目次
ブックマーク
応援する
いいね!
コメント
シェア
通報

また今度

「どんな理由だよ」


「まぁまぁ、ジャンダさんだって家族の集まりや、お祭りで一口飲んだりしたことあったでしょ?」


「そんなことは――」


「無いとは言わせんぞ? お前さんがこーんな小さい時から知ってるからな」


 スベオロザウンが親指と人差し指で輪っかを作ってニタニタと笑みを零す。


 輪っかを作っちゃったらダメじゃん。ミクロンの大きさの人間なんていないよ。まぁ、それぐらい小さい時から知っているってことだろう。


 結構付き合いが長いのか、この二人は。


 俺が、二人の関係性について考えていると、渋そうな顔をしているジャンダは目を閉じて、俺とスベオロザウンから顔を逸らして、腕を組んだ。


「いや、無いね! それに、一度何か約束事を破ると、その棘はこの先ずっと心に刺さったままだ! 小僧、悪いことは言わねぇ。本気で今は止めとけ」


 確かに、本気で止めに来る人がいると、棘が残る。だからジャンダさんが本気で止めに来なければ、楽しく飲めたのになぁ。‥‥‥ちょっと、お酒を飲むの躊躇っちゃいそう。


 俺がジャンダの真面目な表情に対し、言い返せずにいると、スベオロザウンが再び口を開いた。


「そういえば、いつだったかのう。年末でお主らの家に招待されたときに、家主がもてなすために用意した酒がなくなったことがあったのう‥‥‥」


「う‥‥‥」


 先ほどの言葉に重みがあったのは実体験か? それにこの感じ、爺さん以外にバレてない感じか。


 今度はジャンダが返す言葉を見つけられずにいる。そして観念したかのように、ため息を一つして、両の掌を挙げた。


「参った参った。降参だよ、親方も歳なんだから、そろそろ昔のことは忘れてくれよ」


「馬鹿言え、ワシはまだまだ現役じゃ!」


 スベオロザウンに拳骨が小気味の良い音をだして、ジャンダの頭上に降り注いだ。


「で、どうするよ。今ボトルを開けるか?」


「あ、いや。飲みたいのは山々なんだけど、友達がいるから今は無理そうなんだよね。あとでまたこっそり来た時にお願いするよ」


「‥‥‥そうか」


 あからさまに残念そうに肩を落とす爺さんに、少し可愛げを見出してしまったことで、俺まで少し残念な気分になってしまった。


「ごめんね、絶対にまた来るから」

「うむ、待っている」


 お互いにニヤリと相手の目をしっかり見る。ここにいるってちゃんと自分自身で確認できただけで今日は収穫があったとしよう。


「それで、今日はもう帰るのか?」


「そうだね、一応時間はあるからちょっとだけ、武器とか防具を見せて貰おうかな」


「おう、存分に見ていけ。どれもこれも、ワシが魂を込めて製作した物ばかりだ。ククク、商品説明欄にも載ってない効果もあるからな。気になったのがあれば何でも聞いてくれ」


 自信満々に話すスベオロザウンの笑い皴は、初めて見るほど深くなっていた。


「じゃあ、お店の方に戻るよ。ありがとね」


「おう」


 それだけ言うと、スベオロザウンは途中で止めていた作業に取り掛かった。ちらりと横目で見るその顔は、先ほどの俺と悪い約束をした爺さんと同一人物だとは思えない。


 厳しい目、滴る汗、浮き出る筋肉。瞬き一つ、拭う腕、唸る背中、どれを一つとっても洗練されている。


 店に並んでいた商品の数々のハードルを上げずにはいられない。





「ごめんごめん、戻ったよ」


「急に奥に走って行っちゃうから、びっくりしたよ。関係者以外立ち入り禁止って書いてあるから追いかけようにも追いかけられないし」


 え? どこに書いてある? 

 イヴの指さしたところに目を移すと、扉にちゃんと書いてありました。吊り下げ看板で「関係者以外立ち入り禁止」の文字。一言一句違わずに書いてありましたがな。


 スベオロザウンを足止めするのに夢中で、全然視界に映っていませんでいた。すみません。


「ごめんごめん、で、どうよ。なんか欲しい物とかあった?」


「そうだね~。僕は武器とかを持っても扱いきれないだろうけれど、防具はちょっと気になるかな~」


「ノンノンノン。ノンノンだよイヴライト・ドットヒッチ君」


 指を左右に揺らして見せると、イヴは首を傾げてこちらを見てくる。イエスイエスだよ、その表情。‥‥‥イヴめ、ことあるごとに俺の急所を突いてくるね。もう確信犯なんじゃないか?


「ぶぅ、何がダメなのさ。いいじゃん防具を気にいっても」


「違うよ。そこは問題点じゃないのさ。防具を先に揃えるのは大事だよ。うんうん、あと物欲センサーは持ってはいけない。ハチミツは乞食しない、まずはこっからだもんね」


「ぶ、ぶつよくせんさー?」


「おっと、ごめんね、話がそれたよ。で、防具も大事なんだけど、想像してみてよ、自分が世界を巡って、どんどん強くなってさ、武器を掲げてる姿。その後ろには大型の魔物が地に伏せていたりしてさ。‥‥‥さて問題です! その時あなたの持っている武器は何! 正解はこの部屋の中にあります!!!」


 ハッとした表情のイヴ。すぐに店内を見渡す。その目つきたるや、獲物を狙い今にも飛びかかろうとする獅子の如し。


 そういえば、ライオンって主にメスが狩猟するらしいね。‥‥‥そういうこと?

この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?