〇笹本ホテルリゾート 最上階 笹本家玄関前
エレベーターから出ると目の前が直ぐに笹本の表札が上がった玄関だった
ピィンポ~ン
呼び鈴を押し少し玄関から離れて待つ・・・焦りからかその場で小刻みに足踏みしている
『はい・・・進君・・・さっきの事ロビーで見てたのよね・・・折角来てもらったんだけど由利の事はそっとしておいてくれないかしら・・』
インターフォンから由美さんの声がする
「その・・由利さんは大丈夫なのでしょうか?」
その質問の後暫くの沈黙の後
『悪いんだけど・・・もう帰ってくれないかしら・・・お願いよ・・・』
「!?っ・・・解りました・・・お騒がせしました・・」
流石に帰ってくれと言われては退散するしかない、俺は笹本家の玄関を後にした
その後、鰐淵さんに謝罪し仕事に戻ったが、朝に目にした由利さんの土下座姿が頭から離れずその日は一日中仕事に身が入らなかった
「お疲れ様です・・・」
心配そうにしてる鰐淵さんからいつも通り消費期限ギリギリのお弁当と惣菜を渡され丁寧にお礼を言ってから自室に戻った
部屋に戻りベットに仰向けに倒れるとスマホが着信する・・・星奈さんからだ
「もしもし・・」
『進!?由利の件聞いたけどどういう事なの!?由利に電話したけど「ほっといて」て電話切られるし!進は何か知ってるんでしょ』
俺は自分が見たこと、笹本家に行ったけど門前払いされた事を星奈さんに伝えた
『なに・・それ・・・時夜も許せないけど・・笹本の小父さんも小母さんもどうかしてるよ・・これじゃ由利が可哀そうだよ・・』
俺自身もなんと由利さんの力になりたいが、時夜さんは貸したお金を返せと言っていた・・・バイトの身である俺が祖父母や両親の残した貯金を全部はたいても足りるかどうか解らない
『私・・お母さんに相談してみる・・・』
「俺も由利さんの力になりたいんです・・・黒原さんの家の場所を教えて貰っていいですか?」
『それは構わないけど・・・どうするの?まさか!?力ずくで!?』
「そんな事出来ません・・・誠心誠意お願いするつもりです」
『・・・・解った・・住所をメールで送るね・・・・進・・・無茶しないでね』
通話を終えるとメッセージに住所と地図のURLが送られてきた、俺はそのURLを開き手早く着替えると必要な荷物をポケットに入れて部屋を後にした
ホテルから結構距離が有ったがスマホを確認しながら走って向かう、1時間ちょとで大きな和風のお屋敷の門の前に到着する表札には黒原とありここで間違えないようだ
呼び鈴を鳴らすとジリリりと遠くの方で音がする・・・暫くすると勝手口のドアに備え付けののぞき窓から誰かが此方の方を見て不審そうに声を掛ける
「失礼ですが何方様でしょうか?」
俺は頭を軽くさげ名乗る
「私は龍道 進と申します、笹本リゾートホテルで働かせて頂いていてお世話になっております、この度は黒原 時夜さんにお願いがありお邪魔しました」
「・・・・お約束は?」
「約束はしてません・・・でも少しでもお話を聞いて頂きたく」
「お帰りください・・・お約束の無い方はお通し出来ません」
「そこを何とか!お願いします、ちょっとだけで良いんですお願いします!!」
「・・・ですから!お通しできないっ!!?・・・え?・・いえ・・マミ様がそう仰るなら・・はい・・・龍道様・・どうぞ」
そういうと入り口の大きな門が人が一人通れる位開いたので、中に入る
「ふふ・・何度かお目にかかりましたよね・・・奇妙なご縁ですね、私は黒原 マミと申します」
目の前で頭を下げるのは、例の黒いドレスの妖艶な女性・・マミさんだ
「いえ、此方こそ急に訪ねて来てしまって失礼いたしました、私は龍道 進と申します、この度は黒原 時夜さんに折り入ってお願いがありお邪魔させて頂きました」
マミさんは俺の事を品定めするように怪しい目で舐める様に見回すと唇に指を添え「なるほど」と小声で呟いた
「解りました時夜に取り次ぎます、付いて来てください」
魅惑的なお尻を左右に振りながら俺の目の前を優雅に歩いて屋敷の中に招きいれると、玄関から入ってすぐ横にある応接室で待つように言いマミさんは応接室を出て行った
お願いしに来てる立場で座って待つのは失礼になると思い応接室の調度品を見渡しながら待っているとドアの向うから不機嫌そうな時夜の声が聞こえ乱暴にドアが開けられる
「あぁぁん?茶店で俺に舐めた真似してくれた陰キャか・・・で?俺に何の用だ、俺は忙しいんだつまんねぇ話だったら承知しねぇぞ!」
そう俺を睨みならが乱暴にソファーに座るとポケットから煙草を取り出し火をつけ溜息交じりに煙を吐き出す
俺はその場で膝を付き時夜さんに頭を下げる
「ぷっっ、なんの真似だぁ?この間の茶店の事でも謝ってるつもりか?」
「いえ・・本日は私がお世話になってる笹本 由利さんの件です」
ヘラヘラと笑っていた時夜の表情が一気に冷たい表情に変わる
「由利の件?あぁお前も星奈と同じ様に由利に強引な婚姻を迫るようなことは止めろっていいたいのか!」
「・・・・はい・・このままでは由利さんが可哀そうです・・彼女は旦那さんを亡くされそのショックも有るのに俺みたいな宿無しを助けてくれました」
「はっ下らない、俺も調べてしってるぞ?角とかいう腐れハンターの事は、あんな屑に靡いた阿保な女を拾ってやろうって言うんだ、感謝こそされ責められる言われは無いぞ!」
「でも・・・それでも彼女は十分苦しみました・・・これからは自分の幸せを・・
「はっ・・で?由利の幸せを優先させるなら俺に返す物があるだろ?お前が代わりに俺に払うのか?」
俺はポケットから通帳と印鑑を取り出し時夜の前のテーブルに置く、時夜は俺を睨みながらも通帳を開き中を確認していた
「ほぉ~陰キャの癖に中々貯めてるじゃねぇか」
「それで何とか・・
「ふざけるなっ!!」
時夜は俺の頭に通帳を叩きつける
「こんなはした金で足しになるかっ!ゼロが一つたんねぇよ!ホテル経営で必要な金を貸したんだぞ!2000万程度で足りるかっ!6億だ、6億もってこい!」
「6億・・・流石にそんな大金は・・でも!これから働いて返しますから!」
「くくく馬鹿かお前ぇ金山でも探すのか?お前が一生働いても半分も返せねぇよ、下らねぇ6億持って出直してこい!!」
そう言うと時夜は部屋から出て行った
愕然としてその場を動けずにいると、マミさんが応接室にやってきて俺の肩に触れ
「気を落とさずに、私も旦那を説得してみますのでこの場が私に任せてくれませんか?」
そう不敵に微笑むマミさんに不安を覚えたが今は俺に打つ手が無い・・ここは・・
「はい・・・どうか宜しくお願いします」
そう頭を下げ黒原の屋敷を後にした
自室に戻り雫と五月にも今日の件を相談すると
『はぁ?その時夜って奴最低ね!』
『クズだわ』
二人も嫌悪感丸出しで俺の話を聞きながら自分達でも何か出来ないか考えてみると言ってくれた、年下の子とは思えない頼りがいだ
「二人とも有難う・・俺も何か出来なか考えてみるね」
それから毎日の様に笹本の家に星奈さん通ったが一度も由利さんと会えなかった
そして、その日は訪れる
バイトが終わり鰐淵さんへ挨拶して自分の部屋に戻る途中の出来事だった
「由利、両親への挨拶する時間はやるよ」
「はい・・・パパ・・ママ・・・今までお世話になりました・・これから時夜さんの元に嫁ぎます・・二人ともお身体に気を付けて」
泣いてる由美さんの肩を抱きしめながら悔しそうに俯く克樹さん
それ以上にその光景を見ても何も出来ない俺はコンビニの店先で自分の握った拳から血を滲ます
由利さんが時夜に肩を抱かれ俯きながら出て行った後も暫くその場から動けなかった
「ちょっと!進」
「すすむん、やっと見つけた!」
懐かしいその声に慌てて周囲を見渡すと、横から大きなトランクを引きながら五月と雫が手を挙げて此方に走ってきた
「雫?!五月ぃ?!どうして此処にぃ??」
二シシと笑いながら俺の肩をポンポンと叩く五月と俺の身体の匂いをクンクンと嗅ぐ雫
「雫??何してるの?」
「ん?別の女の匂いがしないか確認してたの・・・まぁ今の所大丈夫そうだね」
「ところで・・・いまさっき女狐の内の一匹が見知らぬ男と一緒に車で出てったけど・・もしかしてあれって・・」
俺は黙って頷く・・・