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第92話 託された希望

〇富士の樹海前 防衛戦左翼 鳥居部隊



【犬飼新陰流奥義  光陰荒魂】(いぬかいしんかげりゅうおうぎ こういんあらみたま)


ヒュー  キィン


風の切れる音と刀が鞘から抜けた時の音が同時に聞こえると


傑の目の前にある空の中に縦横無尽の光の筋が網目の様に流れ、スカルドラゴンダミーとネクロマンサーを絡めとる様に包むと・・・・


ガラガラガラ・・・・・


スカルドラゴンダミーとネクロマンサーの身体はバラバラの骨の破片となり砂煙と乾いた音を立てその場に崩れ再び骨の山となる・・・



「・・・・・お待ちしてました・・・先生・・」


「・・・待たせたな・・傑」


いつの間にか傑の傍らに立っていた人影は・・・仕込み杖の鞘に淡く輝く美しい刀、神刀滅却を納刀し傑の方を振り返る


「犬飼会長・・・」


「無事で何より・・・坂野、傑と雪菜の治癒を頼む・・・・岩城は残敵の掃討」


源蔵の後を必死で追いかけて来たであろう岩城と坂野へ指示を飛ばす


「はっ!」「任せてくれ」


坂野は雪菜にMP回復の魔法薬を飲ませ、落ちつたのを確認すると傑に治癒魔法を施す


「先生・・・美月は・・妻は無事先生の元に・・・」


「美月は途中で魔物の襲撃にあってな・・・今後方に下がって治療を受けてる、心配するな足を捻挫しているが命に別状はないじきに良くなる」


傑は坂野からの治療をうけながら、源蔵に土下座する


「この度は受け持った前線を維持できず、先生のお手を煩わせてしまい・・・申し訳御座いませんでした・・・」


源蔵は骨の山となったネクロマンサーとスカルドラゴンダミーの方を見て目を細める


「なに・・気にするなあの魔物は魔法防御が異様に高くなってる様だった、魔法部隊とは相性が悪かったのだろう・・その中で良く抑え込んでくれた」


源蔵のねぎらいの言葉も俯いたまま悔しそうに地面に付いた手で土を掻く傑、そんな傑を無表情で見つめる源蔵は


「傑・・・この場はお前に預けた戦場だ・・援軍の要請も指揮を執る者の裁量だ、もしお前がプライドから援軍を求めずこの戦線が崩壊していたら数百、数千の市民に被害が出ていたかもしれない」


「・・・・・・・・・・・・」


「お前の判断は今の時点では最善であった・・・まずはその事を誇れ」


「はい・・・」


「うむ・・・ではこの場は引き続きお前に任せる・・・・頼むぞ」


「了解しました、引き続きこの場を死守します」


源蔵は傑の返事を確認すると黙って頷き、岩城と坂野を引き連れ中央の部隊へ戻っていった



「師匠、呪術師 鳥居 傑 程の者がここまで追い込まれるとは・・・今回の戦いかなり厳しい物になりそうですな・・」


移動途中で岩城が不安げに源蔵に声をかける


「今回はオロチが35年間貯め込んだ魔素に加え魔族も関与してる・・・オロチ1体でも手に負えないのに魔物の氾濫だ、本来なら絶望的な状況なのだろう」


源蔵の含みのある物言いに気づいた岩城


「そう言いながらも師匠には絶望や不安は感じ取れませんね、やはり会場でも仰っていた龍道 進という男ですか?」


岩城の言葉に源蔵が少し眉を動かし口元を緩める


「ふふふ・・・若い才能を目にするのは老い先短い年寄りにとってこの上ない喜びだ、まして今まで見たことも無い様な底知れない才能だ」


「これを期待するなと言う方が無理と言うものだろう?岩城」


その言葉に岩城も苦笑する


「あははは、確かに俺もそんな才能を持つ若い芽を2つ知ってます・・・もしかしたら彼らは俺たちの想像を超える何かを成し遂げるかも知れませんね」


源蔵はそんな岩城の言葉に答える事無く遠くに見える富士山に目を向けそっと微笑む





〇富士山  登山ルート 9合目



場面は変わって対オロチ部隊である龍道チーム


俺たちは今、富士山の登山ルート9合目の標識の元で最後の休憩を取っている


「皆、大丈夫か?」


「ええ、少し寒いのと息苦しかったけどだいぶ慣れて来たわ」


「こんな所で弱音吐いてられないからね」


流石に若いだけあり、雫と五月は順応力が高い・・・まぁそれだけでは無く元々のステータスも上がってる様だが・・・


「星奈さんと由利さんは、大丈夫ですか?」


「・・・・ええ、なんとか・・大丈夫・・」


「・・・平気だから気にしないで」


二人とも平気とは思えない様な疲労が伺える表情を隠せない程、困憊してる


「お二人とも、頑張りましょう」


黙って頷く二人に頷き返し、出発を促そうと立ち上がった時・・・


「あ、あれ見て進!!」


五月が指差す富士山の山頂付近に黒い霧の様な雲がかかり赤い稲光が荒れ狂う


「物凄い濃度の魔素だ・・・・いよいよオロチが封印から出て来るのか・・・皆急ごう!!」





疲労感も忘れる程の不安感を胸に抱き5人は富士の山頂目がけて登頂速度を速めるのだった・・・








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