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普通にいる

 横になっているといつのまにか寝てしまっていたようで、母さんの声で目を覚ました。寝ていたといってもほんの20分ぐらいの様で、さして日は傾いておらず、依然上から熱い光を降り注いでいる。


 食卓には、先ほどの料理が完成しており、丼とお吸い物が三人分並べられている。


「お父さんはまだ帰って来て無いけど、先に食べちゃお?」


 待とうと言われても、先に食べますとも。こんないい匂いさせて、目の前でお預けは酷な話でしょう。


「じゃあ、頂きまーす」

「はい、どうぞ」


 まずは一口。うん美味しい。

 前世の猪肉とは違い、少しクセがあるけど、臭みは無い。このクセがいいアクセントとなって、それをフォローする様にタレが包み込む。流石俺の母さん料理の腕は鈍ってないようで。


 ご飯も半ばまで食べ勧めたところで、お吸い物に手を付ける。くぅ~五臓六腑に沁み渡るとは、このことを言うのではなかろうか。丼で濃くなった口の中を優しく洗い流してリセットしてくれる。


 ふぅと一息つく。


 さて、ここで目の前に問題から目を背ける訳にはいかないだろう。

 文字通り目の前で俺と食卓を共にして、丼を上品にチマチマと食べているソーニャについてだ。


 三人前の食事って、俺と母さんとソーニャの分だったのね。


「で、なんでソーニャがここにいるの?」

「ん、いちゃダメ?」

「いやダメってことは無いんだけど、しれっといるからびっくりて」


 幼馴染といえど、何も言わずに家に上がり込んでるなんて漫画じゃないんだから。

 田舎でも一言ぐらいあるんじゃなかろうか、前世で田舎に住んだ試しがないからわからんけれど。


「ソーニャちゃんここ最近はよく来てくれるのよ、すっかり慣れた光景だったから言うの忘れてたわ」


 母さん、それは言ってくれ。


「まぁ、別にいいんだけどさ。‥‥‥ソーニャは夏休みの間ずっとこっちにいるの?」

「うん、そのつもり。お父さんの仕事についていって手伝いをするつもり、あとはランディと過ごす」

「あら~、それは偉いわねぇ。ウチのランディとも仲良くしてあげてね」

「もちろん。お義母さんにはいつもお世話になってるから任せて欲しい」


 俺の承諾がないところに誰もツッコまないのか? ボケじゃない? そうですか。

 あと「お母さん」のニュアンスに義の文字が付け足されてたような気がするのは見逃してないからな。悪い気はしないのでスルーするけれども。


「そう言うランディは何するの?」


「えーっとそうだな~」


 なんだかんだ言って、子どもなのに予定詰め込み過ぎてる。いや子供だからか。一旦整理しよう。

 まずはフィオナの件だ。フィオナをノミリヤ学園に戻さなくてならない。ジェフさんたちが今日帰る際に組合に報告してくれるはずだから、一旦良いとして、期間は大体1ッ週間ぐらいで良いかな。


 で、一週間後にノミリヤ学園に行ったのち、その足でイヴの家に遊びに行くでしょ? 

 何日滞在するか分からないけど、数日はいるとして、往復で一週間以上はかかりそうだな。この時点で計二週間、残りの二週間弱はククルカ島でゆっくりしたいな。


 あ、あと宿題は早めにやっておこう。なにせ元社会人、締め切りを守ることに関して、日本人を舐めるなよ?


「一週間こっちに滞在して、次の一週間は友達の家に遊びに行って、戻って来て二週間こっちでゆっくりする。今のところこんな感じかな?」


「友達‥‥‥女?」

「‥‥‥違うよ、男のこだよ」


 ふぅ、危ない。一瞬「そうだけど」って言いそうになっちゃった。気を抜いていると、イヴのことを男だって忘れそうになる。


「今、少し間が空いた。‥‥‥怪しい」

「怪しくないよ、あ、そうだ母さんは分かるんじゃない? イヴだよ、イヴライ・ドットヒッチだって。俺の看病でノミリヤ学園に来た時に会ってるんじゃないかな?」


 これで立証できる、俺無罪、勝訴! ん? そもそもまだ付き合ってるわけじゃないんだから、俺が誰と仲良くしようと罪ではないのでは?


 いや、イヴは男のこだから付き合っててもセーフだ。いかんいかん、無意識下でソーニャに罪悪感を覚えてしまっている。これは、外堀だけでなく、城内に侵入を許してしまっているのか。


「あ~、イヴ君ね。あの女の子みたいに可愛らしい男の子よね。うん、確かに男の子だったわ」

「女の子みたいに可愛い? ‥‥‥ギリギリ」

「良かった。分かってくれたか」

「ギリギリ許せない」


 許されなかった。俺の周りの子たちは判定が厳しすぎないか?


「ま、まぁその話は置いておこうよ」


 俺は残っていた猪肉の丼を口の中へかきこんだ。ソーニャのジト目にしばらく耐えていると、彼女も諦めがついたのか、再びチマチマと昼ご飯をつつき始めた。



「ご馳走様!」


 食べ終え、食器を流し台において、逃げるように竜舎に向かった。背中に二人に疑念の目を抱きながらも、フィオナとフォルだけは俺を許してくれる。そう信じて走った。


 まず初めに辿り着いたのは、フォルのいる竜舎だ。他の調教師の人たちに、久しぶりと挨拶を交わしながら、フォルのいる部屋に辿り着く。


 久しぶりにお世話でもしようかな。

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