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第62話 新・コンビニバイトのオッサン

〇笹本リゾートホテル内 コンビニ 「ワーソン」


「おはよう御座います、本日から宜しくお願いします」


既に出勤していた鰐淵さんに挨拶をする


「ああ、お早う龍道君、早速本日から宜しくお願いするな」


早朝でお客さんも居ないので、簡単に仕事の事を説明して貰う


笹本ホテル内のワーソンは24時間の営業では無く朝の6時~夜の10時迄の営業時間だ


先月に1名退職しており今現在は店長である鰐淵さんしか居ないらしい、以降は鰐淵さん一人で16時間勤務をしていたと考えるとかなりブラックである


職務内容は以前働いていた時とほぼ同じで棚出し棚入れレジ打ち店内及び店外の掃除である


「龍道君は以前、東京の店で働いていたんだよな?」


「はい」


「それじゃ棚入れから頼んで良いか?これ棚配置のマップね」


鰐淵さんはタブレットを俺に手渡す


「この通りに頼んだ」


「分かりました」


俺はタブレットで確認しながらスタッフブースの奥の倉庫から商品の段ボールを持ち出し棚入れを行う


「こらこら、龍道君そんな手順じゃ時間が掛かっちまうよ?」


「あのな、まずこのマップを見て棚の下段に入れる商品を先に倉庫からもってくるんだ、それで下の段から補充していくんだよ」


「え?そうなんですか?何か理由が?」


「そうだなぁ~龍道君は背が高いから上から補充したくなるかもだけど、商品は下段にある方が大きい物が多いだろ?、だから下段を先に終わらせた方が先に用意した段ボールも片付くし上の陳列棚とも商品を揃え易いんだよ」


確かに後から下の大きな商品の位置を直すのは時間もかかるし他の商品との兼ね合いも取りにくい


「そうなんですね・・僕全然気にしてなくて・・・だから前の店でも新人よりも棚入れが遅いって注意されてまして・・・」


「ははは、良いよ気付いた事はジャンジャン注意してくし理由を知れば龍道君も自分なりに考えてもっといい方法を見つけれるかも知れないしな、二人だけだけどお互い頑張ろう!!」


俺より遥かに小さな鰐淵さんが何だか頼りになる先生の様に思えて来た


「はい、鰐淵さんみたいにちゃんと理由を含めて説明して貰えたのは初めてです!有難う御座います!!」


俺の言葉を聞いて満足そうに頷くと鰐淵さんは自分の仕事に戻っていった


それから鰐淵さんのアドバイス通りに倉庫から荷物を持ってきて商品を陳列していく、女性の鰐淵さんと違い一気に一列分の商品を持てるので棚入れが想像以上にスムーズに進む


「鰐淵さん棚入れ終わりました」


「お?早いじゃないか!!やるな~ふふふ、それじゃ外の掃除いってもらおうかな?」


「はい!任せて下さい!」


棚入れを褒められ気分を良くした俺は鼻歌を歌いながら店の外を掃除する、そうしてると夫婦らしき中年の男女が来店してきた


「いらっしゃいませぇ!」


俺の挨拶に女性が気付き笑顔で会釈してくれ、男性の方も笑顔で頷いてくれた


「有難うございました!」


「ふふ、龍道君礼儀正しくて良いぞ」


いつの間にか俺の後ろに居た鰐淵さんから背中を叩かれ褒められた、この仕事を長い事してるがこうして褒められたのは初めてだ、背中がゾワゾワしてじわっと温かくなる


「はい!頑張ります!」


この日は、鰐淵さんから沢山指導を受けたが、出来てる事に対しては褒められた、それが嬉しくてもっと色々と教えて欲しくなる


(この人、人をその気にさせるのが上手だ・・いつもやる気が無くて時間が過ぎるのを待つだけのバイトの仕事がもっと長く働きたいもっと上手く出来るようになりたいと思ってる・・・)


鰐淵さんはオンオフもしっかりしてて、お客さんが多いときは的確な指示を飛ばし俺を効率よく動かしてお客さんをさばく、お客が少ない時は棚から撤去した消費期限ギリギリのお菓子を二人で食べながら


「これ、美味しくないよなぁこれじゃ売れねぇぇ~あははは」


「そうですか?僕はこの味好きですよ?」


「はぁぁぁ?、納豆味のビスケットとか正気とは思えないぞ?!」


そんな話をしながら息抜きもしていた、気付くとあっと言う間に17時になりバイト終了の時間になる


「鰐淵さん、凄く勉強になりました明日も頑張ります!」


「ふふ、龍道君は素直で教えがいがあるよ、頼りにしてるぞ?アタイも昼間は途中で抜けて朝と夜だけの勤務にしなきゃ時間ヤバいんだよ、アハハハ」


「任せて下さい!!」


「ふふ、有難う、あっこれ夕飯にでも食べてくれ」


そう言うと消費期限の切れそうな弁当を3個も渡してくれた


「ええええええ!?こんなに貰えませんよ!?」


「いいからいいから、アタイのも有るからもっけってぇ~」


そういうと強引に3個も弁当の入った袋を渡された


「それじゃ・・・遠慮なく・・鰐淵さん有難う御座います」


お礼だけ言うと自分の部屋へと戻る、部屋には電子レンジがあり早速、鮭弁当を温める、その間に今日あった事を雫と五月にメッセージで送る


『いやぁ~鰐淵さんて本当に凄くて!教え上手というか、褒め上手といか本当に尊敬しちゃうよ』


『てかさぁ?さっきから進の褒めてるその店長さん?鰐淵さんだっけ?幾つ位の人なの?』


『ああぁぁえっと確か30歳手前って言ってたかなぁ?』


『へぇぇ若いのに店長とか既に結婚してるのかな?すすむん聞いて無いの?』


『うーん、そこまで聞いて無いけど朝6時~22時まで働いていたって言うし独身な気がするけど?』


『うわぁぁブラックじゃん・・・進も気を付けなよ?』


『でも、俺、鰐淵さんの力になりたいんだよね、だから一杯教えてもらって早く一人で店に立てる様になりたいんだ』


『ふふ、すすむんて、すっかりその鰐淵さんのファンだね、きっと素敵な兄貴分なんだね~』


『あはは、鰐淵さんは女性だよ?何言ってんの雫は、あははは』


『はぁ?』


『はぁ?』


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その晩二人から通話であれこれ鰐淵さんの事を聞かれ、終始冷や汗が止まらなかった










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