その後を、四郎を抱いた八代が続き、
三門様──、つまり、
隠密の八代が
お陰で、屋敷は物音ひとつしない。
「客間へ……」
廊下に八代の声が響き、煌も頷いた。
屋敷は事実上自由に使える。煌達は、大型の暖炉が備わる舞踏会も開ける程広々とした客間に足を踏み入れる。
暖炉には、心なし程度の火がくべられており、その前に置かれてある来客ソファーに皆は陣取った。
パチパチと薪が弾ける音の中、四郎が八代の膝の上で、口火を切った。
「煌ちゃん!
ひっと、
ジロリと八代が
「四郎!それは本当か?!」
座るソファーから立ち上がり、煌が叫ぶ。
すぐに、焦りを見せてしまったと後悔したのか、煌は皆の視線をはぐらかそうと、暖炉に向かい燃える火へ視線を定めた。
小さいながらも、炎はゆらゆらと燃えている。
煌の心は暖炉の火と同じ様に揺らめいた。
「……四郎、状況を説明しろ」
煌は、動揺を隠そうと四郎へ空々しく問うた。
四郎は八代の膝から飛び降りると、煌の側へ行きこれまでの経緯を喋る。
「……で、
話し終わった四郎に、八代がキツイ眼差しを送る。
「……それは、
言って、煌を伺った。
「この状況で、あの
煌も八代の言いたいことを汲み取ったのか、伏し目がちに言う。
「四郎、ご苦労だった。よく知らせてくれた」
煌は、四郎を労うと、ソファーに腰を下ろし考え込む。
そもそもは、蕎麦屋、長寿案で、宗右衛門が言い出した事だった。
八代も
煌達が潜入する以上、
これでは、ますます、ステファンに付けこまれるはず。
黙り混んでしまった煌に、
「お、お頭!私が、
「そうすれば、
長寿庵では術の為、
「お頭!!」
「……いや……その必要はない。
煌は静かに答える。
だが、視線は燃える炎を見つめたままだった。
「
八代が言った。
「は、はい。八代様……」
煌と八代の結束に、
暖炉を見つめる煌からは、並々ならぬ気迫が発せられ、八代からは任務をこなそうとする強い意志が流れていた。
「……明日には、我らがステファンの屋敷に潜入する。
念を押すように、煌は
「叔父上と叔母上、いや、三門様は、泊まりがけの招待を受け出かけられた。この屋敷は自由に使える。つまり……その間が、勝負でもある……」
八代と
「いいか、穏便に終わらせるのだ」
強い口調で語る煌の姿は、ステファンへ挑む気力に満ちていた。その迫力に押された八代と
「四郎、
煌は、足元にうずくまる四郎へ指示を出す。
「わかった。煌ちゃんと八代ちゃんに任せれば問題ないってことだね」
「後は……これ以上、余計なことを喋らぬよう……伝えてくれないか?」
煌の言葉に、四郎はコクリと頷いた。
八代が立ち上がり、窓を開ける。
四郎は勢い良く外へ飛び出し、再び夜の闇に紛れてしまった。
煌は、明日からの事を思う。
暖炉の炎が、煌の行き詰まる心待ちを読んだかのようにパチリと
「美代……。無茶をしなければよいが……」
煌の呟きに、八代が小さく頷き、
夜の帳が屋敷を包む。
月は空に浮かんだまま、静かに輝き続けていた。