前の人生からそこそこの無茶難題や修羅場を潜り抜けてきたオレだが、自慢じゃないが人を不幸にしようとした事は一度も無い。
まあ、過信による本人の自業自得で倒産してしまった一人親方や、孫請け丸投げのせいで業績悪化の末吸収合併というのを何度も見ているが、オレが率先して誰かを故意に陥れようとした事は無い。
それはオレが親に昔から自分から人を傷つけるような人間になるなと言われてきたからだとも言えるんだろうかな。
そんなオレに人を苦しめる拷問道具を作れと無茶振りをしてきたのが雷の魔王ネクステラというワケだ。
しかし、ネクステラには閘門式水路の水汲み上げの為の大型ポンプの発電機の初動に協力してもらった恩がある以上、これを断るワケにもいかない。
ここはどうにかして別の方法で依頼を変えてもらうしかないだろうな。
「わかりました、ですが……今聞いただけでは何をどうしていいのかわかりません。電気、つまり雷を使った動力を作るのは可能ですが、それをどのようにどうやって使うかがまるで見えないんです」
「ゴチャゴチャと煩いな、作れるのか作れないのか、まずそれを言うのじゃ! 話はそれからじゃ!!」
「造れます!!」
あーあ、売り言葉に買い言葉、つい挑発されてしまったので作れると言ってしまった。
これでオレは人に後ろ指を指されるような悪魔に魂を売った恐怖の拷問道具を作らなくてはいけなくなってしまったのか……もういい、こうなれば自棄だ!
「造れますよ、やろうと思えば回転させながらすり潰したり、上から落下させながら引き延ばしたり、力任せに真っ二つにするような拷問道具も作れますから!!」
言ってしまった……これは人間としてはかなりアウトな発言だ。
これでオレはもう人間サイドには戻れなくなってしまうかもしれないな。
まあ仕方ないか、ここで地獄の拷問官として生きていくのも一つの人生かもしれない。
でもこれを実践してしまうと、もう二度とモッカやカシマール、フォルンマイヤーさんにパナマさん達には会う事は出来ないだろうな……。
「面白いではないか! 上から一気に落として叩き潰す、それはヴォ―イングのヤツにしか出来ない事だと思ったのに、儂にもそれが出来るというのか、それは楽しみじゃ」
「あ、あの……つかぬ事をお聞きしますが、なぜそんなに人間を苦しめようと??」
「そうか、そこを話しておらんかったな。悪い悪い、儂の活力の糧は人間どもの恐怖の感情なのじゃ。じゃが、大きな戦争も起きておらず、最近は小さな嘆きの苦しみもめっきり数が減っておってな、それでまともな力の供給が出来ておらんのがどうやら魔力の暴発の原因になっておるようなんじゃ」
それって、オレが色々と快適なインフラ整備をしたり、奴隷貿易の貴族を一網打尽にさせたりした事で、人間の持つマイナスの感情が激減したってのがネクステラの魔力暴発の原因だって事か!?
困った事になった。
どうやら、ネクステラのエネルギーになっている人間の負の感情が激減し、それがエネルギーの安定供給から外れた事になってしまい魔力暴発につながっている。
その原因を作ったのは、ほぼオレのゴーレムを使った建築建設による安定、快適の供給だという事か。
まさかこんな形で雷の魔王ネクステラのエネルギーをオレが奪った形になっていたなんて、だが……やはりどうしてもオレは、自身の良心が邪魔してしまい、人間を苦しめる拷問器具を造るのはやはり出来なそうだ。
それにもしそんな拷問器具を造ったら、掃除の手間も大変で、肉片やおびただしい血をどうにかしないと機械なんてすぐに錆びて使い物にならなくなってしまう。
ましてや、それを大量の人間を一気に恐怖のどん底に落とすものとなると……。
え? 大量の人間を一気に恐怖のどん底に落とすもので、命を奪わずに済むモノ……それって、遊園地の絶叫マシンじゃないか??
そうだ、試しに聞いてみよう。
「あの、ネクステラ様、お聞きしてよろしいでしょうか」
「何じゃ、やはり人間を苦しめる機械を作るのは出来んというのか?」
「い、いえ……実はもっと良い方法がありまして、それを聞いてもらえないかと」
「何じゃ、勿体ぶらずに早く言ってみるのじゃ」
「それが、人間を苦しめるのは、何も殺さなくても何度でも苦しめて恐怖を与える方がよくありませんか?」
オレの提案にネクステラは少し首を傾げた。
「どういう事じゃ、殺さずに何度も恐怖を与えるじゃと?」
「はい、それを人間自らが喜んでネクステラ様に恐怖を捧げる事が出来るとすれば、いかがでしょうか?」
「ぬう、お前は何か怪しげな魔法や妙な薬でも人間に与えようというのか? 儂はそういう事に使える魔力は持っておらぬぞ」
話を聞いていて分かったのだが、雷の魔王ネクステラは絡め手が苦手な正攻法タイプの魔族らしい、だから人心を掌握する系の魔法は使えないようだ。
どうやらこれは絶叫マシンの概念から説明しないといけないようだな。
「ネクステラ様、人間には自ら恐怖、スリルを味わいたいという少し変わった感覚が存在するのです。それはわざと危険な場所に行ったり、死と隣り合わせの行動を喜んでしたりするもので、でもそれは死なないと分かっているから楽しめるモノなんです」
この説明でもネクステラはどうも腑に落ちないといった感じだな。
ますます彼の頭の中に?マークが増えているように見える。
「ぬう、どうもイマイチよくわからんのう。それと大量の人間を一気に恐怖に陥れる事の何が関係するというのじゃ?」
「つまり、オレに任せれば人間から金を集めつつ、恐怖を楽しみにし、なおかつネクステラ様の魔力を使った人を殺さずに何度も使える拷問器具を造れるというワケです」
説明はまだ不十分だが、ネクステラはオレの方をじっと睨んだ後、目を閉じて息を吐いた。
「ふう、まあ良かろう。あのベクデルが一目を置くお前だ、それに儂の魔力暴発を一時しのぎとはいえ解決してくれた件は覚えておる。良いじゃろう、お前に任せるとしよう。トーデン、カンデン、貴様らはこのコバヤシの指示で動け。今後コバヤシの命令は儂の命令だと思って聞くのじゃ」
「はっ、承知致しました、ネクステラ様」
「承知致しました、このカンデン、ご命令に従います」
ネクステラは部下らしき二人の魔族、トーデンとカンデンの二人にオレに従うように命令を下した。
オレをここに連れて来たのがトーデン、以前水の魔王ベクデルに連れてこられた時に会った魔族がカンデンのようだ。
「よいか、期限は数か月。それまでに儂の納得できる拷問器具を造るのじゃ。材料や必要な人員は言えば言うだけ用意してやろう。ではすぐに作業に取り掛かれ!!」
「わかりましたっ! 必ずやご期待に沿えるモノを作って差し上げましょう!!」
よかった、これでオレが地獄の拷問器具を造るという責務から逃れる事が出来そうだ。
しかし、絶叫マシンを作るという事は、何種類か用意しないと飽きられてしまう。
そうなると、用意するのは落下型のフリーフォールにトロッコを歯車で持ち上げて一気に落とすジェットコースター、それに船や地面を上下に大きく揺らすバイキングやフライングカーペット、それと映像系の何かが使えるならミラーハウス的な物もいいかもしれない。
そうだ、それならいっその事、ネクステラの魔力をフル活用できるようなフルで電力を使うような大型テーマパークを作ってしまえばいいんじゃないのか!
という事は、大型の遊園地を作るという作業になるな。
さて、それじゃあまずは構想を考えるところからだろうけど、一旦ここから元の場所に帰してもらわないと城に残ったままのみんなが心配する。
だからネクステラに言ってどうにかオレを元の場所に帰してもらおう。