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草原の国、ヒーサヤングとコリーン

第69話

アインスとカブルは、部族のところで話があると言い、メインたちを先に行かせることにした。

メインは、アシュラン、レンカを伴って、次の国へ行くことになる。まだ見つけたばかりの花のことを知りたかったが、これはアインスの仕事なのだろう。もしかしたら、とメインは思うところがあったのだが、アインスが行けと言ったのだから、行かねばならない。彼との関係はそういうものなのだ。預言者であるシュヴェルナがメインたちに馬を与えてくれた。

「この馬は差し上げるわ。次の国に行って、不要になったのなら売れるはず」

山で育った馬は、足腰が強く、勘も鋭くていい馬なので、高値が付くという。シェヴェルナは、まるですべてを知っているかのような目で、メインを見つめていた。出立の準備をしている際に、シェヴェルナはアシュランに話しかける。

「いいものが見つかったようね」

「別にそんなもんはなかったぞ」

「そうかしら。国花選定師がどんなものなのか、目の当たりにできたのではなくて?」

自然と同調し、自然とともに生きる。眠りにつく山と同調し、山の呼吸に合わせて眠りについたメイン。それが能力だとしても、もしもそこに彼女以外の人間がいなかったなら、彼女は死んでいたかもしれない。

「別に。それがいいモンだとは思えなかったけどな」

「仕方がないわ。国花選定師とはそうやって生まれるもの。そうやって、生き続ける者よ」

「まあ、俺には関係ねぇけどよ」

国花選定師のことなど、自分に言われてもどうすることもできない。だからこそ、アシュランはあの小さな存在をどうするべきなのか、答えが出せずにいた。

「……あなたの父親は、ある国の騎士だったわ」

「おい……」

「金色の髪に赤い瞳。伝説の魔女を討つ一族の騎士。あなたにはその血が流れていて、魔女を討つために生まれてきた」

そこにあったシェヴェルナの目は、まさに預言者の目であった。美しいというよりは、すべてを見透かすような、見透かされているような、不穏な印象を受ける目だ。息を飲んだアシュランは、自分の出生に何があるのか、と思ってしまった。

「お、俺は……!」

「あなたは魔女を討つ手立ての1つ。いずれその時が来れば、必ずわかる」

「わかるって……」

「その時まで、国花選定師の側にいることよ」

シェヴェルナはそれ以上を語ってくれることはなかった。自分のことを話されたアシュランであったが、それを受け入れられるほどすべてを理解できたわけではない。彼にとって、自分の出生は知りたいことのはずであったのに―――騎士の息子であり、魔女を討つと言われても理解ができない。そもそも、魔女という存在について、彼は詳しく知らないのだ。



次の国を目指し、レンカが地図を広げた。そこには広大な草原が広がっている。

「馬で駆ければ1日で次の国に入ることは可能だが……」

「そんなに近いんですか、レンカさん」

レンカが見ている地図をのぞき込み、メインは尋ねた。するとレンカは地図を指さし、説明をしてくれる。

「草原の国は、この近辺での国土が最大です。しかし王城は、草原の先にあり、そこまでが遠いかと」

「つまり、草原地帯はすでに次の国だけれど、実際に王都は遠くにあるんですね」

「はい。そこに行きつくまではなかなか骨が折れるかもしれません」

我慢強いレンカが骨が折れる、と言った理由。それをメインは草原地帯に入り込んで理解することになる。


草原地帯は、本当に広大な草原地帯であった。見渡す限り、何もない。人を惑わすと言われる【魔の草原地帯】でもあった。何もなさ過ぎて、人が迷う。動物の勘もおかしな方向に向く、と言う。また突然現れる湿地帯に足を取られ、命を落とす生物も多い。人間だけでなく、生物全般がこの草原では命を落としているのだ。

「すごいですね、向こうまで見えるけれど、草原以外何もない」

「湿地帯は年々増えているようです。中には底なし沼もあるとか。メイン様、気を付けて進みましょう」

「そうですね」

メインとレンカは会話を繰り返していたが、アシュランはずっと黙り込んでいる。レンカからすれば、また柄にもなく何かを思い悩んでいるのか、と思ったが、人にはそんな時間も必要だろう、と思う。しかし、この傭兵崩れの男は、いつまで立っても前を向かない。面倒なことになると困る、と思ったレンカは、アシュランに対して喝を入れることにした。

「アシュラン」

「なんだよ」

「先に進むぞ。覚悟はいいのか」

「別に」

「なんだ、その不貞腐れた態度は!」

男たるものそんな態度ではならん、とレンカは思ったのだが、アシュランはそんなこと気にしていない。新しい国に入れば、新しい出会いがある。前の国は自分の出生に関わる場所であったようだが、明確にどういうことになっているのか、彼自身はまだ受け入れられていないのだ。

「べっつに!レンカには関係ねぇだろ!」

「レンカ様と呼べ!」

いつも繰り替えされる子どもの喧嘩。それでも2人は向き合い、その拳を突き付けて、相手にまっすぐであった。それに気づいているメインは、もう止めることはない、と思う。しかし、その瞬間。馬に乗っているメインの足が何者かに引っ張られ、彼女は地面に落ちた―――正確には、地面が急に湿地帯になり、そのまま沼になって彼女を引きずり込んだのだ。

「メイン!!」

アシュランの声が響いた時はすでに彼女の姿はなかった。その姿がなく、馬がそこに佇むだけ。

「行くな、アシュラン!こんなことができる人間は、そういない!魔術師かもしれん!!」

「でも、メインが……!」

沼は波紋を少しだけ残すばかりで、レンカとアシュランがやっと入れる程度の大きさしかない。だから馬は落ちなかったのだ。

「どうすんだよ!」

「……仕方あるまい」

「は?」

「泳げ、アシュラン」

「……は?」

「メイン様の行き先をわかるのはお前だけだ。契約があるからな。契約の示す方向へお前が泳いでいくんだ」

「なんで俺なんだよ!?」

「お前は泳げんのか!?」

そんなことを論争しているわけではなかった。しかしアシュランはこの沼へ入り、メインを追いかけるという自信がなかったのだ。山で育ち、拳で生きてきた彼にとって、沼に潜り込むことは未知の世界すぎた。

「お、泳げる……」

「俺は馬と荷物を持って、とにかくこの草原を抜ける。その先で落ち合おう」

「ど、どうやって……」

「メイン様が戻ればできるはずだ」

各省の無いことを言われたのだが、アシュランはそれを信じるしかなかった。


持っている荷物を馬に乗せ、アシュランは沼に入り込む。

真っ暗な沼の中を、彼は進む。


メインの気配を探して―――



一方、沼の中に引きずり込まれたメインは、一瞬視界が真っ暗になったかと思えば、今は周囲を湿地帯の植物に囲まれた場所にいた。ここはどこなのか、と考えて見回しているが、恐怖は感じない。

「あのぉ」

声をかけられたので、驚いてみれば、そこには不気味な格好をした男が立っている。緑色に変色した髪を見て、メインはそれが何かしらの病気か、魔術の類ではないか、と思う。

「あのぉ、お嬢さんは国花選定師ですよねぇ?」

見た目は魔女のようなのに、声は立派な男だ。白い肌、長く伸ばした爪を見る限りは魔女と見紛うところだが。

「は、はい……」

「よかった!間違えじゃなかった!」

「えっと……」


「俺はこの国の国花選定師、ヒーサヤングと言います」


この人が国花選定師?とメインは不思議に思う。今まで見てきたどの国花選定師よりも、見た目がややおかしい気がしたのだ。


きっと、緑の髪のせいだ―――メインはそう思うことにする。


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