。


 この大陸は大半がエルフの森に覆われてますからね。光明神トゥマリクの加護を受けた種族でもあり、彼女達は自らを最も高貴な種族だと言っています。色仕掛けしますけど。


「つまり、いつも高圧的に接しているから他の種族から嫌われるし、エルフもちょっとでも気に入らない要素がある相手とは仲良くしようとしないわけよ」


 なに冷静に分析してるんですか。分かってるならその態度を改めましょうよ……っと思いましたけど、よく考えたらシトリンさんはエルフに珍しく他種族と普通に接するタイプでしたね。そんな仲間達のことをどうにかしたいと思っているのでしょうか。


「ブタ族はどの神様の加護を受けてるっすか?」


「エロイゾン様よ。獣人は全ての種族が慈愛神の加護を受けているわ」


「人間は?」


「さあ?」


「なんで人間だけわからないんっすか!?」


「そんなの私が知りたいわよ!!」


 ですよねー。ソフィアさんも同じ話をしていましたけど、なんで人間はどの神の加護を受けているのか分からないんでしょうね?


「そんなわけで、ブタはたぶん私を見たら襲い掛かってくるわよ」


「大丈夫っすよ」


 ヨハンさんが根拠のない楽観をしています。でもこの調子で数々の困難を乗り越えてきたのだから、不思議ですね。


 さて、ムートンにやってきました。ムートンというのは大陸東側の山岳地帯を指す地名で、ブタ族のテリトリーのことではないんですよね。ムートンの外にもブタ族のテリトリーがありますし。


「人間とエルフが何の用だ!」


 はい。いきなりブタ族に取り囲まれました。ブタ族の見た目は、まあなんというか、そのまま直立二足歩行するブタさんですね。カリオストロともあまり見分けがつきません。違いは服装ぐらいでしょうか?


「ソフィーナ帝国に喧嘩を売ったって聞いたっす。ソフィアっちの友達として、どういうことか話を聞きにきたっす」


 ソフィアっちとか言ってもブタさん達には分からないですよ。


「なに!? お前はソフィーナ帝国の皇帝と仲が良いのか」


 知ってた!?


 そういえば帝国の宰相が来ているんでしたっけ。本当に、ユダの目的は何なのでしょう? ハイネシアン帝国の動きと連動しているようにも見えますし、もしや内通……?


「一緒にエルフの女王様を助けたりもしたっすよ!」


 取り囲んでるブタさん達は大きな斧を手に持っているのですが、ヨハンさんは平気な顔で胸を張ります。本当に大丈夫なのでしょうか。


「その女王様の国がジュエリアで、私はジュエリアのエルフよ。その縁で皇帝さんとは確かに交流があるけど、ソフィーナ帝国と同盟を結ぶなんて話は聞いてないわ」


 シトリンさんがここぞとばかりに説明をします。ムートンのブタ族はその件で帝国を非難していましたから、誤解が解ければとりあえずは敵対せずに済むはずなのですが。


「証拠もなくそんなことを言われても信用できない。むしろそれなら二国が同盟を結ぶのは自然な流れではないか」


 ブタさんのリーダー格っぽい人が言います。そうですね、まったくその通りだと思います。ところで、カリオストロみたいにブーブー言わないんですね。


 ユダのことを伝えたいところですが、これは過去の映像なので干渉できないんですよね。もどかしいです。


「ところで、なんでソフィアっちがエルフの国に行ったことを知ってるっすか?」


 おお、ヨハンさんにしてはしっかりと大事な点を押さえた質問をしていますね。そこが一番の謎ですもんね。


「ふふふ、わざわざ教えに来てくれた人間がいるのだ」


 得意げに鼻を鳴らすブタさんです。ユダのことですね。


「その人間のことはなんで信じてるっすか? なにか証拠があるっすか?」


「えっ?」


 ヨハンさんのツッコミに、ブタさんが驚いた顔をします。えっ、そこは疑うことなく信じちゃったんですか? さっき証拠もなく言われても信用できないって言ってましたよね?


「そういえば、なんで信じたんだっけ?」


「なんでだろう?」


 ブタさん達が顔を見合わせて話しています。なんですかこの雰囲気。なんだかとても残念な空気を感じます。


「ブタ族は頭が良くないからね~」


 恋茄子が言っちゃった!!

この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?