〇富士の樹海前 防衛戦左翼 鳥居部隊
鳥居夫婦の活躍により左翼に押し寄せたゾンビの魔物の群れは出鼻を挫かれるが、数は力だ・・魔物の数はいまだ底を知れない
「マジシャン部隊、魔術詠唱開始!!」
傑の掛け声に合わせ鳥居スタッフ所属の魔術師部隊とマジシャンのハンターによる大人数の詠唱が始まった
「撃てェェ!!」
40人近い炎魔法の一斉射によりゾンビの群れが爆炎に包まれる・・・立ち上る炎の中で黒焦げになりながら蠢く様に崩れ倒れるゾンビ達
「次の魔法詠唱を開始しろ!!敵はまだまだ残ってるぞ!!」
・・・・・・・・
・・・・・・
「・・・ねぇ貴方・・これで何射目?」
「・・・5射目だな・・・もって後5射って所か・・・」
(そう・・・これがこっちの部隊の致命的な弱点だ、魔法は強力だがMPには限りがある・・・ある程度は魔法薬でMPを回復できるがそれも何時まで持つことか・・・)
そんな傑の心配を見越した様にゾンビの魔物の進撃は一向に緩む気配は無い
「なぁ美月、雪菜さん・・・おかしくないか?いくら魔物がゾンビだって言ってもいい加減数も減らしているのに、スタンピードの数が減る気配もないのは・・・」
尋常でない状況に不安を感じた傑は美月と雪菜に状況を尋ねる
「ええ・・・私も変だと思ってた所・・何かカラクリが有るはず・・・」
「ネクロマンサー・・・・」
ぼそっと雪菜が呟く
「え?雪菜さん何か心当たりでも?」
「え?いや前にお父様の日誌に死人や死んだ魔物や動物をゾンビとして蘇らせて使役する魔物が居るって書いてあってそれがネクロマンサーって名前だった気が・・・」
(死人や死んだ魔物や動物をゾンビとして使役する魔物・・・聞いたことないがそんな奴がいたんじゃこちらはジリ貧だ・・何とか引きずり出して、その本命を仕留めないと・・)
支援部隊の方に目を向けると、数名の魔術師が魔法薬を一気飲みしてMPを回復している、そこに斥候として森に潜んでいた盗賊のハンターが報告に駆け付ける
「鳥居社長!!新たな魔物が!!あれは上級の魔物・・・デュラハンです!!しかも2体も!」
デュラハンとは首なしの騎士が鎧をまとったゾンビ系の魔物だ、主に長剣や斧、モーニングスター(鎖で繋がっている鉄球)の武器を使用して攻撃する、鎧を着てる分防御力が高い
物理攻撃が通りにくい為、魔法攻撃が有効と思われがちだが個体の中には魔法防御効果のある鎧を纏う者もいると言う
そして一番の特徴は身の丈程もある大盾に顔がレリーフされており、この盾自体ががデュラハンの頭となっている・・しかし盾の防御力も有りデュラハンの弱点にはならない
デュラハンの鎧の中にある核の部分が唯一の弱点と言われている
「くっ・・・厄介だな・・・ここはファイターに抑え込んで貰ってる内に上級呪文で一気に蹴散らすしかないな・・・」
「私も聖域を使うわ!」
雪菜も戦いへの参戦を申し入れる、しかし・・・・
「雪菜さん危険だ!聖域は範囲が狭い、デュラハンを有効範囲に入れるとなると前衛に出る事になるんだぞ!?」
しかし雪菜は引き下がらない
「そんな事は覚悟の上!このままじゃ被害が増える一方よ、それにまだ本命は姿すら見せてないのよ、このまま戦力を削られては左翼は一気に崩れるわ!!」
「・・・・・・・解った・・・頼む・・」
前線のファイターも歴戦の勇士達だ個々では太刀打ち出来ないが、十名近くのファイターが2体のデュラハンに掛かりきりで抑え込む、今はゾンビドッグやグールの進撃が落ち着ていて助かっているがそれも何時までの事か解らない以上長引くのは危険だ
「ファイターの皆さんもう暫く抑え込みお願いします、それと蜂須賀さんがデュラハンを聖域に閉じ込めます、彼女の警護を!!」
「「「「了解!!」」」」
即興の部隊とは思えない連携で魔法と物理が効率良く機能しデュラハンに思う様に行動させない
雪菜さんはデュラハンとの距離を的確に測り、聖域の届くギリギリの範囲を見極め位置取ると杖を地面に突き立て詠唱を開始する
デュラハンの一体が雪菜さんの聖なる力の集約を感じ取り、抑え込んでいたハンターを蹴散らし右手に構えたモーニングスターを振りかぶり雪菜の頭上めがけ打ち下ろす
「やらせるかぁ!!!」
雪菜を庇う様に前に立ち大剣でデュラハンのモーニングスターを受け止める女ファイター
「賢者さんはアタイが守る!!橋本ぉぉ!!目くらまし」
「うるせぇぞ!!ゴリラ女ぁぁくらえぇぇぇ!!」
女戦士の合図に何処からか現れた盗賊の男が不貞腐れた様に現れ手にした薬品をデュラハンの盾目がけ投げつける
パリィン!!
割れた薬品の瓶からは黒い液が飛散しデュラハンの盾の顔に付着する
デュラハンは雪菜達の姿を見つけられないのか盾を左右に動かしながら立往生している・・・・二人のお陰で一瞬とは言え足止めが出来ようやく雪菜の詠唱が整う
【我求めるは神の輝きに守られし楽園、安寧の柱と寛美の壁、慈恩の屋根に祈りの聖域を得たり、サンクチュアリ】
雪菜を中心に地面に白く輝く魔法陣が生成され半径10メートル程広がると半球状の球体となる
「今よ!!傑さん美月!!」
【【我求めるは、地獄の業火、深淵より吹きあがり我が敵を焼き尽くせ!ヘル・ファイア】】
雪菜の生成した聖域の効力によりデュラハンは身動きが取れず、魔法耐性、物理耐性が大幅に減少している状態で傑と美月のヘル・ファイアを受ける
デュラハン2体に殆ど同時に着弾する、二人の撃ち込んだヘル・ファイアはデュラハンの頭上で炸裂する事無く正確に鎧の首の部分から鎧の中に吸い込まれる様に着弾した
ドォォォォン
二つの爆音と共にデュラハンは鎧の内側から爆散し足だけ残し吹き飛んだ
「・・・・やった・・・やったぁぁぁ流石上級の呪術師と賢者だぁぁ!!」
上級のデュラハン2体を同時に打倒して左翼部隊は歓喜に沸く、雪菜はさっき自分を守ってくれた女ファイターと盗賊の男に歩み寄ると頭を下げる
「先ほどは危ない所を助けて頂き有難う御座います」
「あ、い、いや・・アタイ・・私は以前に貴方の娘である雫さんに命を助けて頂いた者です、少しでも恩を返せて何よりです!!」
「いやぁぁぁ流石雫ちゃんのお母さん・・・美しいぃぃぃ俺、盗賊の橋本って言います雫ちゃんとはマブダチで!?ててててって!!何すんだメスゴリラぁぁ!!」
女ファイターに耳をつままれ前線に連れて行けれる橋本と名乗った盗賊のハンターにも雪菜は頭を下げる、橋本と名乗った盗賊の男は耳を引っ張られ連れて行かれながら手を振りながら前線の集団の中に消えて行った
「こんな戦場で雫の名前を聞くとは・・・・ふふ・・まだまだ死ねないわね!」
傑と美月も周りに見えない様に足元付近で拳を合わしてお互いを称える
「・・・かなりゾンビ共の勢いも削がれて来たな・・・・」
傑の見立て通りさっきから出現してるのは動きの遅いグールばかりでゾンビドッグの姿は殆ど見かけない、グールは動きが遅い分狙いを定めやすく距離のある戦場では魔法使いの恰好の獲物だ
デュラハンを排除して士気の上がってる左翼防衛部隊の敵ではない
(このまま押し込める・・・・・・と言う訳には行かないよな・・・)
そんな傑と美月、雪菜の元に斥候である盗賊の女性が駆け寄る
「報告します!!密林の左端にローブを身に着けた大型のゾンビの存在を確認!個体の種別は判明しませんが魔素の保有量から上級以上と推測します!!」
「!?ようやく出て来たか・・・・ネクロマンサー・・・」