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天人の侵攻

 現在はソフィアさんもヨハンさんも移動中ですしコタロウさんの方にも動きはありません。ハンニバル将軍の持ち帰った情報とメヌエットから聞いた話をめぐって、フォンデールの王と貴族達が会議をしているようで、そちらも動きがないようです。


 コウメイさんはダンジョンコアの話を聞いて目を輝かせたと思ったら、ダンジョンコアよりもその情報を伝えてきたメヌエットの『デビリッシュ』という種族に興味津々のようです。


「ミラさん、今日の処理件数はどうですか?」


「二十三件ね。まあまあってところかしら」


 ギルドとしては通常の開拓業務も請け負う冒険者が増えてきたのでかなり忙しいですが、ミラさんが受付の手伝いをしてくれるので助かっています。ミラさんはサブマスターなので元々そういう役割も担っているのですが、冒険者が少ないうちは戦力として頼ることが多かったので本格的に受付をお任せするようになったのは闇エルフの件が終わってからですね。


 サラディンさんは未熟な冒険者に剣技を教えています。ここでの一番弟子であるヨハンさんが活躍しているので、サラディンさんに師事したい人が凄く多いんです。中には大貴族のお子さんもいたり。


「大変よ!」


 そして前にも見たような慌ただしい様子で現れるベルウッドさん。彼女が大変というからには、何か世界的なニュースが舞い込んできたのでしょう。


「今度は何があったの?」


「黒エルフのヴァレリッツに続いて、ネーティア最大の国家トレフェロがイーリエルに制圧されたわ!」


「トレフェロが!?」


 トレフェロとは、ヴァレリッツよりも北の方にあるエルフの国です。ジュエリアの件以来、ネーティアにあるいくつかの国家の存在がわかったのですが、トレフェロはフォンデール王国とは距離が遠いこともあってエルフの国の中ではかなり友好的に取引をしていた相手でもありました。


「順番がおかしくない? 北の帝国から南のカーボ共和国に向けて侵攻しているのに、なんで先にヴァレリッツを攻め落としたの」


 ミラさんが不思議そうに言います。そうですね、地図で位置関係を見るとよくわからなくなるのですが、それには理由があります。


「ネーティアの森は光明神の加護により、巨大な迷路になっている。エルフの導きがなければ、決まった方向へまっすぐ進むことはできないんだ。エルフを完全に敵に回しているハイネシアン帝国から南東を目指すと、トレフェロより先にヴァレリッツに辿り着くというわけだ」


 おっと、私が説明しようとしたらちょうどやってきたサラディンさんに先を越されてしまいました。この辺の話はジュエリアのエルフから聞いたのですけど。


「そういうことですね。我々はたまたまシトリンさんやサフィールさん、アルストロメリアさんといったエルフの方と共に森を進んでいたので迷うことはありませんでしたが、イーリエルを導くエルフはいないようです」


 イーリエルは移動速度から考えて空を飛んで侵攻しているようですが、それでも光明神の力には逆らえないのでしょう。


「トレフェロのエルフはどうなった?」


 サラディンさんは今回も攻め落とされた国の民のことを心配しています。そういえば逃げた黒エルフはどこに行ったのでしょう?


「ちょっとまってね」


 聞かれたベルウッドさんは、鞄からなにかの本を取り出すとページをめくり始めます。これは彼女が作った魔法の道具みたいですね。彼女が開くと欲しい情報が書き込まれる仕組みのようです。これで世界のニュースを知っているんですね。これって、よく考えたら物凄いアイテムなのでは?


「何人か戦死したみたいだけど、多くのエルフは捕まって帝国に連れていかれたみたい。……あれ? なにかしらこれ」


 ベルウッドさんの返答は予想通りといったところですが、何か気になることがあるようです。かなり困惑した表情をしています。


「どうしました?」


「男のエルフが見つかったとか」


 へ?


「そんなのがいるんですか? 恋茄子は知っています?」


「噂には聞いたことがあるわ〜、エルフは男を取り合って戦争してるとか〜」


 なんですかそれ。なんだかエルフのイメージが色々と変わってきましたね。


「女だけでは子供が作れないし、人間との間にはハーフエルフが生まれるから、種の存続としては死活問題なんですよ」


 そこに、想像もしていなかった人物が口を挟んできました。いつの間にギルドの中へ入ってきたのでしょう?


「あなたは、アンチモン!?」


 そう、そこにいたのは黒エルフの女王に側近として仕えていたアンチモンという名の黒エルフでした。


「黒エルフか。ハイネシアン帝国が攻め入る前に逃げたそうだが、住む場所はあるのか?」


 彼女達の身を案じていたサラディンさんが尋ねます。ちょっと不安なのでギフトで確認しましたが、アルベルさんと違って黒エルフの色香に惑わされたわけではないようです。よかった。


「心配していただき、ありがとうございます。女王を始め我等スヴァルトアールヴは皆新しい土地で生活をしております。今日はそれと関連して、ギルドマスター様にお願いしたいことがあり伺わせていただきました」


 スヴァルトアールヴはエルフ語で黒エルフの意味でしたね。どんなお願いでしょう?


 以前怖がらせてしまったので、彼女達の話は聞いておこうと思います。魔王呼ばわりされると困りますからね。


「ねえねえ、男のエルフってどんな姿なの?」


 しかし、ベルウッドさんが男のエルフについて聞きたいようです。ミラさんも興味津々の顔をアンチモンに向けていますね。気分を害されたりしないでしょうか?


「女のエルフとそれほど変わりはありませんよ。エルフ全体にとって男エルフのことは表立って言いづらい話題なので秘密にされていましたが、それは性的なことをわざわざ発信しないという程度の問題です」


 なるほど。二人も納得した様子で頷いています。


「それで、お願いとはなんでしょう?」


 改めて、私から聞いてみました。

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