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恐るおそる

 懐かしの船着き場に辿り着いた俺たち。しばらくここにいて、ハバールダ辺境伯からの使者が迎えに来るのを待っている。


 そしてフィオナは、俺が魔力糸で釣り上げた流木をガシガシと齧って放さない。


 良かったね。お気に入りの流木見つかって。生暖かい目を向けていると、一瞬だけこちらを見て、再び警戒する様に齧りながら、前ヒレで流木を隠す。


「取らないって‥‥‥」


 なかなかお迎えがやってこないので、魔力操作の練習ではなくて、魔法の練習をしてみようと思う。


 なんだかんだで最近全然使ってないからな。


「プチファイア」


 ボっと言う音と共に指先に火が付く。


 俺が使える魔法は水魔法意外だと、小さな火を生み出す魔法しか使えない。これは生まれ持った才能なので仕方ないが、他の魔法は使えなかった。


 才能の割合で言うと、水魔法が8割だとしたら、火魔法は2割と言ったところか。まぁ、そもそもの魔法というものに対する才能の絶対値が低いので、大きな魔法は使えない。それに魔力量も低い。


 けれど、創意工夫でどうにかしてきた男だ。やればできる子! 諦めるな、ランデオルス。


 さて、このただの灯をどうやってそれなりのものにするか。まずは理想を考えよう。魔法とはロマンから生まれるものなのだよ。


 という事で考えていきましょ。


 火を増幅させるのは魔力量的に無理なので、導火線みたいに、火の通り道を作ってあげれば面白い物が出来るかも。


 はい次、燃えにくい物にも火が燃焼できるようにする。燃焼剤的なやつ? アレが作れれば行けそうな気がする。というか、火薬が手に入ればそれだけで威力が上がりそうな気がする。


 あるかな? この魔法世界に。銃とか見たことないんだけどな。


 とりあえずこの二つだけでも強くなれる気がする。水魔法よりは威力も強いだろうし、危険な魔物や、動物対策にもなりそうだ。


 導火線は魔力糸で道をつくってやれば行けそうな気がする。そもそも俺のイメージとして、魔力を着火剤にして酸素がそれを助けてるってイメージだし。


 で、燃焼剤か。魔力を性質変化させて油みたいにすれば行けるかな? 水魔法の応用だけど、どこまでできるやら。


 ではまず、魔力糸を伸ばしまして。にょ~んと一メートルぐらいの魔力糸を伸ばす。

 そこに「プチファイア」

 逆の手で作ったこの火を近づけ――


「ランデオルス殿。お迎えにあがりました」


「うわぁ」


 急に声を掛けられて驚いた。動揺したことで魔力糸もプチファイアもすぐに霧散してしまった。


「あ、トロンさん。お久し振りです。すぐ行きますね、フィオナ行ってくるからちょっと待ってってね」

「ぴぃ」


 不満そうに、しかしおもちゃがあるから許す。そう言っているように聞こえた。


 道中チラチラとトロンさんがこちらを見てくる。なんだろう、何か言いたいことがあるのかな。


「どうかしましたか?」

「あ、いや‥‥‥ランデオルス殿」

「さっきも思いましたけど、ランデオルスで良いですよ。こそばゆいです」

「あ、あぁ。じゃあランデオルス、単刀直入に言うが何をした?」


 何をした? いや何もしてないですけど。強いて言うなら何かさせられそうです。


「えっと‥‥‥何かあったんですか?」

「何もない。何もないから不安なんだよ。領主様がオーガの様な形相で笑ってるんだ。でも何もしない。一週間前ぐらいからずっとそうなんだよ、近衛兵連中の間じゃ、何か大きな戦でもあるんじゃないかって、ピりついてるんだよ」


 こっわ。なんじゃそれ。

 急に足取りが重くなった。嫌だよ~、会いたくないよ~。アイシャにも伯爵様にも、前回の最後の別れをおもいだすと恥ずかしすぎて。


「だが、俺の見解は違う。ランデオルス。何をしでかしたかちゃんと言ってみろ。大丈夫だ俺はお前の味方だから」


「何かしたって言っても――」


 俺はアイシャとの別れ。その時にプロポーズまがいのことをしてしまったこと。そしてフィオナの脱走に、その理由までを話した。


「この‥‥‥ばかもんが!」


 俺の頭に拳が降って来た。かなり重たい一撃だ。味方とは?


「俺は知らんからな。あの人、普段は切れ者で優秀なのに、娘のことになるととことんだめだ。いや、優秀に発破が掛かるんだが、ブレーキがなくなっちまう。周りの家族でさえその系統だ。あぁ、仕事が増える‥‥‥」


 なんか、すみません。


 心の中で合唱をしつつ、謝っておいた。謝ったからと言って、どうなるものでもないだろうが。


 そんなこんなで到着してしまった。


「ようこそ、ハバールダ名誉市民のランデオルス君」

「先ほどぶりです。ハバールダ辺境伯様。此度は身に余る光栄を賜り、誠にありがとうございます」

「よいよい、そう堅苦しくなるな。面を上げよ」

「はい」


 ――ッ!? なんで、そんなに笑っているんですかね。

 俺の心境が手に取るように分かったのか、声を上げて笑いだす。そんなタイプじゃないのに。ブレーキがない人間って怖いなぁ。


「なに、盗って食ったりしない。私はただ、娘のお願いにちょっとばかし力を貸しただけなのだから」


 願い? 結婚に繋がる何かか? しかし、この人が素直に俺のことを持ち上げる人だとは思えない。


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