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第91話 黒狼

〇富士の樹海前 防衛戦中央部隊(犬飼司令直轄部隊) 防衛前線



・・・・・・・少し時間を遡る事おおよそ1時間前


犬飼司令直属の中央部隊も既に敵と会敵(かいてき)しており、混戦状態に突入していた・・・・


「師匠・・・なかなか数が減りませんな・・・」


中央部隊は鳥飼、十文字の率いる左右の両翼部隊のおおよそ半数で構成されており、数の上では一番手薄とも言える部隊であった


しかし・・・・・


「岩城・・口を動かす前に手を動かせ・・・」


この部隊の中央戦域は実際3名だけで維持している・・・その分左右に陣形を広げる事が出来ており数の不利を感じさせない


特に犬飼 源蔵の動きはとても70歳を超えた老人とは思えない動きだった・・・


迫りくるベイルウルフの群れを一刀で切り伏せる・・・まさに鬼神・・黒狼の異名は伊達ではない・・仕込み杖から抜き放った刀は目にも止まらぬ速度で振り抜かれ源蔵が歩いた後は魔物の死体が転がっている


その少し離れた横の場所で両刃の大きな斧を軽々と振り回しベイルウルフやアルミラージュ(角つきのウサギの魔物)を切る・・・というより破壊しているのは岩城と呼ばれる中肉中背の顔や腕に幾つもの傷を持つ年配の歴戦ファイタ―


「たっく・・・親ッさんは相変わらず無茶苦茶ね・・・」


そんな岩城の後方を杖を抱えながら距離を一定に保ちつつ、要所要所で岩城にバフを掛け防御力と攻撃力を底上げしてる中年の女性ヒーラー坂野が岩城の猪突ぶりに呆れて呟きながらも戦線を維持してる


・・・・中央部隊のメインの戦場は実質この3人で維持していた、しかしそれにしても特筆すべきは犬飼会長の動きだ・・歩み自体はゆっくりとした歩みだが・・いや逆に一度して歩みが止まってない


源蔵の繰り出す剣閃と仕込み杖を振るう腕の動きは常人の目には捉えられない・・・ただ光の筋が源蔵の前方で煌めく度に数体の魔物の血飛沫と肉塊が舞い上がる


そんな源蔵の傍には誰も立ち入れない・・・まさに剣の結界・・



・・・・・・・・・・



・・・・・・・・・




すこし前に中央部隊の犬飼司令の元には既に右翼に次いで左翼も戦端が開いたとの報告は入ってきていた・・・その報告と同時に中央部隊の目の前の樹海入り口にもスタンピードの第一陣が到達した


源蔵はその場で中央部隊を3つに分け左右に5パーティー分をそれぞれ振り分け中央部を一人で受け持つと部隊のメンバーに告げたが、岩城と坂野の二人が手を上げ同行を申し出てきた


「不要だ・・・岩城・・お前ほどの実力者なら左右どちらかの指揮を任せたいと思っていたのだがな・・」


冷たい物言いだが的確に岩城の実力を評価し信頼を寄せてる事は伝わってくる


「師匠、お恥ずかしながら俺は先の南口のミッションで、下手打って瀕死の重傷を負いパーティー崩壊の危機を若干17歳の素人小娘2人に助けてもらって、みっともなく生き残ったロートルですよ、ましてパーティーメンバーの半分は左翼の傑の方に娘から受けた恩を返すと言って付いて行っちまった・・まぁ俺達は半パーティーって事で頭数から外してお供させて下さいよ」


岩城の表情からは先ほどの話とは裏腹に清々しくも晴れた表情をしてた


「岩城・・・その歳でいい顔をするようになったな・・・その娘達に未来を見たか」


「ガハハハハ、いやーまいったまいった、師匠の目は誤魔化せん・・・・・・・不詳一番弟子 岩城・・・師匠の露払いをさせて頂きます」


岩城は礼儀正しく頭を下げる


「良かろう・・・坂野も共を許そう・・行くぞ」




・・・・・・・・・・・・・・・・・・



・・・・・・・・・・・・・・



岩城は自身も魔物の猛攻を抑え込みながら源蔵から遅れを取らない様に前線を押し上げていた


「流石、師匠・・・犬飼新陰流の黒狼と愛刀「神刀 滅却」(しんとう めっきゃく)だ、人の域では無い・・・十文字の奴は、あれに追いつくつもりなのか・・・若さだな・・・」


魔物の群れは途切れなく襲い掛かるが流石に源蔵の異常なまでの強さに魔物達も距離を取りだす・・・・しかし・・・その後方から2体の大型魔物が現れ、逃げようとするベイルウルフとアルミラージュを大きなこん棒と槍で叩き潰している


『がぁぁぁらぁぁぁ!!逃げる奴・・・潰す』


『やれやれ・・・所詮頭の中はゴズ(牛頭)並みの耳カス脳味噌の魔物ですね・・・』


出現した魔物は身の丈15メートルにもなろうかと言う巨人だった・・・・しかしその2体の頭は人間のそれとは異なり牛の頭と馬の頭であった・・・そして


「し、師匠・・・あれは・・・あの黒い身体・・・見覚えがあります・・あれは・・・魔族によって強化されたネームドの魔物・・・」


黒い身体に隆起した筋肉、人の胴体よりも太い腕には血管が浮き出ており、牛の頭の魔物はベイルウルフの血肉がへばり付くこん棒を何も考えなく振り回す


一方馬の頭の魔物も同じように黒い体に強靭な筋肉・・・隆起した腕には身の丈よりも長い槍が握られており逃げだそうとしていたベイルウルフを串刺しにして焼き鳥の様に5体が連なっている


『ほう・・・我等ネームドをご存じですか、でしたらまず名乗らせて頂きます、私はケルピー(馬によく似た魔物)より主の力で進化しましたメズ(馬頭)と申します』


『がぁぁぁぁぁ、ゴズぅぅ』


馬頭の魔物は理性が備わっているみたいだが、牛頭の魔物は理性の欠片もない


ガリガリッ・・・ガリガリッ


メズは串刺しになったベイルウルフを焼き鳥を食べる様に捕食しはじめた・・・・・


『メズぅぅおれに食わせろぉぉぉ』


そんなメズの槍に手を伸ばして槍を奪い取ろうとするゴズ・・・・しかし


ドガッ!!


メズの裏拳がゴズの顔に命中する


『ゴズ・・これは私の獲物です横取りは許しません・・・死にたいですか?』


メズに殴られ真っ赤な目を怒りに輝かすゴズはメズに向って殴りかかる・・・・2体の魔物は源蔵達の目の前で仲間割れを起こし殴り合いの喧嘩を始めた


丁度その時・・・・・


「犬飼会長!此方にいらっしゃいましたか、伝令です!」


二体のネームドの仲間割れを傍観していた源蔵の元に何者かが駆け寄る


「!?橋本?」


「!?親ッさん?!」


現れたのは鳥居部隊に木津と一緒に参加していたはずの、岩城パーティーの盗賊、橋本だった


「っ!?い、いや今はそれどころじゃない、犬飼会長!!左翼部隊、鳥居 傑と蜂須賀 雪菜は敵のリーダーと思われるネクロマンサーと会敵し交戦状態になるも相手の召喚したスカルドラゴンダミーとネクロマンサーの硬い魔法防御に阻れ劣勢、このままでは長くは持ちません・・・なにとぞ援軍を!!」


「・・・・美月は・・・鳥居 美月はどうした・・・」


橋本は渋い顔をしながら答える


「本来、美月さんが会長に援軍を要請しに来るはずだったんですが・・・途中で魔物の襲撃に遭って・・・私ともう一人でなんとか救出したのですが足を負傷しており・・・」


「なるほど・・・橋本と言ったか・・ご苦労・・傑程のプライドが高い男が自分の妻を援軍要請の使者に寄越すとは・・・由々しき事態のようだ・・・」


源蔵は仕込み杖をシューっと抜き


「岩城、坂野、露払いをせよ」


「はっ」「了解しました」


坂野は岩城にバフを掛けると、道中に魔物に襲われたであろう・・細かい切り傷を負っていた橋本を治療する


「うぉぉぉぉぉぉ!!アックススマッシュ―!!」


相変わらず仲間割れし殴り合いしてるゴズとメズの足に渾身の一撃を放つ岩城


『!?』『いでぇぇ』


岩城の一撃はゴズ、メズの足を切り飛ばすまでは行かないがアキレス腱にダメージを与える事に成功し、二体は地面に膝を付く


【犬飼新陰流 黒滔滔】(いぬかいしんかげりゅう こくとうとう)


いつの間にかゴズ、メズの間に立っていた源蔵はゆっくりと仕込み杖に神刀滅却を納刀した


カキンッ


納刀の音と共にゴズ、メズの頭部が縦に3つ切り傷が走り鮮血をまき散らしながら地面に落下する



「橋本・・・傑の元に至急案内せよ」








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