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閑話17  この地にて・・・⑤


〇笹本ホテル  フロント



この日は朝早くに紅を伴いホテルの外にあるガーデン前で準備を進めていた


「よし、必要なアイテムは持った・・・・紅の方はどうだ?」


「はい、大丈夫です」


俺は紅の方をジッと見つめる・・・


「旦那様、お気遣いありがとうございます、私は既に覚悟は出来ております旦那様が父を救う為に沢山悩んで頂いている事は存じております」


「ですので今はご随意に・・・」


紅は俺に向って膝をついて頭を下げる・・・・


「そんな畏まらないでくれ・・・オロチは俺にとっても大事な存在だ気持ちは紅と同じだよ」


「旦那様・・・・」


紅は傅いたまま赤いオーラを纏い、大きく膨れ上がり・・・・


『旦那様参りましょう』


「赤龍になった紅の背に乗るのも慣れて来たな」


『フフ、恐れ入ります・・・・では参ります!!』


紅はその大きな翼を羽ばたかせると、地面の砂が舞い上がり周囲に竜巻が巻き起こる


大きな後ろ脚が地面を力強く蹴り上げると風に乗るかの様に上空に舞い上がる・・・


既に何度目かの紅の背中・・・しかしこの上昇時の加重には中々慣れない・・・


一瞬にして雲を突き抜け真下に雲海が広がる空を風の音と紅の翼の羽ばたき音だけが響きわたり、紅の翼の先端には雲が切れた時の白い筋が空中に描かれる


『旦那様すぐに富士の山頂に到着します』


「ああ、宜しく頼む」


紅の言う通り目の前には雲から覗いた富士山の山頂が見えてきた


『旦那様このまま山頂に降ります』


紅はゆっくり高度を下げ先の戦いで抉られた富士の山頂へと降下していった・・・




・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


・・・・・・・・・・・・・・



「ほんの数日前にここで戦っていたなんてな・・・・」


「・・・・旦那様此方に御座います」


紅は此方を振り返る事なく俺の前を歩きオロチの封印された岩へと案内する・・・溶岩に囲まれた中央の小さな岩場の中央に俺の背丈の倍はあろうかという岩が鎮座する


紅が無言で手を翳すと溶岩が左右に裂け人が一人通れる道が出来る


「参りましょう」


紅は裂け目に出来た道を迷いなく真っ直ぐ歩き中央の岩場を目指す・・・・


「よし・・・」


俺も背中のアイテムの入ったリュックの位置を直して紅の後に続く・・・・



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


・・・・・・・・・・・・・・・


中央の岩場に到着した瞬間に裂けていた溶岩が止まった時から戻る様に通って来た道を再び溶岩で塞ぐ


俺は正面を向き直りオロチが封印された岩と対峙する


「それじゃ始めるぞ」


「紅は俺からリュックを預かるとチャックを開けて中身を取り出す」


俺は古い文献から転記した手帳を確認しながら手順を間違わない様に準備を始める


「まず初めに妖馬の鬣を岩に向って備えるのか・・・」


「畏まりました」


紅は妖馬の鬣を岩の上に乗せる・・・・・


!?


すると青白い炎と共に鬣が燃え出した・・・その炎がオロチの封印した岩に纏わり付くように渦を巻く


「ここでオロチの牙を岩に向って突き立てる・・・だな」


「お任せを」


紅はオロチの牙の尖った方を岩に向け躊躇う事無く突き立てる


紅の突き立てた牙はヒビが入り砕け散った・・・・・が、オロチの封印された岩にも丸い穴が穿たれ妖馬の鬣の燃る蒼い炎がその穴の中へと吸い込まれる



すると・・・・・


穿たれた穴が激しく光り俺たちの目の前に丸い光の鏡が出現する


「行くぞ紅・・・」


「はい」


俺は残りのアイテム親水の入った瓶を持って紅と共に光る鏡の中へと入った・・・・・・




・・・・・・・・・・・・・・・・



・・・・・・・・・・・



其処は真っ暗な空間・・・・どことなく運命の狭間の世界に似ている・・・


しかし狭間の世界には地面が無い正に無重力の中に漂うような感じだがここはちゃんと重力を感じしっかりと地面が有る


暫く歩いて進んで行くと目の前に青白い炎が輝いて見えてきた・・・


『誰だ・・・』


空間全体に重苦しい雰囲気の声が響く・・・以前この静岡に来た時に頭の中に響いた声だ


「ち、父上!?」


紅は俺の前に飛び出し青白い炎に向って駆け出した・・・俺もその後に続く


走っているが中々炎が近くなる気配が無い・・・


『此処は魂の牢獄・・・即刻立ち去るが良い』


「オロチ俺だ龍道 進だ」


「父上、紅に御座います!!」


『オロチ?我の名はオロチと言うのか・・・・それに龍道 進に紅・・・何処かで聞いたことが有る様な・・・』


「!?記憶が、記憶が無いのか?」


『記憶?分からぬ我は何故ここに居る・・・』


魂だけの存在となったオロチには俺たちの記憶どころか最愛の娘である紅の事も覚えてない・・・


しかし俺たちは諦める訳にはいかない・・・






「オロチ、お前に尋ねたい事がある・・・俺の質問に答えてくれ・・・」













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