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巻ノ百二十八

               巻ノ百二十八  真田丸の戦

 家康の前での軍議が終わった後だ、前田家の陣では主の前田利常が過労の本多政重に対して言っていた。

「さて、まずはな」

「大御所様の言われた通りにですな」

 政重も応えた、見れば兄の正純によく似た顔である。

「攻めぬ」

「そうしようぞ」

「はい、それがしもそう思います」

 政重は主に同意して頷いた。

「やはりです」

「この度はじゃな」

「大坂城は天下の堅城、下手に攻めてもです」

「攻め落とせぬな」

「ですから」

 それでというのだ。

「今はです」

「下手に攻めずにな」

「はい、囲んだままでおり」

「そしてな」

「あちらが下手に動くかです」

「大御所様のお言葉があればな」

 その時はというのだ。

「我等も動くべきだが」

「はい、ですがそれがないので」

「今は動かぬ」

「それがよいかと、ただそれがしが気になるのは」

 それは何かとだ、政重はその目を鋭くさせて主である利常に話した。

「真田丸ですが」

「そしてあそこにいる真田家のか」

「そうです、真田左衛門佐殿です」

 幸村、彼だというのだ。

「あの方です」

「やはりあの御仁か」

「はい、真田家はこれまでも天下にその戦振りを知られた家で」

「左衛門佐殿もな」

「かつて上田城の二度の戦があり申す」

 政重が主に言うのはこの戦のことだった。

「その戦を見ていますと」

「何をしてくるかわからぬな」

「迂闊に攻めれば、ですから」

「今は陣に篭ってな」

「動かぬべきです」

「そして大御所様がじゃな」

「必ず策を仕掛けられます」

 大坂城、何よりもその中にいる茶々にというのだ。

「ですから」

「我等が動くことはない、してじゃ」

 今度は利常から政重に言ってきた、祖父譲りの面長で整った顔が前田家伝来の細長い兜に実に似合っている。

「左衛門佐殿へはじゃな」

「はい、兄上もですが」

「文を送ってか」

「幕府に来られることを誘っています」

 つまり寝返りをというのだ。

「信濃一国を出して」

「ほう、信濃一国をか」

「はい、そうしていますが」

「それでもか」

「全くです」

 それこそというのだ。

「返事がありませぬ」

「そのつもりはないということか」

「左衛門佐殿には」

「高潔で無欲な御仁と聞いておるが」

「信濃一国ともなれば」

 それこそとだ、政重は話した。

「尋常なものではありませぬ」

「国持大名じゃしな」

「そうなれば官位も相当なものになりますが」

「それでも左衛門佐殿は首を縦に振られぬ」

「そうです」

「ではな」

「はい、諦めるべきでしょうか」

 政重は利常に無念そうに述べた。

「兄上もどうやらです」

「もうこれは爆hにはつかれぬとか」

「思われている様ですし」

「ならばな」

「もう真田殿への調略は止めて」

「戦に専念するか若しくはな」

 利常も鋭い顔になり政重に話した。

「他の御仁じゃ」

「他の将帥に仕掛けますか」

「若しくは兵達にな」

「兵達は次々と夜に城を出てこちらに加わっております」

 大坂方の兵達はというのだ。

「城の中の士気はどうにも」

「振るわぬか」

「やはりそうかと」

「前からその話は出ておったがな」

「噂通りにです」

「士気がある者もおるな」

「それは確かな将に率いられている兵達だけです」

 そうした者達に限られているというのだ。

「その左衛門佐や後藤殿、長曾我部殿といった」

「そうした御仁に率いられている者達の士気は高くてもじゃな」

「しかし多くの兵達は」

 豊臣家の者達はともかく他から来た浪人達はというのだ。

「士気が振るいませぬ」

「そうか、ではな」

「はい、大御所様の言われる通り」

「ゆうるりと囲んでおくか」

「兵達の英気を養いつつ」

 主従でこう話してだ、利常も政重も攻めるつもりはなかった。だがその彼等の陣中で不意におかしな動きがあった。

 兵達即ち足軽達の中にだ、こんな噂が流れていたのだ。

「攻めるだと」

「そうらしい、明け方にはな」

「大坂城の出城を攻めよとのことじゃ」

「真田丸というあの出城をな」

「殿がそう言われているそうだ」

「いや、大御所様がらしいぞ」

 こうした噂が出ていたのだ。

「それはまことか」

「まことらしい」

「すぐに戦にかかるべきじゃ」

「真田丸を攻めるぞ」

「そうするぞ」

 こう話してだ、そのうえでだった。

 彼等は不意に動き出した、しかも率いる騎馬の者達もいた。これは前田家だけでなく他の家の者達もだった。

 動きだした、この動きを幸村は夜に聞いてだ。

 そのうえでだ、確かな笑みを浮かべてさらに命じた。

「では築山に敵が砦を築こうとしておるな」

「次はですな」

「あの砦を焼く」

「そうしてですな」

「そこからさらに引き寄せるのですな」

「この真田丸に」

「そうじゃ、皆鉄砲と弓矢の用意をせよ」 

 この二つをというのだ。

「そしてじゃ」

「敵が来ればですな」

「散々に破る」

「そうするのですな」

「そうじゃ、そして敵軍を乱し惑わしている十勇士達はじゃ」

 それぞれ敵兵に化けて分身まで使って各軍をしきりに煽り動かしている彼等はというと。

「この真田丸での戦が起こる時はじゃ」

「真田丸に戻り」

「そうしてですな」

「さらに攻めさせる」

「そうさせるのですな」

「そうじゃ」 

 手筈通りにそうさせるというのだ。

「よいな」

「はい、わかり申した」

「では十勇士達にはそう命じて」

「そしてですな」

「砦での戦の時は」

「思う存分戦ってもらう」

 敵の軍勢を惑わし乱しそうして真田丸に寄せてというのだ、見れば多くの軍勢が真田丸に引き寄せられている。夜の中幾万もの軍勢が動いていた。

「そうしてじゃ」

「攻め寄せてきた敵を散々に破り」

「そうしてですな」

「そこで勢いを作り」

「茶々様に申し出て」

「外にうって出るのですな」

「そうする、敵が大砲を出す前にじゃ」

 まさにその前にというのだ。

「よいな」

「はい、外に出ましょう」

「そして砲撃をはじめる前に城の周りの敵を打ち破り」

「そうしてですな」

「大御所様の御首を」

「取るぞ、取れずとも城を囲む軍勢を散々に破って近畿を手に入れられれば」

 当初幸村が考えていた通りにだ。

「そこから天下を二つに分けられる」

「そして豊臣家を天下人に戻せる」

「それが出来ますな」

「そうじゃ、その第一歩じゃ」

 今からはじまる戦がというのだ、こう話してだった。

 幸村は築山の砦を焼かせる者達も送った、真田の者達は武士であり忍でもある。その者達がであった。

 密かに真田丸を出て築山に寄り派手に火薬を使って爆発させて焼いた、その火柱は秀忠の本陣からも見えた。

 火薬の爆音に驚いた秀忠は驚いて飛び起き即座に具足を着けて山の方を見た、そして夜の闇の中に燃え上がる砦を見て言った。

「まさかとは思うが」

「はい、これはです」

「築山の砦が焼かれております」

「おそらく真田の者がやったのでしょう」

「あの山から真田丸は目と鼻の先故に」

「上様、大変です!」

 旗本が一人慌てて本陣に駆け込んで言って来た。

「前田家、越前様、そして他の家の軍勢が一斉に真田丸に向かっております!」

「何っ!?」

 秀忠はその報にも驚いて言った。

「馬鹿な、その様なことが」

「大御所様が命じられていましたが」

「それが何故」

「急に動いたのか」

「それも幾万もの兵が」

「どうなっておるのだ、兵達を止めよ」

 動いている兵達をというのだ。

「そうせよ、ただしな」

「築山はですな」

「あの砦は豊臣方に奪わせぬ」

「あの山自体も」

「そうせよというのですな」

「あの山に砦は築いておきたい」

 秀忠は築山から真田丸を攻められるからこそこだわっていた、それで幕臣達にこう命じたのである。

「よいな」

「はい、それでは」

「すぐにですな」

「砦は再び築く

「その為にもあの山は」

「確保せよ、動いておる兵達にはそう命じよ」 

 こう言った、そして自身が率いる兵達に守りを固めさせた。しかしこの命がかえって仇となってだった。

「ここはな」

「わかり申した」

「それはです」

「兵達にそう命じます」

「すぐさま」

「うむ、それではな」

 こうしてだ、幕府は動いている兵達に命じて築山を攻めさせた。だが秀忠はここでこうも言ったのだった。

「しかし真田丸はな」

「はい、あそこはですな」

「攻めてはなりませんな」

「あの出城は」

「決して」

「真田じゃ」

 この家の名を苦い顔で言った、秀忠は上田城での戦のことを思い出してそのうえでそうした顔になったのだ。

「だからじゃ」

「迂闊に攻めればですな」

「そこでいらぬ兵を失う」

「そうなってしまうからですな」

「また何を企んでおるかわからぬ」

 上田城の記憶からの言葉だ。

「だからじゃ」

「はい、それではです」

「真田丸はです」

「攻めずにいきましょう」

「築山だけを攻めて」

「そこで止まりましょう」

「その様にな」

 このことを命じるのも忘れていなかった、だがそれは既に手遅れであり前田家や越前松平家の兵達は築山を押さえたがだ。 

 そこからだ、また扇動を受けたのだった。

「よし、築山を押さえたぞ!」

「次は真田丸じゃ!」

「この勢いのまま攻めよ!」

「そして一気にじゃ!」

「あの忌々しい出城を押し潰せ!」

「この大軍でそうせよ!」

 十勇士達が闇夜の中で騒いでだ、そうしてだった。 

 兵達はさらに攻めた、これには秀忠も報を受けて仰天した。

「何っ、兵達がさらにか!?」

「はい、真田丸に向かっております!」

「何処からかの命を受けて!」

「そしてです!」

「真田丸を攻めんとしております!」

「まさかこれも真田の謀か」

 秀忠は彼の本陣においてこのことを悟った。

「最初から煽ってそして」

「そうやも知れませぬ」

「兵達は遮二無二真田丸に向かっております」

「もう止まりませぬ」

「真田丸に向かっております」

「こうなってはどうしようもないのか」

 秀忠は歯噛みしつつ言った。

「兵達は」

「このままです」

「真田丸を攻めて」

「そのうえで」

「倒されるか」 

 最早兵達の勢いは止まらず築山から真田丸に向かっていた、そしてその真田丸に空が明ける頃にはだった。

 まさに攻めんとしていた、幸村はその彼等を見てだった、控えている赤備えの兵達に対して告げた。

「よいか、ではな」

「これよりですな」

「殿が命じられるまで、ですな」

「我等は」

「撃つでない」

 鉄砲、それをというのだ。

「よいな、しかし合図を言えばな」

「それと同時に」

「即座にですな」

「撃つ」

「そうせよというのですな」

「そうじゃ」 

 こう言うのだった。

「よいな」

「承知しております」

「それではです」

「今は抑えて」

「そうしておきます」

「頼むぞ」

 こう言って今は兵達を抑えさせた、そして真田丸に戻り今は彼の後ろに控えている十勇士達にも言った。

「ではな」

「はい、我等もですな」

「殿のご命令があれば」

「その時はですな」

「一気に攻める」

「そうせよというのですな」

「その術を思う存分使うのじゃ」

 忍の術、それをというのだ。

「その一騎当千の術をな」

「承知しております」

「我等この時の為に鍛錬を積んできました」

「そして術も備えてきました」

「ならばです」

「その時が来れば」

「術を思う存分振るいます」

「そうしますぞ」

「一切遠慮はいらぬぞ」

 こうも告げる幸村だった。

「よいな」

「はい、十人の術を合わせてですな」

「一つにして」

「そしてそのうえで」

「一気に破れと」

「そうじゃ」

 まさにというのだ。

「そうするのじゃ」

「わかり申した」

 十勇士達は幸村に確かな声で応えた、そうして真田丸の前に群がってきた軍勢達のに櫓の上から言ったのだった。

「よくぞ来られた!」

「あれは真田殿か」

「真田左衛門佐殿か」

「間違いない、あの鹿の兜は」

「赤備えの具足に六文銭が入った陣羽織は」

「左様、それがしが真田源次郎幸村でござる」

 自ら名乗った幸村だった。

「よくぞ来られた」

「あれがか」

「あれが真田殿か」

「真田殿の弟君か」

「噂に聞く」

「さあ、ここまで来られたからには」

 幸村は己を見る幕府の兵達に言った。

「どうされるか、おめおめ逃げ帰られるか」

「誰がするか!」

「我等こそ武士だ!」

 十勇士達が声色を使って幕府の兵達の間から出た様にして言ってきた。

「戦わずして逃げられるか!」

「ここで真田丸を落としてやる!」

「そうしてやろうぞ!」

「馬鹿な、築山だけでよい」

 政重は慌てて彼等のところに来て事態を収めようとしていた、それでことの異変を見て言ったのだ。

「真田丸を攻めてはいかん」

「殿が言っておられるぞ!」

「加賀の殿がな!」

「越前の殿もだ!」

「馬鹿な、殿はその様なことは言われぬ」

 このことにも驚いた政重だった。

「まさか真田の策か」

「さあ、攻めよ!」

「殿の旗印が見えたぞ!」

「我等に攻めよと言われておる!」 

 ここで法螺貝も鳴った、旗印は筧が幻術で出したものだがそれに気付く者は今の幕府方には一人もいなかった。

「さあ、攻めよ!」

「法螺貝が鳴ったぞ!」

「よし、真田丸を落とせ!」

「この数なら攻め落とせるぞ!」

 政重は何とか制止しようとしたが最早無理だった、前田家や越前松平家の兵達は雪崩の如き真田丸に向かった。彼等は完全に我を失っていた。

 その彼等を見てだ、幸村は言った。

「よし、見事にだ」

「かかりましたな」

「我等の策に」

「それではですな」

「これよりですな」

「皆の者待たせた」

 まさにと言う幸村だった。

「ではこれよりじゃ」

「鉄砲ですな」

「もう用意出来ております」

「弾も込めております」

「ですから何時でもです」

「よし、ではじゃ」

 敵の大軍が迫るのを見つつの言葉だ。

「撃て!」

「撃て!」

 命が復唱されてた、そうして。

 真田丸から鉄砲が一斉に放たれた、そのうえで空堀を進む兵達を撃った。忽ちにうちに多くの兵達が倒れた。

「くっ、撃ってきたぞ!」

「鉄砲じゃ!」

「弓矢も放って来たか!」

「何という数じゃ!」 

 その鉄砲も弓矢もというのだ。

「すぐにまた撃って来たぞ!」

「また鉄砲じゃ!」

「三段撃ちか!」

「元ウ府様のそれか!」

「そうじゃ、鉄砲を撃つ列と込める列に分けてじゃ」

 それも何段とだ。

「そうして撃っておる、そして矢も入れればな」

「それで、ですな」

「こうして続けて攻められる」

「だからいいですな」

「殿が真田丸で考え出された考え方」

「それがこれですな」

「ただ撃つだけではない」

 まさにというのだ。

「こうして弓矢と合わせてじゃ」

「何段と撃ち続け放ち続け」

「弾幕に矢の雨ですな」

「それでこうして攻撃を加えれば」

「どれだけの大軍でも」

「防げる、その為に壁の後ろに路を造りそうして幾重にも鉄砲や弓矢を撃てる様にして櫓も多くしたのじゃ」

 その様な造りにしたというのだ。

「この様にな、ではな」

「次はですな」

「我等ですな」

「我等の出番ですな」

「次は」

「そうじゃ」

 後ろに控える十勇士達に述べた。

「その時じゃ」

「わかりました」

「ではです」

「これより真田丸から出ます」

「そしてです」

「思う存分暴れてきます」

「その術ふんだんに使え」

 彼等のそれぞれのそれをというのだ。

「そうしてじゃ」

「敵を散々に乱してですな」

「徹底的に叩く」

「誰が見ても負けの様に」

「そうせよというのですな」

「その通りじゃ、では行くのじゃ」

「わかり申した」

 十勇士達はこう答えてすぐにだった。

 姿を消した、そして次の瞬間にはだ。

 幕府の兵達が次々と薙ぎ倒されていった、不意に霧が起こり彼等を包み込んだかと思うと次の瞬間にだ。

「ぐわっ!?」

「がt!?」

 兵達が倒れていっていた。

「な、何じゃ!?」

「伏兵か!」

「伏兵が来たのか!」

「左右から攻めてきておるぞ!」

「敵がうって出て来たのか!」

 こうした声があがった。

「まさか!」

「いや、門は開いてはいないぞ!」

「大坂城の門は何処も!」

「では何処から来た!」

「何処から攻めてきたのじゃ!」

 幕府の兵達は戸惑った、だがその戸惑いの間にもだ。

 真田の者達は攻める、霧を出した霧隠は十勇士の他の者達に言った。

「これでじゃ」

「うむ、後はな」

「皆で攻めようぞ」

「十鞍の幻術も効いておる」

「ではな」

「ここからさらに攻めようぞ」

「それぞれの術でな」

「ではじゃ」 

 由利は早速だった、手にしている鎖鎌を振り回して混乱している敵の軍勢の中に跳び入ってそのうえでだった。

 右手で振り回す分銅を投げた、すると分銅は幾つにも分かれその一つ一つが敵兵達の頭を砕き左手の鎌が近くの敵を切る。

 そしてだ、さらにだった。

 穴山は鉄砲を幾つも出してその一つ一つを一斉に空に放り投げた、そして落ちて来る鉄砲を一つ一つ自身も跳び上がりつつ取ってだった。

 鉄砲を放つ、そして別に鉄砲を空中で取って撃つ、そうして敵兵達を撃ち倒していく。

 霧隠は自身が出した霧の中で刀と手裏剣を振るい敵を倒していく、その横では根津が縦横無尽に剣を振るい望月が拳を振るう。

 海野は大坂城の堀から引き寄せた水を濁流として敵兵を流し清海の金棒が敵を片っ端から吹き飛ばし伊佐の錫杖も荒れ狂う。

 猿飛の木の葉隠れが敵をまとめて切り伏せ筧の雷が次々と落ちる。その暴れ様は家康の本陣からも見られた。

 家康は茶臼山の本陣からそれを見てだ、唸って言った。

「あれは間違いない」

「はい、十勇士達です」

 傍に控える服部が答えた、既に彼の忍装束を着ている。

「しかも上田の時よりもです」

「遥かにじゃな」

「強くなっておりまする」

「何という術じゃ」

 家康はその暴れ様を見てまた唸った。

「あれではな」

「はい、最早です」

「どうしようもないわ、不意に幾つかの家の軍勢が動いたかと思えば」

「真田丸に引き寄せられ」

「あの有様じゃ、全てな」

「真田殿の策ですな」

「そうじゃ」

 家康は服部に確信を以て答えた。

「こちらの軍勢を煽って乱してな」

「真田丸に攻めさせ」

「そうしてじゃ」

「真田丸からの鉄砲と弓矢で寄せ付けず」

「あの様に十勇士達も出してな」

「そして、ですな」

「倒しておるわ」

「大御所様、それでは」

 服部は家康にすぐに申し出た。

「ここはです」

「お主がじゃな」

「はい、十二神将を引き連れてです」

「頼めるか」

「お任せを、我等が殿軍になりです」

 そのうえでというのだ。

「こちら側の軍勢は」

「うむ、下がってな」

「そうしてですな」

「仕切り直しじゃ、しかし真田め」

 家康はその彼等を見てまた言った。

「何と恐ろしい」

「その策と強さは」

「武士としても忍としてもな」

「この世のものとは思えませぬな」

「この戦勝とうと思えば」

 まさにとも言う家康だった。

「あの者を何とかせねばな」

「なりませぬな」

「うむ、では半蔵よ」

 家康は服部にあらためて告げた。

「頼むぞ」

「わかりました」

 服部は家康に応えてそうしてだった、即座に十二神将を連れて真田丸の方に来た、そして丁度敵兵の一人に向かって投げられた霧隠の手裏剣をだった。

 己の刀で弾き返してだ、霧の中で己の前にいる霧隠に対して言った。

「服部半蔵参上!」

「出て来られたか」

「これ以上は好きにはさせぬ」

 服部は霧隠を鋭い目で見据えつつ告げた、その後ろには十二神将達がいる。

「軍勢は退く、しかしな」

「これ以上攻めるとか」

「我等が相手になる」

「面白い、ではじゃ」

 霧隠は服部と十二神将達を見据えて不敵な笑みを返して言った。

「これよりな」

「我等をか」

「討たせてもらう」

「才蔵、我等もおるぞ」

「我等も忘れるな」

 他の十勇士達もここで集まって来た。

「今ここで天下に知らしめる時ぞ」

「伊賀十二神将と真田十勇士どちらが天下一の忍達か」

「そのことをな」

「はっきりさせる時ぞ」

「半蔵様、ここはです」

 十二神将筆頭の神老が服部に言ってきた。

「我等もです」

「うむ、殿軍でもあるしな」

「この者達と戦い」

 そうしてというのだ。

「天下一の忍がどちらかをです」

「定める時じゃな」

「ですから」

「わかっておる、ではな」

「ここは我等にお任せを」

「三人足りぬな」 

 双刀が数のことを言ってきた。

「それでもよいか」

「ははは、数も互角よ」

 こう言ってだ、何とだった。

 後藤又兵衛も来た、その後ろには木村もいる。

「わしが助太刀させてもらう」

「拙者もじゃ」

「真田殿にな」

「そうさせてもらう」

「後藤殿、それに木村殿か」

「服部半蔵殿じゃな」

 後藤は服部の顔、今は仮面に覆われているその顔を見て言った。

「そうじゃな」

「左様」

 服部も偽らずに答えた。

「拙者が服部半蔵でござる」

「そうか、ではじゃ」

「ここはですな」

「十勇士にな」

「貴殿と木村殿がか」

「助太刀させてもらってじゃ」

 そのうえでというのだ。

「戦わせてもらう」

「承知致した、では」

「これよりな」

「我等の戦となる、わしは忍の術は心得ておらぬ」

 このことは幸村と違う、後藤はあくまで武士である。己の武芸を磨き高めていく一騎当千の武者なのである。

「しかし武士の術でじゃ」

「我等と戦う」

「そうさせてもらう、それでいいな」

「はい」

 これが服部の返事だった。

「それでは」

「うむ、ではな」

「拙者もじゃ」

 木村も後藤に続いて服部達に言う。

「ここはじゃ」

「武士としてですな」

「戦いそうして」

「十勇士に助太刀されますか」

「うむ」

 その通りだというのだ。

「それで宜しいか」

「貴殿のお名前は聞いておりまする」

 後藤だけでなく、というのだ。

「豊臣家きっての武芸の持ち主だとか」

「まだまだ未熟者でござるが」

「いえ、見てわかります」

 身体つきと身の動き、そして気をだ。

「貴殿もまた見事な武芸者」

「だからでござるか」

「我等にとっても相手に不足はござらぬ」

「左様でござるか」

「そして」

 さらに言う服部だった。

「我等も全力で相手を致す」

「それでは」

「ではそれがしは」

 ここで服部は十勇士と後藤、そして木村を見て述べた。

「十二人と十二人、それぞれ一対一の勝負となる様なので」

「退かれるか」

「いや、退く軍勢を守り申す」

 そうすると後藤に答えた。

「その為に来ております故」

「勝負に加勢されぬか」

「こうした時の勝負に加勢をする無粋なことはしませぬ」

「それもまた忍の道」

「忍の道は目的の為に手段を選ばぬものですが」

 それでもというのだ。

「こうした時はです」

「無粋なことはか」

「せぬもの、それでです」

「貴殿はこの度の戦に関わらぬか」

「若し真田殿が出てこられれば」

 真田丸の櫓を見た、そこに鹿の兜を被り赤備えで固めた幸村がいる。彼のその姿をはっきりと認めているのだ。

「お相手致したが」

「それでもでござるか」

「はい」

 こう言うのだった。

「今は真田殿はあちらにおられる、さすれば」

「貴殿はそちらか」

「またお会い致しましょうぞ」

 仮面の中の素顔、仮面は外していないがそれを後藤に見せて告げた。

「そうしてです」

「その時機会があれば」

「戦いましょうぞ」

「うむ、ではな」

「今はこれで」

 こう言ってだ、はっと詠は姿を消した。そうしてだった。

 十勇士と後藤に木村と十二神将達の死闘がはじまった、霧の中でその姿は外から見えないがそれでもだった。

 彼等は互いの術を尽くして闘う、後藤は神老の変幻自在の忍術、何処から来るかわからない手裏剣を常にかわし槍で防ぐ。神老はその後藤に対して正面に姿を現わして言った。

「お見事」

「いや、お主こそな」

 後藤も神老に返した。

「そう言っておこう」

「後藤殿程の方にそう言って頂けるとは」

「事実だから言ったまでのこと」

「事実ですか」

「わしはこれまで多くの死闘を経てきた」

 それだけにというのだ。

「多くの者と命賭けで戦ってきた、その中でどれだけの一騎打ちをしてきたか」

「その一騎打ちの相手の中で」

「これだけの攻めをしてきた者はおらんかった」

 こう言うのだった。

「それで言うのじゃ」

「左様ですか」

「そうじゃ、見事じゃ」

 また言った。

「実にな」

「それはそれがしも同じこと」

 隙を見せない、そのうえで後藤に返した言葉だ。

「貴殿程度の方はこれまで」

「おらなかったというか」

「今ので多くの者は倒してきました」

「わしも危うかったわ」

「いえ、その危う中で逃れられるのが」

 それこそがというのだ。

「まことの腕の持ち主ですので」

「そう言うか」

「左様であります、ではさらに」

「生きるか死ぬか」

「そうした勝負をしましょうぞ」

 神老は今度は刀を出した、そのうえで手裏剣を激しく投げつつ後藤に向かう。後藤もその神老の攻撃を防ぎつつ迎え撃った。

 木村は一騎打ちの初陣だった、だはその手に持っている刀を見事に使いつつ十二神将達と闘っている。十勇士達はその彼にそれぞれの闘いの中で言ってきた。

「木村殿無理はされぬ様」

「相手は忍です」

「忍には忍の闘い方があります」

「ですから」

「わかっておる、どうもじゃ」 

 雷獣のその雷を左右に動いてかわしつつだ、十勇士達に応えた。一騎打ちだが何時しか十一対十一の戦になっていた。一騎打ちが十一合わさってそうなっていた。

「武士の勝負とは違いな」

「手裏剣もありもうす」

「そして術も」

「また惑わすことも忍の術」

「そこはお気をつけ下され」

「稽古や武芸の試合はしてきた」

 木村は大坂城の中で無二の武芸者と言われてきた、特に刀と馬は見事であると言われてきているのだ。

「しかしな」

「それでもです」

「これが忍の術です」

「何時何を出してくるかわからぬもの」

「ですから」

「よいものじゃ」

 ここでだ、木村は十勇士達に笑って述べた。

「実に楽しい」

「楽しい!?」

「そう言われるのですか」

「忍の者達との戦を」

「この一騎打ちを」

「うむ、こうしてじゃ」

 今度は双刀の二刀流を一刀で防いでいる、二刀と一刀の違いがあろうともそれでも互角に渡り合っている。

「死合えることがな」

「そのこと自体がですか」

「楽しいと」

「そうだというのですか」

「そうじゃ、楽しいわ」

 こう言って今度は幻翁が放つ手裏剣をかわす。

「これが忍の戦か、そして死合いか」

「左様です」

「まさに一瞬気を抜くと命を落とす」

「そうしたものです」

「面白い、ならばな」

 それが戦ならばというのだ。

「思う存分戦おう、武士としてな」

「恥じぬ戦をする」

「そうされますか」

「最後の最後までな、拙者は若しかするとこの戦で命を落とすやも知れぬ」

 この覚悟は木村にはあった、だがそれでもだった。

 彼は前を見据えて今度は剛力が拳から放った気を刀を横薙ぎに払って切って打ち消してからそうして言った。

「しかし最後の最後までじゃ」

「その様に闘われるのですな」

「あくまで」

「今もそして軍勢を率いてもじゃ」

 逆に刀を一閃させて剛力を攻める、遠間だが気を放ってそれで切らんとしている。とはいってもその気は剛力の巨体からは想像も出来ない素早さでかわされた。

「武士として果敢にかつ正しくじゃ」

「戦われそして」

「そのうえで、ですな」

「死なれる」

「そのことも覚悟されていますか」

「拙者は武士じゃ」

 それならばというのだ。

「卑怯未練はせぬ、断じてな」

「では我等も」

「その木村殿と共に戦いましょうぞ」

「我等は忍、武士とはまた違いますが」

「木村殿のお心に惚れ申した」

 それ故にというのだ。

「そうして戦いましょう」

「それではです」

「今のこの者達との戦も」

「そうしましょうぞ」

「ではな」

 木村は刀を構えた、その左右にそれぞれ十勇士達が揃っている。彼等も構えを取ってそうしてだった。

 後藤と闘っている神老を除いた十一人の十二神将達にあらためて向かった、相手もそれを受けて向かう、彼等の死闘はさらに続いていた。

 しかし戦いが半刻程続くとだ、服部が十二神将達に言った。

「軍勢は皆逃れた、これでじゃ」

「はい、ここでの戦は終わり」

「左様ですな」

「我等も退くぞ」

 殿軍である彼等もというのだ。

「よいな」

「はい、それでは」

「これよりです」

「我等も退きます」

「そうします」

「そうせよ、では後藤殿に木村殿も十勇士の貴殿等も」

 戦っている相手全員に言うのだった。

「これまでとさせてもらう」

「そうはいかぬと言えばどうする」 

 後藤は槍を構えたまま服部を見据え彼に問うた。90

「その時は」

「それがしがお相手致し」

 服部は後藤を見据え返して答えた。

「十二神将達は全て」

「逃がすか」

「そうさせて頂く」

「その意気見事、ではじゃ」

 服部の家臣を守る意気を認めそして自分達も実は相手を追うだけの余力がないと判断してだ、後藤はこう返した。

「去られよ」

「そう言われるか」

「我等も一騎打ちで疲れた」

 これが余力のなさだった。

「ではな」

「左様でござるか、では」

「この度はな」

「これで去らせて頂く」

「また戦の場で会おうぞ」

 最後にこう言ってだ、後藤は服部と十二神将達を去らせた。その時にはもう幕府方の軍勢も皆退いていた。

 後藤と木村、そして十勇士達もだ。これでだった。戦が終わったと見て大坂城ここでは真田丸に戻った。そうしてだった。

 幸村にことの次第を話した、すると幸村は笑みを浮かべてこう言った。

「敵を散々に退けそのうえで誰も死ぬことはなかった」

「だからですな」

「これ以上のことはない」

「そう言われるのですな」

「うむ、満足すべきじゃ」

 こう十勇士達に述べた。

「実にな、しかしな」

「これでじゃな」

 後藤が幸村に応えた。

「戦の流れはこちらに傾いたが」

「はい、されどもです」

「それを茶々様が効かれるか」

「これで流れは変わりますが」

「茶々様がそう思われるか」

「実はこうして散々に打ち破ればです」

 あえて真田丸に攻め寄せた敵達とだ。

「これで流れが変わり」

「そこからじゃな」

「勢いのまま茶々様に申し上げてです」

 そうしてというのだ。

「そこから一気にと考えていましたが」

「どうもな」

「そうもいかぬやも知れませぬ」

 それで茶々が頷かないというのだ。

「そう思えてきました」

「これだけの勝ちでもですか」

 木村は幸村の言葉に怪訝な顔になり返した。

「茶々様は」

「うむ、そう思えてきた」

「これだけ勝てばと思うのですが」

「あの方は随分と強情な方じゃな」

「はい、それは」

 木村が今いる者達の中で一番よく知っていることだった、伊達に幼い頃より秀頼つまり茶々の側にいる訳ではない。

「そこがどうもです」

「困ったところじゃな」

「そしてですか」

「この度もな」

「その強情さで、ですか」

「そう思えてきた」

「しかしです」

 木村はその整った顔を怪訝なものにさせて幸村に言った。

「ここで、ですな」

「うむ、外に出て戦わねばな」

「戦はこのままですな」

「囲まれたままでじゃ」

 幸村は木村に暗い顔で話した。

「やがて大砲を持って来られてな」

「茶々様は雷がお嫌いでして」

「大砲の雷の様な音で日々昼も夜も攻められるのじゃ」

「そうなってしまえば」

「幾らこの大坂城が誰にも攻め落とせぬものでもな」

 それでもというのだ。

「木村殿もおわかりであろう」

「我等が敗れますな」

「戦うのは城や軍勢を攻めるだけではない」

「人もまたそうであり」

「その心もじゃ」

「攻めるもので」

「そうじゃ」

 まさにというのだ。

「そうなる」

「では」

「そうですか、では大砲はですな」

「使わせてはなら、だからな」

「大砲が来る前に」

「何とかうって出たい、そいしたいが」

 幸村は木村に暗い、それでいて真剣な顔のままで話した。

「これで茶々様が説得出来るか」

「それが問題ですな」

「しかもじゃ」

「気になるのは有楽殿じゃ」

 ここで後藤が木村に話した。

「あの方じゃ」

「有楽殿はどうも」

「我等も気付いております」

「あの方はです」

「どうやら」

 十勇士達がここで後藤に話した。

「我等は草木や石の声も聞こえます」

「城のそうした声を聞きますると」

「あの方はどうも」

「城の外の幕府と」

「そうじゃな、あの方は実はじゃ」

 後藤はさらに話した。

「幕府とじゃ」

「つながっていますな」

「そして幕府にこちらの情報を流し」

「そして茶々様にもですな」

「幕府の都合のいいことをですな」

「有楽殿のお考えとしてじゃ」

 そう装ってというのだ。

「お話されておる」

「ですな、それではです」

「有楽殿はですな」

「何とかせねばならぬ」

「大坂にとって獅子身中の虫ですな」

「噂は本当でござったか」

 木村はここまで聞いてだ、怒りを隠せぬ顔と声で述べた。

「あの方が幕府と通じていたとは」

「はい、間違いありませぬ」

「実際にです」

「先程申し上げた通り城の中の草木や石の声を聞きますると」

「そう言っておりまする」

「有楽殿のことは」

「お主達は真田殿の家臣、しかも義兄弟じゃ」

 幸村がそこまで認めたというのだ。

「ならば確かな者達、嘘を言うことはない」

「そう言って頂けますか」

「その様に」

「我等のことを信じて頂けますか」

「うむ」

 その通りだとだ、木村は十勇士達に確かな声で答えた、

「その通りじゃ、そしてじゃ」

「有楽殿はですな」

「幕府の回し者として」

「茶々様に」

「申し上げよう」

 是非にと言うのだった。

「そうしてじゃ」

「有楽殿を除くか」

「そうします」

「それは出来ぬ」

 後藤は木村に無念の顔で答えた。

「あの方は茶々様の叔父上、だからな」

「絶対の信任を得ておられて」

「それでじゃ」

 だからだというのだ。

「我等が何と言ってもな」

「それでもですか」

「信じてくれぬわ」

「そうですか」

「だからこのことは諦めるしかない」

「ですが」

「言っても仕方ない、だからここはな」  

 どうするかをだ、後藤は木村に話した。

「思う存分勝ってな」

「そしてですか」

「外に出ようぞ、こうなれば機を見て外で戦い」

 そしてというのだ。

「大御所殿の御首を手に入れねば」

「それが出来ればな」

 後藤も幸村に応えて言う。

「我等の勝ちは間違いない」

「ですから」

「それを目指しておるか」

「茶々殿にもお話をしたいです」

「ではお話出来る流れを確実にする為にじゃ」

 是非にとだ、後藤は幸村に言った。

「もう一戦、それで無理ならな」

「もう一戦ですな」

「そうしていこうぞ」

「では次の戦も」

 木村は幸村と後藤に強い声で申し出た。

「及ばずながらそれがしも」

「出られるか」

「そうしたいです」

「うむ、ではな」

 後藤は木村に顔を向けてそのうえで応えた。

「共に戦おうぞ」

「有り難きお言葉、ではな」

「もう一戦」

「勝つ、そして我等が外に出てな」

「そのうえで大御所殿の本陣を目指し」

「一気に勝とうぞ」

 家康の首を取ってというのだ。

「そうしようぞ」

「さすれば」

「大砲がすぐ近くに来ては駄目じゃ」

 その時点でとだ、幸村が話した。

「そうなれば後はな」

「砲撃の音で、ですな」

「茶々様のお心を攻められてしまうわ」

 大坂の実質的な総大将のというのだ、戦のことが何もわかっておらぬうえに大砲の音と同じく轟音の雷の音に弱い彼女を連日連夜だ。

「そうなってはな」

「終わりじゃな」

「まさに」

「だからそうする、では次の戦の時は」

 さらに話す幸村だった、今度は十勇士達に向けて。

「拙者はここを動けぬが」

「はい、殿はですな」

「この真田丸が持ち場故に」

「外に打っては出られぬ」

「若し殿がここを出られれば」

「幕府はそれこそ全力で真田丸を攻めてじゃ」

 そうしてというのだ。

「攻め落とされるわ」

「そうなってはですな」

「真田丸なくしては大坂城の弱みが出てしまう」

「その弱みを補っている出城だというのに」

「その出城がなくなっては本末転倒ですな」

「だからじゃ」

 それ故にというのだ。

「拙者はここを守る、だからお主達と大助でじゃ」

「それがしもですか」

「うむ、行って来るのじゃ」

 大助にも顔を向けて告げた。

「よいな、そしてな」

「幕府の軍勢をですな」

「さらに打ち破る」

「そうするのですな」

「そうして流れをさらにこちらに寄せるのじゃ」

 幸村はこう言ってだ、後藤達と軍議を進めていった。そのうえで再び戦にかかるのだった。真田丸の勝ちで満足せず。



巻ノ百二十八   完



                   2017・10・25



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