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三回目のおじさん


「そろそろ着くぞ~、全員準備しろよ~」


 乗組員が慌ただしく動きだし、ゆっくりと船を港に付けて、器用に波止場の大きな金属の十字の棒にロープを巻き付け、ぎしぎしと締め付けると、船は海上で止まり、乗降口から、階段を降ろした。



「ふぁ~、もう着いたのか。あっという間だったな~」


「はっはっは、だから船の旅は良いよな。毎日が新鮮に感じられる」


 確かに、飛行機とかを知っている俺からしたら、たかが船かと思うが、車も飛行機もないこの世界では、船に乗るっていうのは新鮮で気持ちのいいものなのかもしれない。


 俺はただ、船の上から見る朝日や、食事が楽しかっただけなんだけれど、適当に頷いておいた。


「では、僕は次の船に乗っていくので、これでお別れですね。また一ケ月後には帰ってくるので、その時にまた会えたら、料理、楽しみにしています」


「おうよ、実家に戻ったらちゃんと両親に親孝行してやれよ? 俺も腕を鈍らせないようにしておくさ。達者でな」


「はい、ありがとうございます」


 凄腕元商人の料理大好き船乗りイテプワと別れを済ませ、次の船を待つ間どうしようかと考える。微妙な時間なんだよな。帯に短し襷に長しとはこのことだろう、どこか行くにしては少し短い、ただ待つにしては少し長い。


 という事で、第一回チキチキこういう食べ歩きでいいんだよ選手権~!! ルールは簡単、この周辺をてきとーにぶらついて、開いてる露店でご飯を食べて戻ってくるだけ! 神企画か?


 意気揚々と歩き始める。なにせ港町、漁師や船乗りたちの朝は早く、それに伴い、道端の露店も、店舗型の店でさえ既に開店しているところがある。


 ふらふらと既に出来上がっているおじさんたちの集団が出てくる店もあるが、あれは夜中も営業していて、今解散となった本日休みのおじさんたちだ。


 ああいうお店は、ちゃんと早寝早起きしてきた人間には少し味が濃すぎるのでやめておこう。すっきりさっぱりとしたものを食べたいのだ。


 とことこと歩みを進めると、とある露店を発見。


 店の前に立てられているメニュー表を見ると、コーヒーショップのようだ。豆も売っているが、主に、コーヒーを売っているようで、眠気覚ましにちょうどいいだろう。


 しかも、サンドウィッチも一緒に売られている。これ選手権優勝だろ。


「すみません、コーヒーとサンドウィッチを一つずつください。サンドウィッチは‥‥‥ツナマヨ!? ツナマヨってまだありますか?」


「うん、あるわよ。それよりコーヒー苦いけど大丈夫?」


「大丈夫です! コーヒー好きなので」

「ふふふ、大人ね。 はいこちら注文の品よ」


 露店のお姉さんにお代を払って、サンドウィッチとコーヒーを受け取ると、隣に併設された椅子に座り、行きかう人々を眺めながら頬張る。うん、美味い。


 ツナマヨもあれば、カレーやハンバーグ。本当に食に困らない世界で良かった。記憶があるってことは、味覚も引き継がれてるからな。しかも魔力をもったものだと殊更に美味い。このままいけばもっと俺の知らない食べ物もある気がする。この世界の楽しみがまた一つ増えた。


「苦いのもいける口なんじゃな、おすすめあるぞ」


 こんな食の進んだ世界に、退廃的な食を好む人物もいたな~。今目の前にいるお爺さんみたいな見た目の、変なものしか売っていないあのじいさん‥‥‥あの爺さん!?


 なぜこんなところに、いや、以前も見かけたから居ても不思議ではないんだけども。


 それに不穏なことを言っていたような気がする。いやいや、そもそも俺に言っているかどうかも分からない。あ、ばっちり目が合ってる。‥‥‥いいや! 俺じゃないかもしれない。


「おい、聞いておるのか? 子供にしては珍しくコーヒーを飲んでいる目の前のお前じゃ」


 お、俺かぁ。


「はい、すみません。ぼーっとしてました」


「コーヒーが好きなのか?」


「はい、まぁそうですね」


「では、そんなお主に良いものをやろう」

「いえ、大丈夫ですよ。あいにくと持ち合わせがありませんので」


 お金はもう本当にない。余計なものを買うお金は。ほんの少しあるけど、これは俺の大事な買い食い用のお金だ。


「タダで良いぞ?」


 こっわ、タダより怖いものは無いんです。丁寧に断ろう。こういうタイプの人は否定されたと感じると、態度が急変する可能性があるからな。


「いえいえ、悪いですよ。それに僕、急いでいましてそろそろ行かないといけない場所があるので、これにて」


“ガシっ”


「まぁ、そういうでない」


 思いっきり肩を掴まれ、逃げることもままならない。力つっよ、筋肉の年齢若すぎませんか? もしかしてあなたも若かりし頃は筋肉の民ですか?


 そう言って、そのおじさんが懐をごそごそといじくり、あるものを取り出した。


 なんだ?


 出てきたのは、植物の種らしきものだ。‥‥‥これは、どうすればいいんだ? 植える? それとも食べる?


「これは一体なんでしょうか?」

「売れ残りだ」


「はい、いや、そうなんでしょうけど。いつもそうですし。そうじゃなくてこれ自体は何なのでしょうか? どっかに植えるものですか?」


「いいや、食べ物だ。おつまみみたいなもの」


 植えるだけあって欲しかった。体内に摂取は少し怖いです。

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