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第69話 ベクデルの……渦潮??

「さあ、おバカさん達、覚悟は出来ているかしらね!!」


 水の魔王ベクデルは手を掲げ、水の流れを操り出した。


「な、何だこれは!?」

「おバカさん達には少しオシオキをしてあげないとね、水の魔王を怒らせるとどうなるか思い知るのね!」


 あーあ、水の魔王が目を光らせて魔力を集めている。

 今まで飄々とした態度で目を開いたのを見た事が無かったが、目を見開いたベクデルは金色の目で辺りを見下しながら二つの水の流れを一つに合わせ、座礁した船を引き寄せた。


「ひえええー、た……助けてくれぇー!!」

「旦那様ーぁ!!」


 奴隷商人達は船もろとも引き寄せられ、二つの水の流れが作り出す巨大な渦潮にまきこれそうになっている。

 まあオレの本音としてはコイツらが死んでも自業自得だとは思うのだが、コイツらとナカタやスエズのつながりを露呈させた上で国に引き渡さないと、ナカタやスエズの悪事が発覚しないままになってしまう。


 それはこちらとしても非常にマズイ事になってしまう、下手すれば死人に口無しのトカゲの尻尾切りでナカタやスエズに逃げられかねない。

 そのため、この奴隷商人達は生きたまま捕らえなくてはいけないのだ。


「ベクデルさん、ちょ、ちょっと待ってください」

「あら、アンタ。アタシに指図するつもり?」

「い、いえ。そういうワケじゃ無いんですが、コイツらを生かしておかないと悪事の証拠が消されてしまうんです」

「あらそう、まあいいわ。アンタにはネクステラちゃんの一件を解決してもらった借りもあるからね」


 怒っているとはいえ、水の魔王ベクデルは冷静な性格なのだろう。

 オレが奴隷商人達を殺さないでほしいといった事に従ってくれた。


 ベクデルはいったん水の流れを止め、一時の猶予をオレ達に作ってくれた。

 そしてオレ達は、水の流れが止まっている間に奴隷商人を船のマストから解き、対岸に連れて行った。

 対岸にはフォルンマイヤーさんの招集した国王軍の兵士達がいるので奴隷商人達は逃げる事も出来ないだろう。


 奴隷商人達が船の外に連れ出され、これであの奴隷船には誰もいなくなった。

 これであの水域に残っているのは元から住んでいたワニ達だけだ。


「わにたちっ、はやくここからはなれるのだっ」


 モッカが指示すると、ワニ達は水の流れに巻き込まれないようにその場から離れ、水路の底深くに潜った。


 しかし、ナカタやスエズの奴ら、よくもまあワニの居るような川を切り拓いて水路にしようとしたもんだ。

 これ、間違いなく工事の途中で多数の死者出ているぞ。

 アイツらにはモッカの持つ魔獣使いのスキルなんて持っている奴がいないから、どう猛なワニが従うワケがない。


 まあそれでもモッカのおかげでオレ達はワニに襲われることも無く、反対にワニのおかげで奴隷にされていた人達を全員救出する事が出来たんだけどな。


「もう良いかしらね? それじゃあ再開するからね!!」


 ベクデルによる見せしめの水の魔法ショーが再開され、作り出された巨大な二つの濁流は水路を完全に通行できない巨大な渦潮になってしまった。

 そして、渦潮に引きずり込まれる形で奴隷船が巻き込まれ、無人の座礁した大型船は巨大な渦巻きにすり潰される形で粉々に砕かれ、水の底に沈んでしまった。


 もし……あの中に人が残っていたら、誰一人として助からなかっただろう。


「わ、儂の船がぁぁぁー」

「旦那様ー」


 奴隷商人とその手下はわんわんと大声でその場に泣き崩れた。


 渦潮は周囲の水を巻き込みながらその場で次の獲物を待ち受けている。

 あの大きさ、まるで以前見た事のある鳴門の渦潮だ。

 水路の入口にあんなものが作られたら船が近寄れるワケがない。


 ナカタとスエズの作ったはずの大型水路は水の魔王ベクデルの魔力で永遠に止まる事の無い巨大な渦潮によって二度と使い物にならなくなってしまった。


 まあ、王都から国外に物を持ち出せないだけで、内側の水路としては使えるんだろうけど、それでは奴隷貿易や武器や禁制の薬等の密輸をしようと考えていたスエズやナカタ達には何の役にも立たなくなってしまったというワケだ。


 むしろ国外から攻め込もうとしても海軍の船があの渦潮で先に進めないくらいだろう。

 だからといってオレ達の作った水路も発電機を止めて閘門を閉めれば船が通れない難攻不落の壁になるので攻め込むのは無理だろうな。


 いやーしかし立派な渦潮だ、コレは下手すれば今後の観光名所になるかもしれないな。

 オレがそんな呑気なことを考えている間、後ろの方ではフォルンマイヤーさんが奴隷商人達を問い詰めていた。


「貴様らには聞かなければいけない事が山ほどある、覚悟するのである!」

「ひいいぃぃ、命だけはお助けをぉぉ」

「旦那様ー」


 騎士団長フォルンマイヤーさんによって奴隷商人とその手下達は逮捕され、王都に連れて行かれる事になった。

 よし、それじゃあ王都に戻ろう、スエズとナカタの悪事をパナマさん本人が証言する事で暴露してやるんだ。

 だが、王都に向かおうと考えたオレの袖をカシマールが引っ張った。


「お兄さん、待ってほしいのだ。その前に行ってほしい所があるのだ」

「えっ、カシマール。すぐに戻らないとアイツが……」

「駄目なのだ、今すぐに行って欲しいのだ!」


 そんな眼力で見られても困るんだが、カシマールはオレを強く見つめ、王都ではなく先にどこかに行けと言っている。


「わ、わかった。それで……どこに向かえばいいんだ?」

「パナマさんのお父さんのとこ、そこに行くのだ」


 パナマさんの父親の所という事は、カラクーム子爵の城の事か。

 確かに、今なら披露パーティーの為にスエズやその母親であるドルトムント家の人間達が全員王都にいるから城の中の警備は手薄だと言えるか。


 確かにそうだな、今焦って王都に戻るよりは、この手薄なタイミングを狙ってカラクーム子爵の城でスエズやナカタ達の悪事の証拠を全部集めてから王都に乗り込んだ方が良いかもしれない。


「わかった。みんな、それじゃあカラクーム子爵の城に向かうぞ!」


 オレ達は奴隷にされた人達や奴隷商人を国王軍に引き渡し、そのままパナマさんを連れてカラクーム子爵の城に向かった。


 城の中は最低限の兵士しかおらず、フォルンマイヤーさん、モッカ、そしてカシマールの力で簡単に突破できた。


「お兄さん、こっちの部屋なのだ」

「わかった!」


 オレはカシマールの言う通り、部屋の中に入るとそこには誰もいなかった。

 だが、カシマールには何かがいるのが分かるようだ。


「そうだったのか、わかったのだ。それで、その書類ってのは……どこなのだ?」


 カシマールが誰かと話をしている。

 多分だがその相手はこの部屋の持ち主、つまりはカラクーム子爵だという事だろう。


「カシマール、オレの言う事をカラクーム子爵に伝えてもらう事は出来るか?」

「大丈夫なのだ……」


 オレはカシマールに、オレ達がパナマさんを助けて不毛の土地を開拓するのに成功した事、そしてその後パナマさんが攫われて奴隷として売られそうになった事、ニカラグアとかいう赤の他人を使ってパナマさんの土地が奪われそうになった事を伝えてもらった。


「お兄さん、カラクームさんはとても怒っているのだ。それでお兄さんに伝えたい事があるらしいのだ」


 オレに伝えたい事、それは一体何なのだろうか。

 カシマールを通して話を聞くのも出来るだろうけど、それよりは何かの証拠等があるならそれがどこにあるのかを教えてもらった方が良いだろう。


「カシマール、オレがスキルを使えばカラクーム子爵は何かを伝える事が出来そうか?」

「多分出来ると思うのだ」

「わかった」


 オレはこの部屋にあった調度品の鎧をゴーレム代わりにしてカラクーム子爵の魂をその中に移すことに成功した。


「カラクームさん、貴方を殺したのはスエズで間違いありませんか?」

「……」


 ものを言わない鎧は、肯定を示すように首を縦に振り、その後オレ達をどこかに連れて行こうとしていた。

 いったいどこに連れて行かれるのだろうか?

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