コタロウさんの様子を見てみましょう。
コタロウさんは地下牢のようなところに入れられています。改めて見ると、牢屋の中は意外と広く、家具なども揃っていて生活するのに支障はないようです。頑丈な鉄格子と石壁がどんな盗賊の脱出も許さないという強い意志を感じさせる以外は、中にいる人を苦しめるつもりはなさそうです。
仲間に入れようとしているわけですし、あの皇帝もコタロウさんを気に入っていたようですからね。当のコタロウさんはベッドの上で足を組んで座っています。瞑想をしているようですが、忍者の修行か何かでしょうか?
そこに看守がやってきました。コタロウさんに用があるというわけではなく、後ろに連れている人物を隣の牢に入れるのが目的です。新しい囚人は両脇をハイネシアン兵にがっちりと固められ、反抗できない様子。その髪は長い金髪で透き通るような白い肌に青い目、そして尖った耳を持つエルフでした。
そうです、話題になっていた男のエルフがここに連れてこられたのです。恐らく理由はコタロウさんと同じようなものでしょう。なおこれは今起こっている出来事ではなく、私が管理板のログを見てコタロウさんの身の回りに発生した出来事を選んで見ています。噂のエルフが隣に入ったということなので確認してみました。
「仲間ができて良かったな」
看守はコタロウさんに向かってそれだけ言うと、ハイネシアン兵達と共に部屋を出て階段を上っていきました。出入口さえ見張っておけばいいという、牢に対する絶対的な信頼があるのでしょう。これは付け入る隙がありますね。
私が空間転移をしてコタロウさんを連れ出せればいいのですが、さすがにこの距離を往復するのは厳しいです。私一人ならできますが、コタロウさんを連れて移動するのは無理がありますね。城の外に標的となる協力者がいれば、そこまで人を連れて転移することも可能でしょうけど。
「……あなたは、なぜ捕まっているのですか?」
帝国の人間が近くにいなくなったのを確認すると、エルフがコタロウさんに話しかけてきました。この方はトレフェロで捕まったのでしょうけど、なぜここに閉じ込められたのでしょう?
「広間の天井裏にいたら見つかってここに放り込まれたんすよ。そっちはどうしたんすか?」
コタロウさんが目を閉じたまま答えます。目を閉じているから相手が男のエルフだと気付いていなかったりして。気付いていても特に反応しなさそうですけど。
「私を閉じ込めていた国が攻め滅ぼされたんですよ。助け出されたかと思ったら、牢から牢へ」
ほほう、このエルフさんはトレフェロでも閉じ込められていたんですね。話によると男性の存在は隠されているそうですから、あまり扱いは良くないみたいですね。
「なんで閉じ込められてたんすか?」
コタロウさん、さっきからずいぶんとフレンドリーな対応ですね。牢屋のお隣さんだと親近感が湧くのでしょうか? いや、彼のことだから相手から情報を聞き出すために意図してやっているのでしょう。忍者は情報収集が主な仕事って前に教えてもらいましたし。
「私が国で唯一の男だから、子作りのためですよ。変な病気がうつらないように三か月かけて身を清めた女がやってきて、相手させられるんです。こちらから女の身体を触れることは許されません。ただ子を作るためだけの道具としてずっと拘束されていました……本音を言うと、あの国が滅んで清々していますよ」
うわあ……あまり聞きたくない話でした。最後の言葉を吐き捨てるように言うエルフさんでしたが、そこでコタロウさんが目を開き隣の部屋に顔を向けて聞きました。
「だったらなぜここに連れてこられた時、二人がかりで押さえつけられていたんすか?」
あ、見えてたんですね。あるいは気配か何かを感じ取ったのでしょうか。
「私を地下で見つけた天使のような女性が言っていました。『あなたは貴重な存在なのでエルフとの交渉材料にする』と。それでちょっと反抗的な態度を取ったら兵士達に取り押さえられまして」
ハイネシアン帝国って交渉するんですか? 問答無用で侵略するイメージしかないんですが。私はてっきり帝国でも奴隷のエルフと子作りさせるために捕まえたのかと思っていたのですが。
「なるほど」
コタロウさんはそれだけ言うと、聞きたいことは聞いたのか黙ってしまいました。せめてお互いの名前とか聞かないんですかね? エルフさんの名前が分からなくてモヤモヤするんですけど。ギフトで調べられますけど。
「あの、あなたのお名前を聞いてもいいですか? あっ、私はロランと言います」
とか思っていたらロランさんが自分から言ってくれました。なかなか壮絶な人生……エルフ生? を送ってきたようですが、女嫌いになったりしていませんかね?
「俺はコタロウです」
こうして、ハイネシアン帝国の牢屋でコタロウさんが知り合いを増やしていました。この情報もサラディンさん辺りと共有して何かに活かせないか相談してみましょう。
さて、ソフィアさんがムートンに着くのを待ちましょう。