数週間後、キール様がいっていた通り、メルクリア聖教国から和睦の使者がきた。
賠償金の支払いと色んな条約を結ぶことで、停戦をすることになったらしい。
詳しくは知らないけど、とにかくこれで一旦は落ち着いたということだ。
お城の修復はまだまだこれからだけど、それは後回しらしい。
それより先にやることがある、とキール様が言い出して。
だから今日はこれから、パレードをすることになっている。
主役はキール様と……私。
キール様はもう婚約をしているのだから、正式に結婚をして式を挙げようと譲らなかった。
けれど、私はもう決めている。
結婚式を挙げるのは、キール様が望み通り普通の人間に戻ってから。
私と同じ時間を歩めるようになってからだって。
だから名目としては、婚約者の顔見せということになる。
領民へ大々的に告知して盛大に行われることになってしまったのは、戦争前後の陰鬱な雰囲気を吹き飛ばすため。
近郊の街から見に来ている人も多いようで、街には人が溢れているらしい。
城下は朝からお祭りムードらしく、飾り付けがされていたり、屋台まで出ているそうだ。
どんな感じなのか見に行きたいなぁ。
なんて思っていたら大好きなメイドに怒られた。
「こらー、動かないでくださいねー」
「はーい」
私は今、メリンダにメイクをして貰っている。
見るだけで気分が悪くなっていた、豪奢なドレスを身に纏って。
「ねぇ、本当に似合ってる?」
「うん、リアせんせーキレイだよぉ。でもね、ちょっとしつこいっ!」
「ご、ごめん……」
どうやら、小さい子にしつこいと言われるほど何度も聞いてしまっていたようだ。
でもこんな派手なドレスは着慣れていなくて、落ち着かないのだから仕方がない。
「髪はどうします? 頭の横で蝶の形にまとめてコサージュなんか着けちゃったりしてー」
「うん、それでお願い」
前にメリンダから同じことを聞かれた時は、そんな髪型は絶対しないって思ってた。
なのに、まさかこんな日が来るなんて。何が起こるか分からないものだ。
「はいっ、完成しましたよー」
鏡で見てみると——うん、はじめてやった髪型だけど似合ってる……と思う。
「ねぇチェリエ」
「キレイだってばぁ」
とうとう呆れられてしまったようだ。
「おお、リア。いつもと雰囲気が違うな」
「変……でしょうか?」
「いいや、とんでもない。最高に可愛いよ」
そういってキール様が頭を撫でようとして手を引っ込めた。
「せっかくセットした髪が崩れたら悪いからな」
「お二人共、用意ができましたら馬車に乗り込んで下さい」
いつも通りの燕尾服を着こなしたシュバルトさんがそう声をかけてくる。
私はキール様に手を引かれて、屋根がない開放型の馬車に乗り込んだ。
「それでは出発いたします」
ピーターは御者台から振り返って、そういった。
普段は動きやすそうな服を着ているピーターも、今日はパリっとした燕尾服を着こなしている。
私たちが頷くと、馬車が動き出した。
城から出発した馬車は、直したばかりの橋を渡って街に出る。
外周をぐるっと回ってから、最後にメインの大通りを通って城に戻るらしい。
城下町は祝福ムードで溢れていた。
家々は華やかに飾りつけられていて、町の人達も笑顔で手を振ってくれている。
ゆっくりと街を進むと、聞いていた通り、屋台がたくさん並んでいる場所もあった。
美味しそうな匂いが漂っていて、お腹がなっちゃいそうだった。
「あ、ジュリさんだ!」
「む? ウカノ雑貨店の娘か」
「街の人の名前を覚えているんですか?」
「もちろんだ。この街で産まれた子は全員な」
これには関心してしまった。
キール様はこの街の、領のことを愛しているんだろうな。
他人に関心を持たず、なるべく人付き合いを避けてきた私とは大違いだ。
「あっちにはベンジローもいるぞ。あいつ泣いているな」
「本当ですね! 紡績機にはお世話になりました」
「兵たちの服に刺繍をした糸も、それで紡いだんだったか?」
「はい。紡績機で紡いだ魔力の糸をみんなに刺繍してもらったんですよね」
ゆっくりと時間をかけて街をまわって城に戻ってきた。
あの男に荒らされた庭園は、庭師の人たちが一生懸命修復してくれたようだ。
その庭園の中を、私とキール様は歩いていた。
「いやあ、騒がしかったな」
「はい、あんなの初めてでした。でも、みんな嬉しそうでしたね」
「ああ。最近は戦争もあって雰囲気が悪かったからな」
「あの日、夜会に行くの断ろうとしたんです。でも行ってよかった」
「私もだ、夜会を開催して本当によかった」
庭園の中心でお互いに見つめ合う。
最近は慣れていたはずなのに、まじまじと見つめると、やっぱりキール様は美しくて。
だから、はしたなく鼓動が高鳴ってしまう。
「壁に飾られた花というのが一番美しく見えるってあの日いってくれましたけど」
「ああ」
「私はもう壁の花をやめちゃいました。今も美しく見えますか?」
「もちろんだ。さらに魅力的になったよ」
「ふふ、良かった。じゃあちゃんと
「死ぬまでか、長くなりそうだ」
「もう、ちゃんといってください!」
「君を死ぬまで愛すると誓うよ、ローゼリア」
私とキール様は誓いの口づけをする。
長い間そうしていたら、ぽつりと雨が降ってきた。
それでも構わずに私たちは愛を交わしあう。
名残惜しみながらキール様と離れる頃には雨が強くなってきた。
雨の匂いに混じるように甘い香りが漂ってくる。
「ちょうどいい、見ていてごらん」
「……わぁ……凄いっ!」
目の前の庭園いっぱいに赤い花が咲きはじめた。
雨の日にしか咲かない、ただ美しいだけの優しい花。
フラッディマリーが私たちを祝福するように、その花弁を開かせていた。
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お読み頂きありがとうございます。
一部完ということで一旦完結にします。
霊樹の雫編、メルクリア聖教国編と続きのプロットはありますが、果たして求められているのか?と。綺麗に終わった方が良い気がしました。
恋愛カテではじめたのもあって、意識的に序盤が恋愛に寄せ過ぎていたり、リアの活躍まで長かったりという反省があります。
そしてファンタジーカテにしたらしたで今度はファンタジーに寄せすぎたり、それでいてお気に入りが減ったりの反応を気にしすぎて展開をあからさまにカットしたりしてしまいました。
本当はもっと面白くできたのに、ブレブレになりすぎてしまったので書き直したい気持ちも強いです。
ただ最初に決めていた設定は(設定語りっぽくなりつつも)ほぼ出せたかな?と思ってます。
不穏なメモのくだりだけちょっと展開的に描写できなかったのが悔やまれます。
書き溜めがなく、毎日ギリギリまで書いていたので推敲も甘かったり反省すればキリがないです。
それでもファンタジー大賞に投票してくれた方も沢山いて、そのお陰で最後まで書けました。
重ねて感謝申し上げます。
続きが書けるように、完結ブーストでもしないかな?と期待しながら、ここら辺であとがきを終わりにします。
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