雷の魔王ネクステラの城に呼ばれたオレは、彼の悩みである雷の魔力の暴発を食い止める方法を捜してくれと頼まれた。
それでオレは避雷針を作り、ネクステラの玉座を高い位置に設置し直す事で魔力の逃げ道を作る事にした。
避雷針代わりの金属の槍は部屋の四隅に設置され、そして工事が完了した。
「ネクステラ様、こちらをお体に身に着けてください」
「何じゃ、コレはただの鎖ではないか。これをどうしろというのじゃ?」
これと同じような物はネクステラの玉座にも設置しておいた。
つまりアースだ。
アースとは、雷が落ちた際や災害の際に電化製品が帯電して感電しなくなるように取り付ける金属製の地面への雷の誘導パーツだ。
このアースがあれば雷が発生したとしても地面に雷が吸い込まれることによって、雷は周りに放電しなくなるというワケだ。
ネクステラはオレの意図していることが分からないまま、鎖を腰に巻き付けた。
どうやら本人としてはかなり不本意らしいな。
「あ、それでは意味がありません、鎖は地面に垂らしてもらえますか」
「何じゃと? それでは不格好ではないか。ワシにジャラジャラした鎖を引きずらせて動けというのか!?」
「申し訳ありませんが、そういう事になります」
「まあまあ、ネクステラちゃん、ここはコバヤシの言う通りにしておくのね」
ネクステラはベクデルに言われて渋々オレの指示に従った。
だが、それが効果を発揮したのはそのすぐ後だった。
「ま、また魔力の暴発じゃ! ぬぉおおおおっ!!」
バリバリバリッ!
だが、雷は地面に吸い込まれ、今までのような辺りを巻き込む雷撃にはならなかった。
「な、何故じゃ? ワシの雷が地面に吸い込まれおったぞ!」
「それはアースのおかげです」
「アース……じゃと?」
オレはアースが何かを雷の魔王ネクステラに教えた。
アースは雷を地面に伝わせる事で被害を食い止める技術だと伝えると、ネクステラはとても感心していた。
「ぬ、ぬう。コバヤシとやら。おぬしの知己、見事だと言えよう。これでワシの魔力暴発も落ち着きそうじゃ。感謝する」
「いえいえ、オレは自分の知っている知識と技術で工事をしただけですから」
「気に入った、この雷の魔王ネクステラ、一度ならおぬしに力を貸してやろう」
やった! これで大型発電機を動かす事が出来るかもしれない。
「どうやらワシの魔力の暴走もおぬしの作ったヒライシンとアースとやらでどうにか落ち着きそうじゃな。これでようやく部下をワシの部屋に呼ぶ事が出来るわい」
「あ、あの……ネクステラ様、力を貸していただけるという事でしたが、お願いできますか?」
「よかろう、ワシの悩みを解決したおぬしの頼みなら一度なら聞いてやろう」
やった、これでようやく大型発電機の起動が出来る!
「どうやら問題は解決したみたいね、それじゃあまた元の場所に戻してあげるからね」
「えっ、ちょっと待って!」
オレはベクデルの魔力で元の発電機の場所に戻って来た。
さて、今回は雷の魔王ネクステラが力を貸してくれるとの事だが、どうやってこれを発電させるのだろうか。
するといきなり雷の魔王ネクステラの声がオレに聞こえて来た!
「コバヤシ、良いか。その場所にいる人間を全員追い出せ! もちろんおぬしもじゃ!」
「えっ!? ちょ、ちょっと待ってくれ!! み、みんな! ここからすぐに離れるんだ!!」
オレは発電機の近くにいた人達全員をすぐに非難させ、高台に移動した。
「コバヤシ、見ておれ。これがワシの雷じゃ!」
天から稲光が建物に落ち、発電機に直撃した。
雷は数秒間続き、そしてようやく地面に消えた。
そして……オレ達の待ち望んでいた発電機が起動し、波力発電と連動してついに大型ポンプから水の吸い上げが始まった。
「成功だ!! やった」
辺りから歓声が沸き上がり、ついにオレ達の作った大型水路はアルキメディアンスクリューポンプによる水の吸い上げ開始によってついに完成を迎えた。
「コバヤシ、おぬしの願いは叶えてやった。もし他に何か頼みたい事があるならワシの所に
来るがよい」
いや、もう懲り懲りだ。あんな場所に行ったら命がいくつあっても足りない。
「ありがとうございます、また今度何かありましたらお願い致します」
だがここで下手に突っぱねるよりはリップサービスでもまた今度と言っておいた方が良いだろう。
「コバヤシ、どうやら上手く行ったみたいね。そうそう、良いこと教えてあげるね。ここの上のゴッツン湖、かなーり広いから、湖の向こう側にも同じ物を作ったら陸から海に行けるかもしれないのよね」
「何ですって! それは本当ですか」
「そうね、本当よ」
でも水の魔王ベクデルは、なぜオレ達にそんな事をわざわざ教えてくれるのだろうか?
「ベクデルさん、アナタの目的っていったい何なんですか? オレ達にこんな事をわざわざ教えてくれるなんて……」
「あら、アタシはあのスエズとかいうヤツが気に入らないのよね。アタシに断りもなく勝手に川の幅を広げた上、ゴミをまき散らして水を汚しているからね。だからそいつらが悔しがるようにしてやりたいのよね」
なるほど、水の魔王としては水を汚す奴が許せないんだな。
だからベクデルは水を汚さずに工事を進めるオレ達には協力的でも、スエズが水を汚して進める工事は嫌がっているんだな。
それでオレ達にスエズを出し抜けるように協力してくれているという事か。
ここでもしゴッツン湖の反対側にも同じような閘門式の水路を作る事が出来れば、王都に船で移動できるようになる。
そうなると砂糖の輸送等ももっと楽になるというところだ。
よし、工事の期間は伸びてしまうが、湖の反対側にも船が降りる為の水路を作ろう。
幸い電力は延長した導線を使えば湖の反対側までケーブルを伸ばせる、そうすれば電力を使って大型発電機で反対側にもアルキメディアンスクリューポンプと閘門を作り、約30メートルの高低差を移動できる大型水路が作れる。
導線の被膜はフォレストベアの集めてくれた樹脂を使ってコーティングすれば感電せずに済む。
導線の工事はゴーレムがやってくれるので感電の危険性は皆無だと言えるだろう。
オレ達は完成した水路の反対側にも同じ物を作り、双方から船が行き来できるように閘門式大型水路を完成させた。
想定より数か月多く時間がかかったが、その分成果は出たと思う。
パナマさんの統治する領地では、サトウタケから採れる砂糖、フラット族の集落で取れる石灰石、そして大型水路による通行料でかなりの収入源になった。
これなら間違いなくパナマさんがこの土地の領主として王様に認められる事になるだろう。
よし、工事も完了したし、パナマさんを連れて砂糖を積んだ船で王都に向かおう。
オレはカシマール、モッカ、フォルンマイヤーさん、そしてパナマさん達とゴッツン湖から船に乗り、閘門式水路を下って王都に向かった。
王都に到着したオレ達は、ダイワ王に謁見する事になり、王宮に向かった。
「私は騎士団長ファンタ―ジェン・フォルンマイヤー。ここを開けてもらうのである!」
「はっ、どうぞお通り下さい!」
オレ達はフォルンマイヤーさんのおかげで王宮にすんなりと入る事が出来た。
流石は貴族の顔パスというべきか。
「ダイワ王のおなーりー」
「コバヤシよ、久々だな。どうだ、工事は順調に進んでおるか?」
「はい、国王陛下に是非お伝えしたい事がございます」
「ほう、それはどのような事かな」
オレ達が国王陛下に大型水路の件を伝えようとしたその時、横やりを入れてきたヤツらがいた。
「お待ち下さイ! 僕達も陛下にお伝えしたい事ガございまス!」
この声は、ナカタ!? コイツ……いったい何を話すつもりだ?