オレとナカタの対決はまだ続いている。
今のところはオレがイニシアチブを取っているとはいえ、ナカタは国威発揚の方法として戦争ではなく競技で国同士を争わせるオリンピックのようなモノを提案し、アイツの身内の建築家にそのスタジアム並びにコロッセオを作ろうとしている。
もしこれでナカタにスタジアム建設を成功させると、オレがダムや閘門式水路を作った以上の経済効果でアイツの方が勝負に勝つ場合もありえる。
もしそうなってしまうとオレはアイツの社畜として一生この異世界でこき使われる事にされてしまう、そうなったらマジでオシマイだ。
そうさせない為には、オレが何かスタジアムよりも評価される建造物を作る必要がある。
だが、巨大な電波塔を作るとしてもテレビやラジオの無いこの世界ではそんな巨大な塔の存在意義が無い上に、それを作っても維持が大変で意味が無い。
さあ困った事になったもんだ。
しかし無駄にダムを増やしても工期が増えるだけでそれほど美味しい仕事にはならない。
ハイダム村のロックフィルダムやふもとの村の堤防はあくまでも水害防止のためのダムであり、これ以上にダムを作ってもただの建築費と建材の浪費になるだけだ。
オレ達はいったんパナマさんの領地に船で行き、今後の計画を考える事にした。
ナカタとスエズの作った水路は、船が十分に行き来出来るだけの広さがあり、船が問題なく航行出来ている。
問題があるとすれば、水の魔王ベクデルが作り出した大渦潮のせいで水路から外海に出ることが不可能になってしまったくらいだ。
だが、これは国防面からすると、外部から大量の軍船が入ってこられないので最高の立地ともいえるかもしれない。
また、この水路に住み着いていたワニ達は、モッカの命令で人を襲う事が無くなった。
まあ、その分国王軍の兵士が食事として牛や豚を提供する必要が出来たワケだが、人が襲われる犠牲に比べればまあ必要経費ってとこだろう。
オレ達は内陸部に水路を安全にショートカットする事で、パナマさんの統治するウンガ子爵領に到着した。
コンゴウには自力で歩いてオレ達に追いついてもらう事にしたのだが、むしろ何度も一気に跳躍して移動した方が早い事が分かり、ジャンプしながら陸路で誰もいない場所を通って城に来てもらう事にした。
まあ、誰も載せていないならその移動方法の方が早いのだろう、しかし……本当に古代文明の作った巨大ロボとしか言えないな……。
城に戻ったオレ達は、改めてカラクーム子爵の部屋やスエズの部屋だった場所を調べる事にした。
大半の資料や証拠はダイワ王に提出した為、残っているものはあまりないが、その中にはパナマの母親に関する物等も見つかったらしいな。
「こ、これがお母様の……」
「パナマさん、コレは??」
「これは、お母様が持っていた物の片割れです。お父様はお母様の事を本当に愛していたのですね……」
そこにあったのは古びた小さなコップだった。
どう見てもブランド品には見えない簡素な物だったが、それは大事そうに金庫の中にしまわれていて、布で包まれていた。
どうやらこのコップがスエズの母親に見つかり、壊されるのを避ける為に金庫にしまっていたのだろう。
「パナマさん、コップが見つかって良かったですね」
「ええ、このコップはお父様のお墓に埋めてあげようと思います。お母様のコップと一緒に……」
オレ達はカラクーム子爵の墓前でパナマさんが今後この領地を治めていく事を誓うのを見た後、盛大なパーティーを催してもらった。
料理にはふんだんに甘味料が使われている。
これは全てパナマさんの領地で採れたサトウタケを加工した上質の砂糖だ。
サトウタケから採れた上質の砂糖は海外にも輸出されるようになり、閘門式水路はひっきりなしに船が行き来するようになっているようだ。
また、国内への砂糖の供給もスエズの作った国内用の水路で王都へ送る事が出来るのでこの土地は今後どんどん栄えていく事になるだろう。
インフラの手伝いでこのように国が栄えていく、これこそが建設の仕事をやっている醍醐味ともいえるんだろうな。
――だが、そんな呑気な事を言っていられたのはその日の夜までだった。
オレは、久々に浴びるように酒を飲み、食事と甘い物を心行くまで堪能してゆっくりと休む事にした。
だが、そんなオレの前にいきなり何者かが姿を現した。
「コバヤシ様ですね、お迎えに参りました」
「へっ?? お迎え……って、一体どういう事だ??」
「付いてこればわかります、わたしがお連れしますので」
「ま、ままま、待ってくれ! 話が全く見えないんだが」
オレは返事する間もなく、いきなり部屋に現れた何者かに瞬間移動でどこかに連れされられてしまった。
いったいどうなってるっていうんだ!?
「着きました、さあ、どうぞお入りください」
い、いや……お入りくださいと言われても、ここって……確か雷の魔王ネクステラの居城の彼の部屋の前だよな。
こんなとこにそのまま入ってオレ、黒焦げにならないんだろうか……。
だが、断るワケには行かなそうなので、入るしかないんだろうな。
オレが大きな扉の中に入ると、そこには高い場所の玉座に座ったイケメンの青年が姿を見せた。
「あ、あなたは? ネクステラ……様?」
「そうだ、ワシがネクステラじゃ」
この間会った時は美少年といった感じだったのに、今回オレが会ったネクステラは高身長のイケメンといった雰囲気だった。
どうやら魔力の暴走が少し落ち着いて来たので魔力で姿を保つことが出来るようになったのかもしれない。
「安心しろ、お前のおかげで魔力の暴発は落ち着いたようじゃ。それともお前は自分のやった事が信用できんとでもいうのかのう?」
ネクステラらしき人物が話すと同時に雷が放たれた。
だが、雷はオレの近くには落ちず、部屋の四隅の避雷針に吸い込まれているようだ。
「お前のおかげで儂の魔力暴発は少し落ち着いたようじゃ、じゃがまだ根本解決には至っておらんくてな、それで儂はお前に貸しがあったので、急ぎでここに来てもらったという事じゃ」
なんだよそのブラック上司か、取引先の横暴社長によるいきなりの呼び出しのような展開は!!
「そ、そうだったんですね。それで、オレに何をしろというのでしょうか?」
「うむ、そうじゃのう。儂のこの魔力暴発を何かの力に出来んかと思ってな、この力を効率的に無駄遣いせず、機械とやらに入れる事で儂の魔力を使った何かを作れんか?」
出たよ出たよ、ふわっとした表現での顧客による要望。
これが明後日な方向を向いている場合の説明を伝えるのにネットで有名な絵がある。
――立ち木の場所にロープを使って安全に子どもの遊べる遊具を作ってくれ――
これは実際にはロープとタイヤを使った安上がりの簡易式ブランコを作るのが正解なのだが、見解違いで全く異なった物が出来上がるといった絵だ。
ブランコが豪華すぎたり、木でターザンロープだけ作ったり、場合によっては木を切り倒してそこに椅子を作ったり、とにかく目茶苦茶な見解の数々を出す一種のブラックジョークみたいなものだ。
だがここで下手に雷の魔王とも言われる程の最強魔族の一人であるネクステラの要望を聞かなければ、オレの命はナカタとの対決の前に終わってしまう。
そうならない為にもこのふわっとした要望ではないきちんとした何が必要かを聞き出さなくては。
「あ、あの……ネクステラ様、魔力を入れてそれを使う機械は確かに作れます。ですが、それで一体何をすればいいのでしょうか?」
オレの質問に対し、ネクステラは大きく笑いながら答えてくれた。
「ワッハッハッハッハ、すまぬすまぬ、目的を伝えるのを忘れておったようじゃな。そうじゃな、儂がお前に作ってもらいたいのは、拷問道具じゃ」
「拷問道具!?!?」
「そうじゃ、儂の雷の魔力を最大限に発揮し、人間どもを恐怖に慄かせるような大型の拷問道具、お前なら簡単に作れるじゃろうて」
冗談じゃない!! オレに人殺しの為の道具を作れというのかよ!
だけど下手にこれを拒否すれば今度はオレがネクステラに一瞬で殺されてしまう。
さあ、どうやってこの場を切り抜ければいいのだろうか……。