ヨハンさんとシトリンさんはユダを追ってカーボ共和国に向かうようです。多くのブタさん達は二人の話を聞いてくれましたが、長老がエルフと会うことを拒否したので、ブタ族全体の方針に影響を与えることはできなかったようです。イベリコさんに気に入られたので収穫はありましたが、ヨハンさんの当初の目的は果たせませんでしたね。
「こうなったらそのおっさんを捕まえるっす!」
なんとヨハンさんはイベリコさんに男性の似顔絵を描いてもらいました。妙に上手い似顔絵は、やはり偽皇帝騒動の時に見た宰相そっくりです。ヨハンさんも会っていたのですが、覚えていないようです。
「船に乗るのは初めて!」
シトリンさんはカーボ共和国に向かう連絡船を見てはしゃいでいます。大丈夫でしょうか? ブタさん達はそんな彼女を特に気にした様子もなく荷物を積載しています。
ソフィアさん達がムートンに到着するのはどう早く見積もっても一週間は先です。クレルージュから帝国内を移動して、途中で海を渡り、大陸の東端を北上するルートですからね。そう考えると、ユダはかなり前から偽者と入れ替わっていたようですね。メヌエットと知り合ったのは偽者騒ぎの時なのでしょうか?
◇◆◇
さて、ヨハンさん達が船に乗り込んだので、ソフィアさん達の様子でも――。
「エスカさん、ユウホウからの伝言ですよ。ダンジョンコアを見つけたそうです」
急に優しげな声で話しかけられ、冒険者管理板を操作する手を止めて顔を向けました。そこには長い銀髪が特徴的な若い女性……の姿をした精霊が立っていました。風の精霊シルフさんです。これは精霊術の一種である『
「あら、これはシルフさん。伝言ありがとうございます」
シルフさんは風の精霊なので、活発で意地悪な性格だと誤解されがちですが、とても穏やかで優しい性格をしています。神話によると慈愛神エロイゾンの体毛から生まれた存在だとか。
「それでは、ごきげんよう」
シルフさんは優雅に消えていきました。それではダンジョンコアとやらを見せてもらいましょうか。まさかボスを倒して奪ったりしていませんよね?
◇◆◇
「賢者殿に伝言は届いただろうか」
「シルフから伝えたって連絡が来たから大丈夫ですよ」
心配そうに言うハンニバル将軍と笑顔で伝えるユウホウさんがいます。やはり見つけたから連絡してきたんですね。
『伝言を聞きました。ダンジョンコアはどちらですか?』
「あれだぜぇ」
遠隔魔術で声を届けると、ゲンザブロウさんが前方を指差します。そちらの方に視界を向けると、なんと水の壁に囲まれた部屋の空中に巨大な魚が泳いでいます。その姿は神話にある『創造神ソクレース』を思い起こさせますが、大事なのはそちらではなく、部屋の中央付近に浮かぶ、光を放つ球体です。確かに、いかにもそれっぽい代物ですね。あれがダンジョンコアだとはどこにも書いてありませんが、見ただけで察することができます。とはいえ念のために私のギフトで
☆ダンジョンコア
ダンジョンを作り出しているモンスター。ダンジョンコアはダンジョンの中で最も力を持つ存在である。ダンジョン内に出現するモンスターはダンジョンコアが自らの持つドンケルハイトを捧げて破壊神より購入したもの。ドンケルハイトは宝を出現させたり罠を設置することにも使われる。
説明がこの後も長く続きますが、この時点で私の頭の中は「?」でいっぱいになっています。
えっ、ダンジョンコアってモンスターなんですか? 秘宝とか言ってませんでしたっけ? メヌエットが間違って理解しているのでしょうか。それにモンスターを破壊神から購入? テュポーンが「まいどー」とか言ってモンスターを売ってるんですか? ドンケルハイトってモンスターのお金みたいなものでしょうか。
まったく意味が分かりませんが、ダンジョンコアがモンスターだと言うなら、これは盗賊よりも学者の出番です。具体的に言うとコウメイさんを呼んでくるべき案件ですね。
『ええと、どうやらダンジョンコアはダンジョン内で最も強いモンスターのようです。我々がボスと呼んでいたモンスターは、ダンジョンコアに破壊神が授けた側近のようなものみたいですね』
「あれがモンスターなの!? ただの光る玉じゃん!」
ステラさんが
「なんだぁ、モンスターかぁ」
『露骨にがっかりしないでくださいゲンザブロウさん。あいつがダンジョンの中に宝を出現させているみたいですよ』
「な、なんだってぇ!? 捕まえたらお宝取り放題じゃねぇかぁ!」
おっと、とんでもない可能性に気付いてしまいましたね。スライムを飼い慣らして魔宝石を生産するコウメイさんにまた国から依頼が来ますね。
「そんなものを飼い慣らせたら、国家間で取り合いになりますな。間接的にダンジョンを管理するだけでもかなりの利益が得られるのだから」
ハンニバル将軍が考え込みながら言います。そうですね。この秘密を知ってしまったらハイネシアン帝国が猛烈に攻めてきてもおかしくありません。むしろカーボ共和国が暗躍するかも?
「戦争の火種になるようなものは破壊してしまった方がよろしいのでは?」
アルスリアさんが穏便なような過激なような何とも言えない提案をしますが、どうあがいても欲の皮が突っ張った貴族達がダンジョンコアを見逃すはずがありません。
「飼い慣らせない場合は倒さずに放っておく方が良さそうだね」
そうですねー、ユウホウさんは現実的ですね。たぶん破壊神と直接取引できるほどの特別なモンスターは飼い慣らせないと思いますし。
『いずれにせよ、ダンジョンの調査は成功ですね。皆さんは帰還してください』
ハンニバル将軍のパーティーは無事任務を達成して帰還するのでした。ずいぶんと色々なことが分かりましたね。