パナマさんはもう王宮から出ている。
そして国王陛下直々の兵士が護衛してフォルンマイヤーさんの邸宅に送り届ける話になっていた。
だが、待てど暮らせどパナマさんは見つからない。
オレは一度フォルンマイヤーさんの邸宅に戻り、みんなに話をする事にした。
「コバヤシ、どうしたのであるか? そんなに血相を変えて」
「お兄さん、何があったのだ?」
「こばやしっ、だいじょうぶかっ」
「みんな、オレと入れ違いにパナマさんはここに来ていないか?」
オレはみんなにパナマさんがここに着いていないか聞いてみた、もしオレと入れ違いに到着している場合もあると思ったからだ。
「いや、見ていないのである」
「ボクも見てないのだ」
「モッカ、においもかいでないっ」
どうやら本当にここには到着していないようだ。
まさか、これはひょっとするとスエズ達による誘拐の可能性も!
今日パナマさんは、正式にダイワ王にカラクーム子爵の後継者と認められた。
それが面白くないのはスエズの奴だろう。
そして、オレと敵対しているナカタとしても、オレが不毛の土地を開墾、開拓してサトウタケ生産プラントや閘門式水路を作った事が妬ましいはずだ。
そう考えると十分にその土地の統治者であるパナマさんが誘拐される可能性は考えられる。
困った事になった、ダイワ王の取り計らいで明日にはカラクーム子爵の後継者お披露目の為に王宮でパーティーが催される事になっているのに。
ここで後継者お披露目に出れなければ、国王陛下の顔に泥を塗る事になり、スエズの思うがままになってしまう。
マズい、このままでは……。
オレはどうにかしてこの状況を打破する事を考えた。
コンゴウは王都の近くに待機してもらっているが、ヤンバ、オゴーチ、クロベ、シモクボの四体のコンクリートゴーレムは大型水路の完成と共に本人達の意思でカシマールによって昇天させてもらい、オレの手元には今は自由に使えるゴーレムが存在しない。
だからといって、オレに協力してくれる死者の魂がここですぐに見つかるとも思えない。
だからゴーレムを使って何かをするというワケには行かないのだ。
しかし一体パナマさんはどこに連れていかれたのだろうか。
それよりも国王陛下が護衛として付けた兵士が見当たらないのが不安だ。
下手すれば誰かに誘拐や殺害された可能性……とか?
そうなると、護衛の兵士はパナマさんと一緒にいて殺されていたとしてもおかしくはない。
あまり良い予感がしないが、カシマールに聞いてみよう。
「カシマール、最近ここで新しく死んだ魂とかいるのか?」
「いるのだ……。今日の夜、この近くで誰かが殺されたらしいのだ」
何だって!?
まさか、その殺されたのがパナマさんという事は無いだろうな……。
「それで、その殺されたのは、男、女どっちなんだ」
「男……なのだ」
ほっ、どうやらパナマさんが殺されたというワケではなかったようだ。
だがカシマールは何か思いつめたような表情でオレに語りかけて来た。
「でも、何かものすごく伝えたい事があるようなのだ」
「ものすごく伝えたい事?」
オレはカシマールに連れられて、殺人現場に向かう事になった。
その場所は馬車が激しく燃えていて、証拠隠滅を図られたのだろう。
燃えた馬車の中には誰かの焼死体が見える。
どうやらカシマールが死者の魂と会話を始めたようだ。
「無念だ、何者かに待ち伏せされて、連れていた女性を攫われた上、馬車に閉じ込められて焼き殺された……と言っているのだ」
どうやら本当にパナマさんが攫われてしまったようだ。
だが、彼女が攫われたという証拠はどこにもない。
そして次の日になってしまった。
オレ達はフォルンマイヤーさんのお付きという形で、カラクーム子爵家の後継者お披露目パーティーに参加する事になった。
結局パナマさんはパーティー欠席という事になっていて、ダイワ王の顔を潰した事になってしまった。
そしてドヤ顔のスエズがパーティーの主賓らしく挨拶を始めた。
「お集りの皆様、この度は我が父、カラクーム・ウンガ子爵が不幸な事に病気で亡くなり、私が後を継ぐ事になりました。そしてその後見人となるのが我が母上、ドルトムント侯爵家となります。私スエズ・ウンガ子爵は父の後継者として恥ずかしくない統治をしていく所存にございます」
完全に茶番だな。
だが、オレ達の予想よりもさらに質の悪い展開がこの後用意されていた。
スエズは隣にあまり品の良く無さそうな女に豪華な衣装を着せて立たせている。
アレはいったい誰なのだろうか?
「我が最愛の妹パナマは先日国王陛下に謁見した際の帰りに、賊に襲われ……帰らぬ人となってしまいました。そこで、私は彼女の妹であるこの人物にパナマの領地を託すことにしたのです」
何だって、それはどう言う事だ!?
「彼女の名前はニカラグア・ウンガ嬢。私とは直接の血縁ではなく、パナマの異母妹になります。ですので、私はこのニカラグア嬢と婚約し、彼女にパナマの領地を統治してもらおうと考えています」
ニカラグア? そんな妹がいるなんてパナマさんから一度も聞いた事が無いぞ。
だが貴族達からは割れんばかりの拍手が巻き起こっている。
くそっ、コレが目的だったのか。
この一件も間違いなく裏で画策してるのはナカタだ。
パナマさんが統治する土地で砂糖や石灰石が取れるのと、閘門式水路があるのを知り、アイツらはどこの誰とも知れない赤の他人を身内としてでっち上げる事でパナマさんの血縁だと称して横取りさせるつもりだ。
スエズとあのニカラグアとかいうのが婚約という事になれば、ニカラグアに統治させるといったパナマさんの土地を家族という事で合法的に奪い取れる算段だろう。
こうなったら何が何でもパナマさんを見つけ出し、スエズの悪事を全て暴露してやる事でナカタとスエズの計画を阻止しないと!!
しかし、一体パナマさんはどこに攫われたのだろうか……。
パーティー会場は中でガヤガヤしている音で何も聞き取れない。
「こばやしっ、はなしがきこえたっ。どれいせんがもうすぐでるっていってるっ」
「奴隷船?」
「すえずししゃくのおかげで、だいたいてきにどれいぼうえきがやりやすくなった、これもすいろさまさまだなっ、ていってるっ」
まさか、その奴隷船にパナマさんを乗せていたら、もうこの国には戻ってはこれないぞ。
それで証拠隠滅を狙おうとしていたのか。
「みんな、急いでここを出るぞ、パナマさんがどこにいるのかの目星がついた」
「本当であるか!?」
「わかったのだ……」
「こばやし、わかったっ」
オレ達はパーティーのどさくさに紛れ、王宮を抜け出し、スエズ達によって新たに切り拓かれた大型水路を目指した。
そこには周りを完全に板張りして中身が見えないようにしている船があり、ガラの悪い連中がその周りを守っていた。
どうやらアレが奴隷船に違いない。
「ゴーレム、あの連中を蹴散らしてくれ!」
「オゴゴゴゴゴッ!!」
オレがゴーレムの核にした魂はどうやら昨日この連中達に殺された兵士だったようだ。
ゴーレムはガラの悪いチンピラ連中を薙ぎ払い、放り投げ、力任せに叩いていた。
まあ、自分の仇とでも言う事なのだろうか、あまり見ていて気持ちのいい光景では無いな。
オレ達が船に乗り込もうとした時、船が丁度動き出してしまった。
しまった、このままじゃあ追いつかない。
どうにかして船にたどり着かないと、パナマさんを助け出す事が出来ない。
しかし船は無情にもそのまま出航してしまった。
どうすればいいんだ。
オレが躊躇していると、後ろから声が聞こえた。
「こばやしっ、これにのるっ」
「コレって……ワ、ワニー!?」
なんとモッカは水路に生息していたワニを呼び出した。
オレ達はワニの背中に乗せてもらい、パナマさんの乗せられている奴隷船を追いかける事にした。
ワニの泳ぐ速さは奴隷船よりも早く、オレ達はワニに乗ったまま奴隷船に追いつく事が出来た。
さあ、早くパナマさんをこの船から助け出さないと!