フィオナと遊んで、フォルと遊んで、ソーニャに後を付けられて、家族の団欒を過ごして、勿論宿題をこなしつつ、魔法で新しいことが出来ないか試したりして。そんなこんなで、一週間なんてあっという間に過ぎ去っていった。
光陰矢の如しとはこのことだろうか、ただ前世と違うのは、学園にいるときも仕事をしているときも、プライベートでのんびりしている時も、さして体感速度が変わらないという点だろうか。
そう、全部が楽しいのだ。転生してよかった。
「ランディ、ちゃんと荷物もった? 忘れ物ない? お土産は鞄の中に入ってるからね」
「大丈夫だよ、さっきも確認したから。‥‥‥それじゃあ、行ってくるよ」
「おう、気をつけてな」
「浮気は許さない。でもお土産は楽しみに待ってる」
なんじゃそれ、強欲か。
俺は心配性なお母さんの無言の圧力を背中に受けて、家の扉を開ける。
これは無事に帰らないと怒られるじゃ済まなそうですな。おぉ怖い。
本日も晴天で、海風が気持ちよく吹いてくる。その足でフィオナの竜舎に向かい、柵を開けて外に出してやると、最近お気に入りの流木を咥えて出て来た。
ついこの間見つけたので、投げて取ってこさせたり、海中からジャンプして取らせたりをしていたらハマったようだ。
「フィオナさん、昨日も言ったけど今日は遊ぶんじゃなくて、帰るんだよ。ノミリヤ学園に」
「ぴぃ?」
やだ、うちの子アホの子ばかかわいい。
連れてきてまだ慣れぬうちに、またすぐ移動は環境の変化でストレスになりやすいけど、それよりも今俺が心配しているのは、ここがククルカ島ということだ。
海竜の聖地とも呼ばれるここは、海竜にとって過ごしやすい環境である。もっと言うと過ごしやすすぎるのである。
軍に卸されて、戦いの中で生きている子なら、そんなことを考える暇も無いし、戦うことである程度のストレス発散になるからいいんだけども。引退した海竜ともなるとね。
ほら、見て見なさいよ。フィオナの顔、いつもよりだらしのない顔になってますよ。
「フィオナ、船の方まで行きたいから乗せてよ。あ、荷物は濡らさないように頼むよ」
「ぴぃ」と鳴いて背を屈め、俺を乗せると、いつもより海面から背中が出るようにして、海を進み始めた。
ところで、その流木いつまで咥えてるの? え、ずっと? そうですか。
飽きるまでそっとしておこう。
「お~い、ジェフさーん!」
俺が乗り込む何度目かの船の上に、見覚えのあるスキンヘッドを見つけたので声を掛ける。
向こうもこっちに気が付いたようで、一瞬ぎょっと目を丸くさせるも、俺が背中に乗っていることを確認すると、安心したように片手をあげた。
フィオナはすぐそばに待機してもらって、俺は船に乗り込み、いつもの部屋に荷物を下ろすと、ジェフさんのところに向かった。
「おう、今日は早いな」
「早いって‥‥‥時間通りに来たはずだけど?」
「だよな、お前はその感覚を持ったままでいてくれ」
そう言い辺りを見渡す。ジェフに倣っておれも周りを見てみると、乗組員の皆はまだ準備が出来ていないようで、忙しそうに身支度を整えている。
口に食べ物を詰めて、走り回ったせいでのどに詰まらせ、胸を叩いてるものもいるし。あ、今起きて来たのか寝巻のまま作業を始めようとしている人もいる。
ジェフさんがその人たちに向かってのっそのっそと歩いていき、何か一言二言会話したらしい。みるみるうちに相手の顔色が悪くなっていく。どうしたんだろうと思ったのも束の間、どでかい拳が脳天に振り下ろされてた。
“ゴッチーン”
おいおい、大丈夫か。こっちにまで音が聞こえてきたぞ。
俺はたんこぶを手で抑えつつ蹲る乗組員の頭蓋骨の堅牢さを祈って手を合わせておいた。
なんまいだぶ、なんまいだんぶ。
「で、ジェフさん。こっちに来るときは目的地がククルカ島だったから、良いものの、ハバールダの街に行くときはフィオナってどうすればいいですかね。昔のフォルみたいにはいきませんよ? あれは体が小さかったからなんとか大騒ぎにはなりませんでしたけど」
「あ~、それな。俺もどうしようかと思ったんだが、ことは上手くいきそうだぞ?」
「え、どうやって?」
「それはなぁ‥‥‥秘密だ」
なんだそれ。
「ん? 秘密?」
「あぁ、口止めされてんだ。言うなって」
ふむ、ハバールダの街、ジェフさんを口止めできるほどの人物。‥‥‥嫌な予感しかしないな!
「じゃ、じゃあフィオナはまた船と並走してもらう感じで良いですかね」
「あぁ、それで頼む。魔物も寄り付かねぇし、なんだかんだ言って楽な船旅になったしな。今回も肖らさて貰うぞ」
まぁ、海竜の元ボスの付近に自ら近づいてくるバカはいな――。いや、言わないでおこう。フラグになったら嫌だから。
あかん、こうやってメタい考えをしてるだけでもフラグは発生してきそうな気がする。あーあー、何も考えないー。そうだ、バカの子になろう。
「フィオナ! 背中乗せてくれ! 行くぞ!」
船の甲板から助走を付けて綺麗なフォームで入水すると、海中の俺の身体をさらに下から潜り込むようにしてそのまま俺を上へ上へと押し上げるフィオナ。
その勢いで空中に躍り出ると、そのままフィオナにライドオン。
「しゃあ! 出航じゃー!」
「おい、風邪ひくぞ。変なことしてないで戻ってこい」
「あ、はい。すんません」
ジェフさん可哀そうな子を見る目で見られた。