目次
ブックマーク
応援する
いいね!
コメント
シェア
通報

親しき中にも礼儀あり

 さてさて、もうちょっと追及してみるか。


「イヴも想像してみて欲しいんだけどさ、さっき言った妄想の中で、俺が一番持ってそうなのはどれだと思う?」


 どうあがいても格好付かないもんね。イヴは一体何を選んで、どういう言葉で表すのやら。


「えぇーとね、うーんと、鎖鎌とか、いやでも流石に‥‥‥ぐすん、カガイヤ~」


 人の優しいイヴには嘘でもどれかを似合ってると言葉にすることは出来なかったようだ。最終的にはカガイヤさんに助けを求めた。


 ちょっと、涙目になられるとこちらが悪者みたいじゃんか。イヴの良心に付け込んだので、しっかり俺が悪者なんですけどね。


 イヴの呼び声に、控えいたカガイヤさんがスッと前に出てきた。大人が近づいてくるって、子供の身体だからなのか、思った以上に威圧感があるな。本人にその気は無いんだろうけど、罪悪感が目覚めている今は効果覿面だ。

 あれだな、街中で監視カメラやパトカー見つけたときのあれだ。


「ランデオルス様、お戯れはお控えくださると幸いです。どれをとってもランデオルス様には合いそうにありませんよ」


 俺の意図に気づいて、カガイヤさんは正直なことを真正面から言ってくれた。

 しかし、イヴは本当にそれを言って大丈夫なのかと、口をアワアワさせている。安心してほしい、俺はそんなことじゃ怒らないし、そもそも俺から仕掛けた悪戯なんだから。


 それにしても、そこまで慌てられると、俺への信用値を疑ってしまう。イヴ‥‥‥。


「すみませんね、変な役押し付けちゃったみたいで。イヴもごめんね、ちょっとからかっただけで、本当にこの中から選ぼうだなんて、思ってないよ」


「‥‥‥も~!! ビックリしちゃったじゃん! ランディのセンスが壊滅的なのかと思たよ、どうやって伝えてあげればいいのか分からないし‥‥‥」


「だからごめんね。ちょっとした悪ふざけのつもりだったんだ。本当に気になってたのはね、これだよ」


 イヴの慰めに、このままだと時間が経ってしまいそうなので、話題転換として、さっさと次に進むことにする。


 意外とね、イヴはちゃんと気晴らしさせてあげないと引きずったりすることがあるのよ。大抵は食堂のご飯を奢ったり、羽目を外して一緒に遊ぶと、綺麗さっぱり忘れてくれるので、そんな大したことは無いんだけど。


 そして、俺は本当に気になっていたものに指を指した。


「短剣? にしてはちょっとゴツイよね」

「これは鉈だよ」

「マチェーテともいいますね」


 そうそれだ。実用性重視、だいたい俺が敵と戦う事なんてそうそうないんだから、買うとしたら、こういった武器としての性能以外のところを求めたい。


 自衛隊の人がスコップをフライパン代わりにしたりするように、用途がたくさんあった方が楽でいいじゃない。


 そもそも、冒険者の仕事は敵を倒す時間より、探索や索敵で大自然の中を切り拓いてすすむのだから、これが一番いいでしょう。


「魔物を切りつけるのは勿論、耐久性もあるし、木の枝を切ったり、簡単な工具としても使えそうじゃない? 結構便利だと思うんだよね~」


「ほえ~、なんだかとっても現実的だね。僕には現実を見るなって言ったくせに」

「それはそれ、これはこれ。イヴが決めかねてたからアドバイスしただけだよ。俺はそもそも最初から決めてたようなものだし」


「そういうもんかな~」

「そういうもん、そういうもん。気にしたらだめよ」

「なんだか上手く丸め込まれた気がするよ。う~」


 イヴが顔を赤くして悔しそうにする傍らで、それを笑っていると、いつの間にか戻ってきていたジャンダさんに声を掛けられた。


「買いたいものは決まったか?」


「あ、はい! 決まりました!」


 イヴが元気に返事をして、持っている短剣をカウンターの上にそっと置いた。

 うむ、良い買い物なんじゃないだろうか。


 俺がひとりでに納得していると、視線を感じる。


「え? どしたん?」


 何故か全員がこちらを見ている。え? さっきも顔を触ったけど‥‥‥何もついてないよな? 俺の後ろ? ‥‥‥には何もないか。え? なに?


「ランディも持ってきなよ。さっきの鉈」

「え、いやぁ。だってお金ないし」


 ズボンのポケットの中の生地を裏返して、お金ないよとアピールする。一応鞄の中にはお財布代わりの巾着袋があるけれど、この鉈を買えるだけの金額は持ち合わせていない。


「あれ、言ってなかったっけ? 今日もお父さんからお小遣い貰ってきてるよ?」

「‥‥‥」

「ど、どうしたの? 急に明後日の方向見ながら固まっちゃったりして」


 イヴ、俺怖いよ。

 息子が初めて友達を連れてきて、その相手が平民だったから、お金を渡して、自分の街を楽しんでほしい。

 分かる、分かるけれど、それって一日目だけでよくないか? VIP待遇どころじゃないよ? 何のメリットも無いんだよ?


 家族以外からの、無償の善意って怖いのよ? それがお金ってなると余計にね。

 サルマンさんがそんな人じゃないって言うのは重々承知の上なんですけれどね。


「イヴさん、カガイヤさん。流石に二日連続で、大きな金額を貰うのはちょっと気が引けてしまいますよ‥‥‥」


「なんでぇ!? 大丈夫だよ!! ランディに楽しんでほしいだけなのに」



この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?