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第64話 魔力の……暴発??

 目の前の城では激しい稲光と轟雷が響いている。

 マジでこんな場所入ってオレ生きて帰れるのだろうか……。


「ベクデルさん、ここから城に入るんですか?」

「あ、そうそう。その水の球から出ない事ね、そうじゃないと一瞬で人間なんて黒焦げになっちゃうからね」


 ――そういう超危険な話は先に言ってくれ!! オレ、自分からこの水の球から出てしまうとこだったじゃないか!!

 という事は、オレは自分では自由に動けず、この水の球を動かすベクデルの思い通りに動かないと死んでしまうという事なのか。

 マジで生殺与奪の権利を握られているな、下手に雷の魔王やベクデルを怒らせたら本当にオレの命がいくつあっても足りない。


「あ、あの……オレ、これ無事に生きて帰れるんですよね?」

「さあ、それはアンタ次第じゃないかね」


 何だよその無責任!

 まあこれが魔族なのかもしれない、かなり身勝手で他者に対しての配慮とかが無いのがデフォなのかもしれないな。

 まあそういった相手には利害関係を見せて相手に有利、何か特になる事を交渉するのが一番確実な方法だろう。


 オレは水の魔王ベクデルによって雷の轟く魔城の中に入る事になった。

 城の中は豪華な作りになっているが、あちこちが焦げている。

 これは雷の魔王の魔力といったところなのだろうか。

 こんな魔力で攻撃されたら木造の建物なんて一瞬で黒焦げになってしまいそうだ。


 ベクデルは何かの魔法で自らの身体を守っているようだ。

 そうでなければ雷と水の相性が最悪で感電してしまうのだろう。


「誰だお前達は!?」

「あら、アタシは水の魔王ベクデル。ネクステラちゃんに呼ばれて人間を連れてきてあげたの、だからここを通してくれるかしらね」

「はっ! 失礼いたしました、魔王ベクデル様! ネクステラ様の下にご案内いたします!」


 どうやら水の魔王は雷の魔王と対等な立ち位置のようだな。

 最初高圧的だった魔族の兵士がベクデルの名前を聞いた途端に態度を急変させた。


「こちらがネクステラ様のお部屋です、どうぞ」


 ギイィ……。


 重く大きな扉が開かれた瞬間、オレ達は激しい雷に襲われた!


 バリバリバリッ!!


 何だこれは!? オレはベクデルの用意してくれた水の球のおかげでダメージを受けずに済んだが、もしこれが球の外にいたら一瞬で丸焦げになっていたかもしれない……。

 でも何でいきなりオレ達は攻撃されることになったんだ? 初見殺しのゲームか??


「こらッ! ネクステラちゃん、いきなりなんで攻撃してくるのよ! ビックリしたじゃない!」

「すまない、攻撃するつもりは無かったんじゃが、魔力が暴走してしまってな、それでドアを開けた瞬間に雷が外に放出されてしまったんじゃ」


 どうやらオレ達は攻撃されたのではなく、単にドアを開けた時に部屋の中に溜まっていた雷が一気に外に放出されたという事らしい。


 オレ達の目の前に現れたのは、金髪でオレンジ色の肌の可愛らしい美少年だった。

 だが、油断をするわけにはいかない、あんな形でも魔王と呼ばれるほどの魔族だ。

 現にオレ達が襲われた雷は通常の稲妻の直撃に等しいレベルのものだった。


「あら、ネクステラちゃん、まだそれ治ってなかったのね?」

「うーむ、何が原因かわからないので、ワシも困っているんじゃ。どうすればこの雷を無駄に放出せずに済むのか……どうやら魔力の暴走みたいなんじゃがな、一種の病気かもしれんのう」


 雷の魔王ネクステラは少年の姿で老人のようなしゃべり方をしていた。

 ひょっとすると、あの少年の姿は仮の姿で本来の姿は老人なのかもしれない。


「それで、ベクデルよ、そこにいる貧相な人間は何なのじゃ? ワシに用があるのかのう」

「あら、彼がネクステラちゃんに言ってたコバヤシよ。彼ならネクステラちゃんの悩みを聞いてくれるかもしれないからね」


 ベクデルがオレの事をネクステラに紹介すると、ネクステラはオレの近くに一瞬で移動し、オレの事をジロジロと見ていた。


「どうもコイツがワシの悩みを聞けるとはとても思えんがのう、ベクデル、おぬしの見込み違いじゃないのかのう?」

「あら、コバヤシはユニークな方法でアタシの枯渇させた水を更に地下から掘り出すような知恵の持ち主よ、ネクステラちゃんの悩みを言えば解決できるかもしれないからね」


 雷の魔王ネクステラはオレの事をまだ疑っているようだ。


「まあいい、それで……ワシの悩みを解決出来るなら話を聞いてみよう、コバヤシとやら、ワシの話を聞く気はあるか?」


 聞く気があるかどうかと言われても、ここでNOと言えばオレの命が終わりかねない状況で聞かないなんて選択肢を選べるワケがない。


「は、はい。悩みとは……何なのですか?」

「実はのう、ワシは原因不明の魔力放出が続いておってな、それで部下も怖がっておいそれと部屋に入ってこれんので困っておるのじゃ。先程から放出しておる雷はワシのものじゃて」


 つまり、雷の魔王ネクステラは常日頃に雷があちこちに飛んでしまい、それで部下が怖がって部屋に入ってこられないので本人もこの部屋から出ようと思っても出られないという状態らしい。


 よし、それならオレのスキルでそれを解決すればネクステラはオレに協力してくれる可能性があるという事か。


「わかりました、ネクステラ様。オレで良ければお力になりましょう」

「そうか、じゃが人間ごときにいったい何が出来るというのじゃ? もしおぬしがワシの悩みを解決出来るなら一つ願いを叶えてやろうではないか」


 これは渡りに船かもしれない!

 雷の魔王がオレに力を貸してくれるならあの大型発電機を動かすだけの電力を最初に出してもらう事も出来るかも。

 それなら彼の望みを聞いて悩みを解決してみよう。

 とりあえず雷が落ちまくってどうしようもない場合の対処法をここで実際に試せばいいかもしれない。


 まずは煽てる形でも玉座を高い場所に移し、そして部屋の四隅に避雷針を60度の角度で死角になるように設置すれば、そして地面にアースになるようにネクステラ本人に鎖を地面に垂らすようにさせてこの石畳を絶縁のコーキングをすれば、問題は解決する。


「わかりました、それでは少し時間をください」

「よかろう、じゃが……あまり長い時間を待たせるようならおぬしの命ないものと思え。ワシは噓つきが嫌いじゃからな」


 危ない危ない、ここは早くチャッチャと工事を終わらせてしまおう。

 突貫作業でも良いので、樹脂コーキングはまた今度でもいいから先に避雷針だけ四つ用意しておこう。


「出てこい! ゴーレム!!」

「ほほう、この男、ゴーレム使いじゃったか」


 石畳が形を変え、数体のゴーレムが生み出された。

 多分この中の魂は魔族のモノなのだろうが、オレに従ってくれるのだろうか。


「ゴーレム、部屋の四隅に立ってくれ」

「ゴゴゴ……」


 どうやら魔族でも人間でも魂を核にしてゴーレムを作ればオレの命令には従ってくれるようだ。

 このゴーレムはA級モンスターに相当するので、魔王の放出する雷くらいならどうにか耐える事が出来るようだ。


「ネクステラさん、この城にある物は何でも使っていいですか?」

「好きにするがいい、ワシの悩みを解決出来るなら方法は問わん」


 オレはゴーレムに命令し、武器庫から四本の金属製の槍を持ってこさせた。

 この槍は全部が金属で出来ているらしいので、きちんと避雷針として使えるだろう。


 オレはゴーレムに命令し、今のネクステラの玉座を巨大なブロックを敷いた上の数メートル高い位置に設置させ直した。


 雷は高低差で上から下に落ちる。

 だからネクステラの玉座が少しでも高い場所にある方が雷の暴発は地面を奔らずに空から避雷針に誘導されることになる。


「ほう、まさかこのような方法があったとはな、ワシも知らんかったわい」

「そうでしょ、コバヤシのアイデアはアタシですらビックリするようなものなのよね」


 どうやら雷の魔王ネクステラはオレが避雷針を作っている事で、少し関心を持ってくれたようだ。

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