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来ちゃった


 フィオナのことについて、話していると、あっという間に空は暗くなり、遅めの解散となった翌日の朝。


 皆と話したことで、少しだけすっきりした胸を通り抜けるように、朝焼けの潮風は冷たく気持ちいい。たまに顔に跳ねる水飛沫でさえ、趣を感じる。


 だいぶ急いでくれていたみたいで、もうそろそろ見えるはずだ。俺の地元のククルカ島。久しぶりに外から見るこの島はこんなに小さかったのかと不思議に思う。


 俺も大きくなったってことなのだろう。父さん母さんには悪いけれど、俺の大きくなった姿を見せることなくハバールダに戻ることを許して下さい。


 そんなことを思いながら、朝ごはんのために垂らしていた魔力糸を適当にクイクイと動かしていたからか、指先に何かが食いついた反応を感じた。


 魔力を動かし、釣り針を反すと、口の中に引っ掛かったからか、ものすごい勢いで逃げる様子を見せた獲物に、こちらも負けじと踏んばった。


「な、なんだ!? ものすごく重たい! これは大物だ!!」


 俺のテンションが急激に上がる、何故なら基本的に、この世界の食べ物あるあるなのだが、大きい物は美味い。この法則があるので、釣りをしていて指先の反応が大きいと興奮してしまう。


 周りの船乗りたちもやいのやいのと野次を飛ばしてくるが、本気で茶化しているものなどおらず、皆大物えお釣った後のおこぼれを狙っている。


 いいんだけどね、大きい獲物は一人で食べきれないし。


「調理は任せますからね!」


 軽いじゃれ合いの様な言葉の応酬は、俺の言葉と共に幕を閉じ、皆がその時を固唾を呑んで見守る。


 だいぶ暴れている今回の獲物、もしものために魔力糸を伸ばして、形を確認する。もしも魔物だった場合危ないからね。事前確認が大事なのだ。


 ということで、にゅるにゅると伸ばしていく、ふむふむ、やはり大きいな。鱗はある、魚? いや海洋生物か? もう少し見てみるか‥‥‥、一応、念のためにもう一度。‥‥‥。


 俺は急いで釣り針を外し、これ以上暴れないように、力を入れるのをやめる。


 大きく息を吸って、限界まで肺に空気を溜め、一気に開放する。そしてその勢いを利用して大声を出す。


「フィオアナアアアアアアアア!!!!」


 俺の声が船上で木霊する。周りの船乗りたちは、目を点にして呆けている。そらそうだろう、だって急に自分の仲の良い海竜の名を叫ぶ少年だ。誰も何も反応がないことが、より俺がイカれてしまったのではないかと錯覚させる。


 だけど、俺は知っている、魔力糸で繋がったその身体が高速で海面まで上昇してきていることに。


 来る――。


“ザバアアアアアン”


 海面が爆発したかのように水柱をあげた。観衆が腰を抜かす中、しっかりとその水柱から目を離さずにいる。


 するとその水のカーテンを裂いたように現れたのは、海竜だ。それも探し求めていたフィオナだ。


「ぴぃ!!」


 空中で元気よく鳴いた。やっと見つけたとでも言いたげな声をしている。


 お前なんてキラキラした目してるんだよ。こっちがどんだけ心配したと‥‥‥。目が合う一人と一体は双方とも目を潤わしていた。


 そして、そのままフィオナは船の甲板の上にビタンっと着陸した。


「お前~! 心配かけやがって!! このやろう」

「ぴぃ~、ぴぃ~」


 互いの存在を確かめ合うように、身体を抱き着かせて再会を祝した。

 俺たちが感動の再会に浸っていると、落ち着きを取り戻した周りの奴らが、遠巻きに声を掛けてくる。


「お、おい。 大丈夫‥‥‥なやつ、だよな?」

「えぇ、勿論です。襲われてるように見えますか?」


 質問に質問で返して悪いが、フィオナはいい子なので大丈夫ですよ。


「あぁ、頭を齧られてるからな。どっちか分からなかった。が、その様子だと大丈夫なんだな」


 そうか、これが愛情表現だということにここ最近疑問を持たなくなっていた。そうだよな、魔物の口内に頭が入っているって、世界の恐怖映像に取り上げられていてもおかしくないな。


「はい、この子が俺の言っていた海竜のフィオナです。そうとうのことが無い限り、この子から攻撃することはないと思いますが、念のために刺激しないようにお願いします」


 コクリと頷いたのを確認して、俺はフィオナに向き合った。


「それにしても、甲板にいると邪魔だな。‥‥‥フィオナ、ここは邪魔になっちゃうから海に戻ってくれるか?」


「ぴぃ~」

「お願い」

「ぴぃ」


 しぶしぶと言った感じで承諾すると、フィオナはそのまま船上から海に飛び込んだ。そして、船の横について並走している。うむ、こちらの姿が見えなくなったからと、寂しそうな声を出すのはよしてくれ、俺が姿を見せると、嬉しそうに表情筋が緩むの止めてくれ。


 可愛すぎんだろうちの子。


 しばらく眺めていると、危険はないと分かり、安心した船乗りたちに次々と肩を殴られた。

「心配かけやがって」だとか「問題ばかり起こしやがって」だとか、一言ずつ貰いながら、叩かれるのを受け入れる。全部ホントのことだしな。それより、この世界にも肩パンってあったんだ。

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