〇ミニバン車中 富士宮ルート 走行中
AM9:50
俺たちは富士山の登頂ルートを短縮する為、車で登れるところまで進む事にした
「各自持ち物は最低限にして登頂に備えて」
ハンドルを握りながら、バックミー越しに星奈さんが皆に準備を呼びかける
「皆さんの荷物は俺が持ちますので、俺のリュックに必要な物を詰めておいて下さい」
「分かったわ」
雫は俺の大きめの登山リュックを開けると、自分たちの荷物から必要な物を詰めだした
「五月と雫には犬飼会長から預かったオロチを封印する宝剣と宝珠をお願いするね」
「任せて!責任持って預かるから」
五月は少し緊張してるのか、表情が硬い、一方雫は落着いた様子でリュックの中を綺麗に片付ける余裕すら有る様だ
(まぁ仕方ないよな、ザビーネとの戦闘も規格外だっただろうが、あの時は突然の事で緊張する余裕も無かったが今回はこっちが敵地に向って近づいていく分、色々余計な事も考えてしまうよな・・)
「五月、帰ったら皆で熱海観光でもしような」
「へ?」
キョトンとした表情で振り返った俺の顔を見つめる五月に笑顔で頷く
「ふっ・・・フフ、そうね・・・うん・・・・じゃ私、進達が食べたって言う富士宮焼きそばっての食べてみたい!!」
「あら、良いじゃないあの時のお店凄く美味しかったから、帰ったら皆で行きましょう」
運転してる星奈さんも察してくれたのか笑いながらフォローしてくれた
(そうだ・・誰かの犠牲で助かっても残された者は救われない、必ずみんなで生きて無事に帰るんだ!)
そう決意しながらも五月の緊張も良い感じで解けた様で、談笑混じりに車は富士山の車道を進んでいく
・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・
「車で登れるのは此処までよ、此処からは歩きで登る事になるわ」
富士山の5合目の駐車場に車を停め各自荷物を手に車を降りる、俺は皆の手荷物以外が入った大きな登山用のリュックを背負うと、皆の状態を確認しながら登山道入り口と書いてある案内板に従い山道に足を踏み入れる
「此処からは魔物の襲撃も予測されるから雫と由利さんは中央へ、俺が先頭を進みます五月と星奈さんは後方警戒をお願いします」
俺たちは傾斜のある山道を周囲の警戒しながらも早いペースで歩み進んで行く、時々背後を振り返り様子を見るが皆今の所は平気な様だ
「皆もう少し先で休憩を取ろう、そこまで頑張って」
ここまで魔物の陰すら見えない、ふと眼下に広がる富士の樹海に目をやるが、樹海の先は靄が掛かっており見る事は出来ない・・・が、きっとあの先では・・・・・
〇AM10:30 富士の樹海前 簡易作戦司令部
「総司令!右翼十文字部隊が敵の第一陣と交戦に入りました!!」
報告を受け源蔵の横に立つ真理恵の表情に緊張が走る
「・・・そうか、ご苦労引き続き報告を頼む」
「はっでは引き続き戦況を確認いたします!!」
報告員はそう答えると足早に仮設テントを後にする
「会長、いよいよですね・・・・」
「・・・・・・・」
〇AM10:20 富士の樹海前 防衛戦右翼部隊
十文字達は敵の第一陣との戦闘に突入していた
「陣形を広げろ!!物理アタッカーは前線に!魔法部隊は後衛に!!後退していく魔物は放っておけ深追いして陣形を乱すな!!」
十文字の指示は的確だった、流石は若くしてパラディンとなり、ギルドを立ち上げる程の実力者
それなりの戦場を経験して場数も十分だった、自身も前衛の一角を担い次々と襲い掛かる魔物の猛攻を余裕で防ぐ
「すげぇぇこれがバラディンの加護か!?魔法でバフなしで物理防御が上昇してるのが解る!」
前線で十文字達サザンクロスギルドと初めて共闘するほかのハンターパーティーのファイターが感嘆の声を上げる
《パラディンの加護:パラディンのアクティブスキルでパーティーメンバーの物理防御を上昇させる効果を自動的に付与する、補助魔法のプロテクト程の効果は無いが無限にかつ無制限にパーティーに効果を得る》
「油断するな!!加護はしょせんおまけに過ぎない、過信して防御をおろそかにすると・・・・」
「ぎゃぁぁぁぁ!!」
十文字が注意を呼び掛けようとしていた時に前線のファイターの一人が武器ごと、片手斧を振るうゴブリンに片腕を切り飛ばされる
「ちっ!!言わんこっちゃない・・・蜂須賀ぁぁぁぁ一人やられた!!治癒を頼む!!」
【我求めるは万物の癒し、の神秘の光を我に、ハイヒール】
蜂須賀クリニックの従業員であるヒーラーにより負傷したファイターの腕が修復される
「やれやれ、南斗もう少し注意したらどうだ?」
「うるせぇぇ今から注意しようとしたんだ!」
腕を治癒してもらったファイターは自分の腕を撫でながら驚いている
「これが賢者の加護・・・・」
《賢者の加護:賢者のアクティブスキルでパーティー内のメンバーの治癒効果を少し上昇させる、この加護中はパーティー内の回復魔法の受ける回復量が若干増加する》
「負傷者は後方へ、回復支援職は等間隔に前衛の後ろに待機して対応を」
今回の作戦に招集されたメンバーは選りすぐりのハンター揃い、何名か油断と興奮から暴走して負傷していたが、他は概ねう余裕をもって魔物を切り崩している
(流石全国から集まった精鋭だ・・・防衛戦が崩れるどころか今にも押し返しそうな程の優勢だ)
南斗は自身もミスリルの剣を縦横に振るい魔物を蹴散らしながら、右翼に集まったメンバーを見て関心していた
「南斗、まさかとは思うが作戦を無視して前線を押し上げるつもりでは無いだろうな?」
「!?、小五郎!?ってそ、そんな訳ないだろ!!俺だってこの作戦の意味ぐらい理解してる!!」
南斗の慌てた様子に呆れる小五郎は頭に手を置き首を振る
「南斗・・・お前の気持ちは分かるがな此処は犬飼会長にまかされた大事な持ち場だ、お前が黒狼に憧れ追いつきたいと必死に鍛錬してるのは俺も知ってるが、進君に突入部隊を任されたのは他でもない犬飼会長のご指示だ」
「そ、そんな事は分かってる!くっ・・どいつもコイツも・・あんな得体の知れない男の事をなんで信頼出来る・・意味が解らない」
南斗は自身のイライラをぶつける様に魔物を両断して切り伏せる、しかしその圧倒的な剣技により切り伏せられた魔物の返り血が噴き出るまでにタイムラグが有り自身には返り血を一滴たりと浴びてない
その華麗な美しさを感じる技に、周りに居た腕に覚えの有るハンター達も簡単の声を漏らす
「あれが、サウザンドのバラディン【キグナス(南十字星)の南斗】か・・・俺たちとは次元が違う・・・・」
そんな中、防衛戦の一角で大きな地鳴りと共に複数のハンターが弾き飛ばされる
「出たぁぁぁ上級魔物のゴブリンキングだぁぁぁ!!」
「!?」
「いよいよ本命のお出ましか、行くぞ南斗!!」
直ぐに反応した十文字と小五郎は砂塵の上がる戦場向って駆け出した