こんな所で嫌な奴に会うとは……。
ナカタとスエズはオレ達がダイワ王に経過を報告するのに横やりを入れて先に話を始めた。
ナカタはオレ達の事を悪く言ってスエズを持ち上げるつもりだろう。
だが、フォルンマイヤーさんがナカタ達の話を聞いていたという事までは気が付いていないようだ。
だからナカタやスエズはオレ達が大型水路を作った事まではまだ知らないはず。
「国王陛下、こんな連中の話を聞く必要はありませン! それよりも僕達、スエズ子爵が素晴らしい偉業を成し遂げた事をお伝えしたくてこちらに来ました」
「ほう、素晴らしい偉業とな、それは……どういった事じゃ?」
「スエズ子爵は巨大な堤防を作リ、そして王都に来るのに今までは陸路しか使えなかった場所ニ水路を作る事で船の往来が出来るようにしたのでス」
何だって!? 水路の事は知っていたが、巨大な堤防だって! まさか……それって。
「ほう、巨大な堤防とな、それはどのような物なのか」
「はい、その堤防はダムといい、巨大な壁で洪水を防ぐものでス。これで未曽有の大水害を防ぐことが出来るようになリ、さらに水を貯める事で農業にも活かせるのでス」
間違いない、そのダムはオレ達が造った物だ。
だがなぜナカタの奴がその話を……??
「ほう、そのような巨大な物をどうやって造ったというのじゃ」
「ここに出資者としてスエズ子爵の名前が記入されています。この金を投資する事でダム工事を完成させたのでス」
やられた! アレはパナマさんがアスワンさんに出資する為に用意していた書類の偽物だ。
それをダムが完成したのをいい事にスエズがパナマさんを屋敷から追い出した後にダムが完成していたのを知って、いかにも自身が出資したように偽の書類を作ったという事だ。
まさか完成した後に横取りされるとは、想定もしていなかった。
これは間違いなくナカタの指示だろう。
強欲なだけで無能なスエズがまさかそんな事を思いつくワケがない。
このような功績乗っ取りは、ナカタの得意技と言えるだろう。
ああいったタイプは、他人が汗水たらして努力の末に完成させたものでも書類の捏造や関係者の買収で権利や功績を横取りして私腹を肥やす典型的な特権階級のクソ野郎だ。
「素晴らしい、この件はナカタ殿の功績と認めよう。それで、水路とは?」
「はい、この王都に大型船で到着できるように海から水路を作ってここまで引いてきたのでス」
「なんと、この内陸にある王都から船で海に行けるのか、それは素晴らしい!」
くそっ、完全にナカタの独壇場にされている。
「どうやら他にも水路を作ろうという計画があるようですガ、そんな物は使わずこの水路で国所有にしておけバ、通行料でかなりの収入になると思われまス」
さらにオレ達の水路を使わせないようにしようとするやり口か、コイツマジで下衆そのものだな。
アイツはオレ達の水路が完成していてもしていなくても、これで計画が止められると思っているのだろう。
「うむ、素晴らしい功績だ。スエズ子爵、亡き御父上も喜ばれるだろう。これでもし国庫が潤うようになれば、その功績により陞爵も考えようではないか」
マズい、このままではオレ達より先にナカタに認められてしまい、オレ達の水路が使えなくされてしまう。
「お待ちください、国王陛下!」
「フォルンマイヤー嬢か、どうした」
「先に話をしようとしたのはコバヤシ殿のはず、それをなぜ遮ってまでナカタ殿の話を優先する事になったのか」
「う、うむ。それはいかんな。それではコバヤシの話を聞こうではないか」
「チッ!!」
ナカタが舌打ちしたのをオレは聞き逃さなかった。
アイツ、間違いなくオレより先に話を進めてオレのやった事を邪魔するつもりだったんだろう。
「国王陛下、これをお納め下さい」
「コレは……何と、砂糖ではないか!?」
「はい、パナマ様が統治する土地で採れた砂糖です」
辺りにどよめきが起こった。
この国では砂糖は貴重品、それも大抵は国外からの輸入品に頼る事になる。
それが国内で採れたとなると、そりゃあ驚くだろうな。
「この砂糖は、船でここまで運んで来ました。オレ達もその船に乗ってここに来たんです」
「バカな!? 船で山を登れるわけが無いだろうが! 変な芝居もいい加減にしろ! この雑種が!!」
パナマさんが有利になる材料を用意した事で、スエズは激昂している。
自身が有利だと思っていたのに、ここで逆転されるような事態になっているからだ。
「この砂糖を船で運んで来たのは噓ではありません、オレ達は船が山を越える水路を作る事に成功したのです。ゴッツン湖を渡る事で、山岳地帯を回避しつつ、フラット族の集落のある海から王都のある内陸側の海に抜ける事が出来るのです」
「まさカ……!? 閘門式!?」
どうやらナカタは閘門式水路の事を知っていたようだ。
だがわざわざそれに反応してやる必要は無い。
スエズはワケが分からずに混乱したままパナマさんに喚き散らし、衛兵に抑えられていた。
「な、何と……船が山を登るとは……コバヤシ、それはお前が以前言っていたエレベーターとやらを使ったのか?」
「いいえ、ドアで水をせき止め、上から流す事で上の水面と同じ高さにして水の差を登る仕組みです」
この説明には流石のダイワ王も驚きのあまり、王杓を落としてしまった。
「ま、まさかそのような方法があるとは……。コバヤシ、お前は予想を遥かに上回る男だな。この国の大きな問題の一つであった大きく迂回する海路を渡る事をそのような方法で解決するとは」
「お待ちくださイ! そんな方法で渡れる船なんて所詮小舟、こちらは横幅の大きな他国の船ですラ航行できるのでス!」
「そう思うならオレ達の乗って来た船を見てみればいい。どれくらいのサイズの船が通れるかの証拠だ」
王の命で兵士が船の大きさを調べに向かった。
「いかがであった?」
「はっ、コバヤシ殿の言う事には嘘偽りがありません、この船は横幅が我が国の軍船とほぼ同じであります」
この報告に流石のナカタも揚げ足取りが出来なくなったようだ。
「うむ、今回の件、ナカタ、コバヤシともに素晴らしい功績であった。よって、スエズ、パナマ、双方共にカラクーム子爵の後継者として認めよう。これからも国の為に尽力する事を期待しておるぞ」
まあ今回のダイワ王への謁見プレゼン、双方共に痛み分けといったところか。
だがスエズの嫌がっていたパナマさんの後継者問題がきちんと王様のお墨付きで認められた事がオレ達の勝ちとも言えるかもな。
スエズとナカタは苦虫を嚙み潰したような顔でオレ達を睨みつけていた。
まあそりゃあ面白くないよな、オレ達が王様に認められたワケだから。
それに、この国では貴重品の砂糖と石灰石が取れるとなると、スエズとしては不毛の土地にパナマさんを追いやったはずなのに面白くないだろう。
オレ達は久々の王都を楽しむ事にした。
そしてパナマさんは王様に呼び出され、正式に子爵の後継者としての書類を受け取る事になった。
オレ、カシマール、モッカ、フォルンマイヤーさんはパナマさんのお祝いをする為に王都で買い物をしてフォルンマイヤーさんの邸宅に向かう事になった。
パナマさんは書類を受け取り次第、王様の部下が送り届けてくれる事になっている。
だがいくら待ってもパナマさんがフォルンマイヤーさんの邸宅に到着しない。
これはどうなっているんだろうか……まさか!?
オレは嫌な予感がし、城の方に向かった。
だが、パナマさんはもう既に書類を受け取り、城を出た後だった。
これはひょっとすると……オレは急いでフォルンマイヤーさんの邸宅に戻る事にした。