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戻ってしまったらしい

「あら~、いっぱいうんち出したね~」


 肉食だからか臭いのぉ。もう慣れたからいいんだけどね。


「ピッ」


 フォルは恥ずかしそうにして、俺の掃除を邪魔してくる。

 はいはい、あっち行ってってね。何百回とうんち見て来たんだから、今更恥ずかしいも無いだろうに、どこで覚えて来たんだよ。


 まさかとは思うが、使われてなかった竜舎で野糞して、それをフォルに見られた調教師がいたとか無いだろうな。‥‥‥やめよう。心当たりが多すぎる、全員調教のこと以外になるとガサツになる島民だらけだからな。


 フォルを押し出すように外に出させると、しぶしぶと言った感じで、海で泳ぎだした。またすぐに戻ってくるんじゃないかと見張っていると、諦めた様で、海の中にいる魚を獲ったりして時間を潰し始めた。


 それを確認すると、ふと思い出すことがある。


「そういえば、フォルとも昔話したんだよな、話したって言っても、俺の独り言だけど」


 フォルの背中に乗って、どこか遠くの海に出て行ってみたいって。そんでいろんなところに行って、現地で魚を獲って一緒に分けて食べたりしたら楽しいだろうなって。ダンジョンに挑んでみたりしてさ。


 ‥‥‥ん? ダンジョン? 何かを忘れている気がする。


 あ!! そうだ、ダンジョンが見つかったって話! 


 俺は急いで掃除を済ませると、他の竜舎に父さんを探して駆け付けた。





「お父さん! いる!?」

「おぉ~、いるぞ? なんだ? 母さんには遅れるって伝えてあるはずだけど」


 父さんも海竜の部屋の掃除をしていたらしい。分かる、この時間なぜかうんこが溜まりやすいんだよな。ってそうじゃない。


「違うよ。その件じゃなくて、もう聞いてるかもしれないけれど、ダンジョンだよ。近くにダンジョンが出来たって言うんで、海竜を貸してくれないかみたいな話! 聞いてる?」


 一応ね、聞いてはいると思うけど。責任者だし。万が一聞いてなくて知ってたなら教えろよって言われたらぐうの音も出ない。忘れてたなんて言える訳ないし。


「あ~、あれな。聞いた聞いた」

「どうなったの?」


 お、声色的にそこまで問題が深くなったりしていないようだ。

 ただ突っ立てるだけなのもなんなので、俺も手伝いを始めつつ話を聞く。


「今は冒険者たちがごったがえしてるらしいが、それが終われば、年に二回、ウチの大きい海竜10体だけ連れていく予定だ。‥‥‥まったく面倒なことになったものだ」


 一応聞いていた話の通りになったようだ。良かった、子供の意見だからと言って、もっときつい条件になっていたら目も当てられないところでしたね。


「冒険者たちのブームがどれくらい続くのかな‥‥‥。出来れば終わって欲しくないねぇ、面倒くさいから」


「だな。とはいえ、その期待は実現しなさそうだけどな」

「え? そうなの?」

「らしいぞ。なんでも階層で水中が多いから準備が大変で、出費と見込み収支が少ないから早々に見切りを付けられてるらしい」


 胃が痛くなるような話だ。ギルド的には絶対にウチの海竜たちを出動させたいだろうな。


「じゃあ今潜ってる人たちはなんでいるの? 儲けを出せる凄い人たち?」

「そーいう人もいるだろうが、今の大半はまだ別のルートがあるんじゃないかって、抜け道を探してる人らが多いらしいぞ」


 あー、なるほど。新規ダンジョンあるあるなのかな、隠し部屋みつけるととんでもない宝や利益があるってのは本当にあるんだろうな。


「頑張れ、冒険者」


 空に願っておいた。純度100%で冒険者の活躍を。ちなみに構成されている要素としては怠惰と心配を7:3で混ぜた面倒くさいだ。


「あーあ、誰かがちょうど水中戦が得意な人が彗星の如く現れたりしないもんかね」

「はっはっは、そんなに都合よく現れるかよ。それこそ魔物を相手にするんだ。海竜ぐらい強くないとな」


 そりゃそうだ。そーいえば、魚人族とかいないのかな? 見かけたことないけど、マーマンとかではなく、人間と同等の知能を持ってちゃんと文化を持ってる種族がいてもおかしくない気がする。異世界だし。


「まぁ実際には海竜も軍に卸す商品だから無茶させられないしね。軍に卸さない海竜なんて、出費がかさむから存在しないだろうし」


「ん?」

「?‥‥‥どうしたの?」


「いや、ちょうどいるなと思って」

「何が?」


「軍に卸さない海竜、いや、卸せなくて扱いに困っている海竜」


 え? そんな海竜いる? どうするの、王国法で殺処分も認められてないのに、そんな海竜を持ってるなんて正直調教師失格じゃない?


「どこに?」

「ほら、お前の後ろ」


 背後を指さされたので振り返る。


 開けっ放しのドアから海が見える。そこには一体の海竜がプカプカと遊泳している。

 あれは‥‥‥おいおい、嘘でいらっしゃいますよね? あれってフォルさんですよね?


「え? 今年卸すって――」


「お前以外乗せなくなったって言ったろう。誰が卸せるか。今は海竜の数の分、補助金も出るし卸せるから金は何とかなっているが、卸すための海竜以外は補助金出ないぞ? よって絶賛穀潰しルート一直線だ」


 調教師失格だったのは俺の方やった。


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