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第90話 人の矜持を全うせし呪術師 鳥居 傑

〇富士の樹海前 防衛戦左翼 鳥居部隊



「我求めるは 雄々しき嵐の空、その雄叫びは如何な者も畏怖し身を正す・デュアルハリケーン」


「我求めるは 極海を制し氷の山、真なる姿を現し巨魁にて極寒へと誘え・・・アイスメテオ」


傑は上級魔法を連発でスカルドラゴンダミーとネクロマンサーに絶え間なく打ち込む・・・


グビグビッ・・・


「ふぅ――まだまだぁぁぁ!!」


傑の足元には空になった魔法薬の便が何本も転がっている・・・腰のバッグに用意していた最後の一本を飲み干し瓶を投げ捨てると口元を拭い杖を構える


「・・・・傑さん・・・もう少し・・・もう少しで美月がきっと・・」


雪菜も聖域を維持する為に魔法を更新し続けており、傑同様に魔法薬を摂取し続けている・・・二人とも既に限界を超えている


詠唱する為の精神力を鬼気迫る気合だけで絞りだす・・・しかし・・・


「サ・・サンクチュ・・アリ・・・・・」


ここに来て雪菜が力尽き杖と共に倒れる・・・


「雪菜さん・・・ここまでか・・・「我求めるは赤き炎 ファイア」」


しかし傑の杖から撃ちだされた炎の初級魔法はネクロマンサーに届く事なく途中で霧散する・・・


「もう・・・MPが・・・」


傑は自分の右手を見つめ・・・ゆっくりと膝から崩れる・・・・


その瞬間、雪菜の作り出した聖域がその輝きを失い地面に展開していた魔法陣ごと霧散する


カタカタ


ネクロマンサーは口を動かし、勝利を確信したのか杖を掲げ不敵に笑いだした


それを合図にスカルドラゴンダミーが傑に向って突進してくる


砂塵を巻き上げ鋭い牙を見せつける様に大きな口を開け一気に傑に噛みついた


「ぎゃぁぁぁぁぁぁ」


腹に噛みつかれ、スカルドラゴンダミーの口の中でもがく傑・・・噛みつかれた腹にはスカルドラゴンダミーの牙が深く食らい込む


「がはっ!!」


牙が肺に到達し血液が気管を通じ逆流し傑の口から大量の鮮血が吐き出される・・・


スカルドラゴンダミーの口の中で力なくグッタリする傑


「・・・す・・傑・・・さん・・・我求・・めるは万物の・・癒しの神秘・・・の光を・・我にハイ・・ヒール」


雪菜は地面に打つ伏したまま傑に方に手をかざし最後の力で治癒魔法を撃ちこむとそのまま昏倒した


雪菜の最後の治癒により、傑の内臓は致命傷より治癒され復元したが食らいつかれたままの状況には変わりなく腹部に突き刺さる牙の痛みに苦悶の呻き声を上げる


「こ・・・このまま・・終れるかぁぁぁぁ」


傑は胸の中に仕舞っていたペンダントに手をかけ引きちぎると・・・・最後の力を振り絞りスカルドラゴンダミーの口の中に叩きつけ壊す



パリィン!!


壊れたペンダントから発する激しい光と共にスカルドラゴンダミーの口の中に光の球体となったグレートウォールが現れスカルドラゴンダミーの顎骨が破壊され傑は牙から解放され地面に落下する


カタカタ


予想外の事に怒りの様子を見せるネクロマンサーは憤慨し杖を振り回しスカルドラゴンダミーに傑を踏み潰す様に指示した様だった


スカルドラゴンダミーの口は破壊されボロボロと崩れる顎骨を気にする事も無く、落下し仰向けで倒れる傑に歩みよると右の前足を持ち上げる


傑の身体の倍はあろうかと言うスカルドラゴンダミーの前足が傑の頭上から迫る


傑は口元に笑みを浮かべるとそっと目を閉じ呟く


「・・・・ふっ・・・くたばれ・・・・化け物が・・」








【犬飼新陰流奥義  光陰荒魂】(いぬかいしんかげりゅう こういんあらみたま)




ヒュー  キィン




風の切れる音と刀が鞘から抜けた時の音が同時に聞こえると


傑の目の前にある空の中に縦横無尽の光の筋が網目の様に流れ、スカルドラゴンダミーとネクロマンサーを絡めとる様に包むと・・・・




ガラガラガラ・・・・・




スカルドラゴンダミーとネクロマンサーの身体はバラバラの骨の破片となり砂煙と乾いた音を立てその場に崩れ再び骨の山となる・・・




「・・・・・お待ちしてました・・・先生・・」



「・・・待たせたな・・傑」




いつの間にか傑の傍らに立っていた人影は・・・仕込み杖の鞘に淡く輝く美しい刀を納刀し傑の方を振り返る



「犬飼会長・・・」


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