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見られる阿呆

 ハバールダの街にやって来た。ちなみにフィオナもちゃんと船の後ろにぴったりとくっついて、街からは見えないようにしている。


 時折顔を見せてやらないと、鳴いてしまうので、一時間に一回程度顔を見せた。そのおかげで少し寝不足だ。フィオナが寝るまで続いたからな。


 一週間ぶりのハバールダ港町は、相変わらず賑わっている。


「で、もう到着しちゃいますけど、どうやって中に入るんですか? このままだと絶対に見つかりますけど」


 目の前の開かれた大きな門にいる門兵たちは話しが行っているから、大丈夫だろうが、それを過ぎれば、街の人々に見つかり、混乱に陥れてしまうだろう。


「ランディ、お前、前回通った水路、そしてフォルを隠した俺の船着き小屋を覚えているか?」


 ふ、そんなもの――。


「覚えてる訳ないじゃないですか。何年前の話ですかそれ」


 なんなら意識のないうちに連れてこれてるんですもん。そりゃ、多少地図を見たり、辺りを見渡したりしてるから、なんとなくの場所は分かるけど、この賑わった港町、その規模を見て貰えば分かるのだが、いたる所に入り組んだように配置されている船着き場や、それに通じる水路の数々。

 さながら、迷路のようだ。


「だよなぁ‥‥‥。てことはだ、やるしかないんだよなぁ。先に言っておくぞ。これは俺の本意ではない。それと、すまん」


「え? ちょっと待ってください。どういうことです!?」


「‥‥‥」

「ちょっと! 黙ってないで! 教えてくださいよ!」


 その後も俺の呼びかけをフル無視しながら進んでいくジェフに、俺は恐怖を感じずにはいられなかった。

 俺にはわかる。これ、絶対良くないやつだ! 


 とりあえず、いつでも逃げられる準備だけして、フィオナに待機してもらおう。

 ランディは船の片隅に隠れて、駐車場で車の下に隠れる野良猫の如く、辺りを警戒していた。


 そうしているうちに、遂に港の船着き場に来てしまった。


「ぐるるるるぅぅぅ」

「すっかり野良猫だな」

「ふしゃーーー」


 フィオナの姿はすでにバレ、船の外から人々の騒めきが聞こえている。中には悲鳴も時折混ざっている。


 嫌だ! 変なことになっても絶対に責任取らないぞ!


 だが、いくらたってもジェフを含めた乗組員は誰も降りようとしない。それどころか船を陸に近づけるだけで、ロープで固定すらしていない。


 ? パニックに乗じて船に乗ってくるバカを止めるためか?


「ぴぃ――!!」


 その声が聞こえた瞬間、俺は船を飛び出した。

 今のフィオナの声は明らかに悲鳴だった。もしかして、どこかのバカが、見知らぬ海竜に蛮勇を図ったとは思えないが、焦る心が俺を突き動かした。


 たったったと駆け足のまま、船を飛び出し、フィオナに向かって体を放り投げる。


「誰じゃぁぁぁぁぁあああ!! うちのフィオナを虐める奴はああああああ!」



 ジャボンと海の中に落ち、すぐさま浮上してフィオナの前に両手を伸ばして盾になる。


 急に現れた俺に、街の人々は一瞬静寂を取り戻す。しかし、すぐに喧噪は広がる。


「危ないぞ!」だとか「誰かあの子を助けてあげて」などと聞こえるが、そんなものは無視だ無視。

 人々を睨みつけるようにして、フィオナに危害を加えたものを探す。


 ‥‥‥クソっ、不審な人物は見当たらない。というか、こんな人ごみの中では難しいか。


 一先ず犯人捜しは諦めて、フィオナの容体を確認する。大丈夫だろうか、怪我はしてないだろうか。


 一通り確認して、外見に負傷が見えない。ならばと触診して確認する。‥‥‥こちらも違和感はない。であれば一体何だろうか。


「どうしたフィオナ? 何があった?」

「ぴぃ~、ぴぃ~」


 悲しそうに鳴くフィオナ。何がなんだか分からない。ただ悲しいという気持ちが流れ込んでくる。


 と、とにかく。フィオナを元気づけてやろう。頭や首元を丁寧に撫でてやるも、あまり効果がない。

 おかしい、いつもならこれで泣き止むのに。‥‥‥そうだ、流木で遊んでやろう。


「フィオナ、ほら流木で遊ぼ? どこにやったの?」

「――! ぴぃ~!」


 俺が流木と言う単語を発した途端、先ほどより大きな声で鳴いてしまった。なんだ? ってあれ? 流木が無い? ここに来た時も加えてたよな?


 ‥‥‥もしかして、流木を無くしたことに嘆いていただけか?


「フィオナ? 流木」

「ぴぃ~!」

「りゅうぼ――」

「ぴぃ~!!」


 あ、本当にそうだ。流木をいつの間にか無くしただけだ。てことはさっきの俺の飛び込みは意味なかったってことか、やばい、思いだしたら超恥ずかしくなってきた。


 真っ赤になった顔を隠しながら、俺は陸に上がる。人ごみが俺から離れるようにして、穴が開いた。


 すみませんねぇ~、出しゃばっちゃいましたよ。あ、ちょっとどいてください。


「ジェフさん! 梯子を降ろしてください!」


 こちらをチラッと一瞥して、素知らぬ顔で何もしないジェフ。あの梯子を外せと言っているわけではないのですが。


「ぴぃ~」


 フィオナは俺に近寄りながら、流木がなくなったと、泣きついてくる。


 なんだこれ、この時間、早く終わってくれ。頼む。

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