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俺の武器選び


 訳の分からん作戦は無視だ、無視。イヴがムキムキになるわけが無いし、させる訳が無かろうよ。


 もし仮に、細身のままとてつもない怪力を手に入れることが出来たとしたら、流石に俺も邪魔は出来ない。だって、そんなの漫画みたいだし、何より、イヴの解釈一致だ。


 だから本当は、イヴには大きな武器を使って欲しいという願望はあるのだけれど、ここはマンガじゃなくて現実だ。


 より扱いやすく、より調子にのらず、だけども、好きになれる武器を使って欲しいのだ。


「ちょっとランディ? 聞かないの? 僕の考えたムキムキ大作戦のその全容を」


「聞かないよ。じゃあ、次の武器を見せて貰おうかね」


 またもふくれっ面になるイヴ。さっきより、もっと大きく膨れているので、あとで何かプレゼントでもして、機嫌を直してもらおう。‥‥‥屋台の串焼きで良いか。鶏むね肉の串焼きとかないかな?


「ぶー。じゃあ次ね、これで最後の候補なんだけど、これは僕の得意分野を考慮してカガイヤが選んでくれたんだ」


 カガイヤさんが選んでくれたのか、期待値が高いな。変なものはそうそう選ばないだろう。一体何を選んだのだろうか。


「へぇ、カガイヤさんが。変なモノは選ばないだろうし、楽しみだな」


「なんでー!? 僕のだって変なモノじゃないのに!?」


 縋りついて駄々をこねる子供の様な姿に、驚きつつも微笑ましい気持ちになった。イヴもだいぶ素を出してくれるようになったもんだ。いい傾向いい傾向。


「じゃあ、カガイヤさん。イヴがこんなんなんで、どれなのか教えてください」


「はい、承知しました。 こちらです」


 カガイヤさんが手のひらで、とある武器を指し示す。


「この短剣がいいのではないかと愚考致しました」


 短剣か。良いと思います。まあね、英雄の姿を想像してごらんと言ったものの、海竜で旅をするなら、基本的に敵は海竜がやっつけてくれるし、護身用で十分ですからね。そんなに強さはいらんのですよ。


「良いんじゃないですかね、取り扱いも他のに比べて簡単そうだし‥‥‥ん?」


 短剣の柄の部分に大きな宝石が埋め込まれている。スベオロザウンのお店にしては珍しい。いや待てよ、ただの装飾を付けている筈がない。


「お気づきになりましたか。こちら魔宝石が埋め込まれた短剣でございます。イヴ坊ちゃんは、貴族の義務として、短剣術も習っておりますし、魔法の腕などは流石サルマンさんのご子息というほかありません。とても相性が良い武器だと思われます」


「全く同じこと思いました」


 貴族って短剣術を習うことが義務なの? 得手不得手はあるだろうけれど、素人がちゃんと武術を習った人に勝てるはずがない。貴族って皆強いんだな。


 イヴも短剣術をねぇ。見た事無いけど、なんかうまそう。


「イヴ、これ良いじゃん。相性もすごく良さそうだよ?」


「‥‥‥なんか今までと全然反応が違う。ちょっと傷ついてます」


「ごめん、ごめん。でも現状一番使いこなせそうだよ? 魔宝石も付いてるし、お子様ランチって感じだよ」


「なんだか嫌な響きだよ」


「じゃあハッピーセットで」


「それなら、まだ? 良さそうでは、う~ん」


 どちらも子供に人気なんだぞ? 大人にも分かりやすく子供におすすめって分かるし。


 どちらにせよ、いヴが使いこなせそうなので、これにした方がいい気がする。

「まぁ二人がおすすめしてくれるなら、これにしようかな」


 イヴは短剣を大事そうに抱える。そして、何かを期待する様に、俺の顔を見た。ん? 何か俺の顔についてる? 手の平で顔を触ってみても何も付いてない。


「どうしたの?」


 分からないときは、素直に聞く。これが結局一番なんです。


「どうしたのって、ほら、今度はランディの番だよ! どれにするのさ!」


 どれにするのさ! って言われても、お金ないから買えないんだけどもね。気に入ったやつを発表するだけになっちゃうな。これが貧富の差というやつですかね。


 今一度、店内を見渡す。俺が使うとしたらか。


 剣術を習ったこともない。体も力も魔力もない。そんな俺が使っても大抵のものは腐ってしまうだろう。ならば、何を基準にして選ぶか。



 それはもちろん‥‥‥面白さ! 


 いやね、カッコいい奴で日本刀もありかなと思ったんだけど、ぶっちゃけ日本刀って扱い難しすぎて、使ってもすぐに折れちゃうんじゃないか心配なのよね。素材がアダマンタイトで、折れません! とかならいいんだけど、そんなことも無さそうだし。


 ということで、面白武器でパッと見て気になったのは、こちらの商品たちです。どうぞ!


 鞭! チャクラム! そんで鎖鎌!


 以上三つの商品です。


 ね? 面白そうでしょ? 下手すれば全部自傷に繋がりかねないという、このピーキーな性能。この扱いづらさ。ネタとしては面白いと思うんだよね。


 買わないからこそ、ネタに走れるという強み。ふふ、イヴが口をあんぐりと開けて固まっている。まさかこれらだとは思わなかっただろう。


「イヴだったらさ、この中からなら、どれを選ぶ?」

「え? いや、僕はちょっと‥‥‥短剣があるしね」


 何を言いたいかは分かるよ。ね、ダサいよね。勿論買うつもりは無いので、少し困らせてイヴをからかってやろう。



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