〇富士の樹海前 防衛戦右翼部隊
十文字と蜂須賀 小五郎の預かる防衛戦の右翼部隊はキグナス 南斗の活躍と小五郎達の治癒部隊の的確な支援のお陰で優位に戦いを進めていた
しかし、防衛戦の一角が突如崩れる
「出たぁぁぁ上級魔物のゴブリンキングだぁぁぁ!!」
「!?」
「いよいよ本命のお出ましか、行くぞ南斗!!」
直ぐに反応した十文字と小五郎は砂塵の上がる戦場向って駆け出した
「南斗さん!それに蜂須賀さんも!!」
吹き飛ばされ倒れてるハンターの治療を始める小五郎を守るように、目の前の砂塵の奥に見える大きな影に剣を構える南斗
「負傷者は小五郎の所まで下がれ、動けけない者は動ける者に手を貸してもらえ、ここは俺が引き受ける皆は他の魔物の対処にあたれ!!」
南斗の激が飛び周囲のハンター達の動きが激しくなる
「ゴアァァァ!!」
咆哮と共に現れたのは、通常のゴブリンの10倍はあろうかという大きさのゴブリンキングだった
ゴブリンとは二足歩行の魔物で、他の魔物よりも知能が高いとされている、その体を覆う皮膚は緑がかっており所々カビが生えてる酷い体臭で普通の者が嗅ぐとそれだけで体調を崩す
鋭くとがった牙と突き出した下あご、黄色い目に黄色い眼球、眼球と回りが同色で同化していて視線が何処を見ているのかが分かりにくい、尖った大きな耳と大きな鼻で音と匂いには敏感である
その生態は人間のそれに近く、力の強い雄が群れのボスとなりホブゴブリンと呼ばれる、ゴブリン同士は小さな社会を形成しており、群れの中の雄同士での殺し合いにより群れのボスの座を競い合う
またその血液には病原菌が繁殖しており、人や家畜の口や目に入ると感染症を引き起こす
その群れのボスたるホブゴブリンのさらに上位種がゴブリンキングとなる、キングはその類まれな体躯と鍛え抜かれた筋力で巨人たるトロールに匹敵する力を持ちながら高い知能で武器を扱う為、非常に危険な上級魔物に分類される
「キングか・・・久々の大物だな・・小五郎!!俺にバフを!!」
「任せろ!!」
【我求めるは聖なる盾、破邪の守りをかの者与えん、プロテクト】【我求めるは聖な剣、邪悪を打ち払いし破邪の剣かの者与えん、アタック】
小五郎の唱えるバフ呪文はあり得ない速さで詠唱され、南斗の身体は淡く光り輝く
「おおお、神医の後継者である「ゴッドハンド(神の手)小五郎の早読みだ!!」
「その呼び名は止めてくれって言ってるだろ・・・はぁ・・・南斗ぉ!頼んだぞ」
南斗は深く深呼吸すると、ミスリルの剣を背中に隠し少し身を屈め左手をゴブリンキングの視線に向ける
「ゴガァ?ガァァァ」
ゴブリンキングは南斗に挑発されたと勘違いし怒りの雄叫びを上げると、人の倍以上の大きさの無骨な剣を振りかぶり南斗に向って突進してくる
ゴォォォと音をたてながら振り下ろされるキングの剣を避けもせずに受けようとする南斗は「はっ!!」と突き出した右手の甲でキングの剣の側面の殴るとキングの剣は軌道をずらし南斗の身体の横にそれ地面に突き刺さる
「ホーリースマッシュ!!」
南斗はキングの腕めがけ聖なる力を宿し白淡く輝くミスリルの剣を打ち込む
「ガァァァ!!!」
キングの両腕は剣を握ったままの状態で体と切り離される、両腕を失ったキングは戦意を喪失し悲鳴とも雄叫びとも解らない奇声を上げながら戦場から逃げようとする
「おおお、流石キグナスの南斗!!上級魔物も一撃だ!!」
南斗の勝利に沸く一同・・・・しかし目の前で無様に逃げ出したキングが途中で急に立ち止まりガタガタと震えだす
「?ちょっまて!!何かおかしいぞ・・・」
様子に気づいた一人がキングを指さすとキングの足元の影が大きく広がり黒い無数の棘が飛び出しキングの身体を突き刺し全身を真っ黒な棘で覆い隠す
「あ、あれは・・・一体何が・・・・」
前線の様子がおかしい事に気づいた小五郎が集まっていたハンターを押しのけ確認する
「!?あ、あれはまさかぁ!?雫の言っていた!?おい!南斗注意しろ、ネームドが現れるぞ!!」
小五郎の叫びに南斗はじめ周囲のメンバーも目を剥いて目の前の黒い塊になったキングを見据える、その時黒い球体にヒビが入りパリン!と乾いた音と共に中からキングが姿を現す
『我はゴブリンキングから進化したアマイモンなり、我が主より新たなる力を授かり貴様らを屠るモノなり、その名を、恐怖を哀れで儚いその魂に刻むがいい』
先程切りとんだ腕は元通り戻っており、持っていた剣は毒々しい黒い刀身の剣へと変化していた、その皮膚は浅黒く変化しており黄色かった目は真っ赤な光を放っている
「この死にぞこないがぁぁぁ!!」「俺たちだってヤレるんだ!!」
さっきの南斗の勝利に興奮した一部の若いハンターが武器を手にアマイモンと名乗った黒いキングに向って突入していく
『愚かなり人間、哀れなり人間、儚きなり人間【魔人剣】』
アマイモンが黒い剣を振り上げると、目に見えない衝撃波が突入していったハンター達に襲い掛かる
「がぁぁぁ」
アマイモンの放つ衝撃波を全身に受け宙を舞いながら吹き飛んで戻ってくる数名のハンター達、直ぐに小五郎が駆け付けるが
「なっ!?全身の骨が粉々だ・・・急いで治療を!!」
【【我求めるは万物の癒し、神の神秘の光を我に、ハイヒール】】
小五郎の指示で支援の治癒職が負傷者に治癒魔法を施す
「南斗ぉぉ気を付けろ、奴は普通じゃないぞ!!」
小五郎からの声に返事をする事も無く、真っ直ぐアマイモンに向ってゆっくりと歩み寄る南斗、アマイモンも南斗の様子に気づいていたが何か思うところが有るのか先程の衝撃波を出さない、それ処か口元に笑みを浮かべ南斗が自分の元に来るのを待ってるかの様だ
『小さき者共の勇士よ、先ほどの借りを返そうぞ、貴様は我が自分の手で葬りさってくれる』
「見せて貰おうか・・その自信の程を」
そう言うと南斗は深く深呼吸をして、ミスリルの剣を背中に隠し少し身を屈め左手をゴブリンキングの視線に向ける・・
先程のカウンター技を仕掛けるつもりだ
『先ほどのカウンター技だな・・・面白い受けて立つ!』
アマイモンはニヤッと笑いながら黒い大剣を振りかぶり、南斗に向って突進してくる
ヒュー――と風を切り割く様な音と共に黒い軌跡となり振り下ろされる
撃ち込まれた黒い大剣は先程のキングの一撃とは速度も鋭さも段違いだが、流石に歴戦の達人である南斗はタイミングを絶妙に併せて見せる
「はっ!!」
南斗は左手の甲で黒い大剣の側面を打ち込むが・・・・・・
「!?っっ」
南斗のいなしはアマイモンの黒剣を打ち払う事が出来ず、そのまま南斗の肩口に食い込む
「くっ!!!」
しかし南斗は咄嗟に身を屈めアマイモンの黒剣をミスリルの剣で受ける、アマイモンの理力で押し込まれる黒剣は南斗の肩口の半分までめり込み南斗の銀色の鎧からは鮮血が迸る
「うぉぉぉぉ!!!」
南斗は強引にミスリルの剣を持ち上げ黒剣をなんとか肩から外す事ができた、しかし起き上がった南斗の左腕は異様な状態で垂れ下がったままで辛うじて千切れずにくっ付いている状態だ
「南斗ぉぉぉ!!!【我求めるは神聖な癒しの風、聖櫃の光輝く壇上に、奇跡の柱を奉らん、エクスヒール】」
小五郎は咄嗟の早読みで南斗にエクスヒールを放ち、南斗の腕は元通り修復される
「くっ・・・すまない小五郎・・・助かった」
左肩を押さえ、悔しそうな表情を浮かべる南斗は再びアマイモンに向き直ると、「ふぅ―――」と深く深呼吸すると地面にミスリルの剣を突き刺し目を瞑る
『なんだ?諦めたのか・・・興ざめだな・・・であれば後ろのヒーラーから先に始末するか』
アマイモンは黒剣を頭の上でクルクルと回しながら下段に構え先ほど放った魔人剣の体制に入る
「皆ぁぁ蜂須賀さんを守れぇぇぇ壁になれ!!」
数名の前衛職のハンターが小五郎の前で防御の体制を取り決死の覚悟で肉の壁を作る
「君たち!!無茶だ」
小五郎の声に震えながらも防御の構えを崩さないハンター達はさらに身を寄せ合い隙間を詰める
『まとめて屠ってくれよう、痛みも恐怖も一瞬だ・・・・魔人剣』
目に見えない衝撃波が黒剣から放たれ、地面を抉りながら小五郎たちに襲い掛かる・・・・