「あの……ネクステラ様、そろそろオレを元の場所に帰してはもらえませんか?」
「ほう、そうじゃったな。良かろう。トーデン、この男を元の場所に帰してやるがいい」
「はっ、承知致しました」
オレはどうにかトーデンによって元の場所に帰してもらえた。
どうやらオレがネクステラの部下であるトーデン達に連れ去られた事はまだカシマールやモッカ達には気づかれていなかったようだ。
「コバヤシ様、もし御用がありましたらいつでもお呼び下さいませ、このトーデン、いつでもコバヤシ様の元に来ますので」
「わかりました、送っていただきありがとうございます」
オレがお礼を言うと、トーデンは音もなく姿を消した。
……まあいい、今日はもうゆっくりと寝させてもらおう。
絶叫マシンやテーマパーク建設についての事は、明日考える事にしよう。
オレはそのまま泥のように眠ってしまったようだ……。
次の日、オレが目を覚ますと、日はすっかりと明けていた。
「こばやしっ、いくらねむいからっていっても、もうおひるすぎてるっ」
「もうお昼の食事終わったのだ……」
「あ、すまない。実はちょっと色々あってな、疲れてそのまま寝てしまってたんだ」
オレは昨日の夜、雷の魔王ネクステラに呼び出された事をみんなに伝え、絶叫マシンを作る話をした。
だがやはり、この世界では恐怖、つまりスリルを楽しむという概念がまだ理解出来ないようで、オレの説明はイマイチ伝わっていなかった。
「コバヤシ、お前は何を言っているのであるか? 恐怖は克服するモノであって楽しむ事では無いのである。そんな事は常識だと思うのであるが……」
「ボクもお兄さんの言っている事の意味がよく分からないのだ」
「コバヤシ様は人を幸せにする為の力を使えるはずですのに、何故人を怖がらせる様なことに力を使おうとするのですか?わたくしには理解できません」
あらあらあら、フォルンマイヤーさんやカシマールだけでなく、パナマさんにまでオレのやろうとする事を否定されちゃったよ。
どうもこの世界ではスリルを楽しむという事は概念としてまだ確立していないみたいだな。
これは何かプロトタイプとしても一度経験してもらわないと、しかし……どうやってこのスリルが楽しいという事を伝えるべきか……。
どこかにトロッコみたいなものがあれば、それを使ってジェットコースターを疑似的に再現できるかもしれないんだが、そうだな……パナマさんにこのウンガ子爵領に鉱山があるかどうか聞いてみるか。
「パナマさん、この領地のどこかに鉱山はありませんか?」
「鉱山……ですか? それでしたらここから一日歩いた場所に小さな廃坑が在ります、もう何も出てこないので打ち棄てられた場所ですが」
「わかりました、オレ少しそこに行ってきます」
オレが廃坑に行くと聞いても、今回は誰もオレに着いてこようとしない。
やはりこの概念は口で説明しても伝わらないようだな、実際に体験してもらわないと。
そうなると、実際に一度ジェットコースターのような物を作ってみなければ、だけど今回は誰も手伝ってくれそうにない。
それなら今回は雷の魔王ネクステラの部下に手伝ってもらうとするか。
オレは部屋に戻ると、雷の魔王の部下であるトーデンを呼び、瞬時に廃坑に連れて行ってもらった。
そこにあったのは、放置された廃坑と、鉱石を乗せるいくつかのトロッコの残骸だった。
そういえば、関東の某所に在った超大型テーマパークのジェットコースターも、アメリカ開拓時代の鉱山のトロッコをイメージしたジェットコースターだったな。
ここのトロッコを、一度安全を確保した上でジェットコースターのようにいくつかのトロッコを繋げてレールの上を走らせれば、スリルは楽しいものだという事を理解してもらえるかもしれない。
「トーデンさん、少しお力を貸してもらえますか?」
「承知致しました、何なりとお申し付け下さい」
オレはトーデンに頼み、魔族達にトロッコの修理とレールの補強をしてもらった。
どうやら元々の鉱路があったので、少しの補修でジェットコースターらしいものは用意できたようだ。
問題は、どうやって重力に逆らってトロッコを上に持っていくかだったが、それはアプト式鉄道のように、歯車をつけたトロッコの下部分とレールの下部分を嚙ませる事で、問題は解決した。
さて、折角手伝ってくれたワケだし、ここはトーデン達にもこのジェットコースターが楽しいものだと分かってもらう事にしよう。
オレはトーデンとその部下の魔族達にトロッコに乗ってもらい、一気に安全装置を外して下に滑らせた。
「ななな、何だこれはあぁあ!?」
「ウギャアアアッ!!」
「ギャオオオウウ!」
トーデン、それに他の魔族達はオレがトロッコを一気に急スピードで下に滑らせると、凄い叫び声を上げながら下に落ちて行った。
どうやら安全面には問題は無さそうだが、これでスリルを楽しむという事が分かってもらえるだろうか……。
その概念が伝わらなければこの計画は失敗だともいえる。
オレはトロッコの滑り落ちたルートとは別の階段を降り、トロッコの止まる場所に先回りしてトーデン達の降りてくるのを待った。
どうもこの廃坑は複雑に入り組んでいたようなので、それこそジェットコースターのように曲がりくねった場所をグネグネと猛スピードで降りてくるのにはかなり時間がかかったらしく、階段で先に降りたオレの方が停止位置に先回りできたようだ。
オレがトロッコの終点に到着して少し経った頃にトロッコはゆっくりと下ってきて安全装置の前で止まった。
どうやら初めてのジェットコースター体験に、トーデン達もかなりビックリしたようだ。
「どうでしたか、コレを使って人間を驚かせる事は出来ると思いますか?」
「な、何だったんだこれは? こんな恐ろしい思いしたのは初めてだ!!」
どうやら絶叫マシンはかなり効果があったようだ。
屈強なはずの魔族達は、その大半がトロッコの中で疲労困憊といった様子だった。
「だが楽しいな! 確かにこれならもう一度乗ってみたいという気になる!」
これなら成功といったとこかな。
魔族達はその後何度もこのトロッコを上に持ち上げては下に降りる事を繰り返し、ヘトヘトになるまで楽しんだようだ。
だが、これは人間よりも体力的に優れた魔族だから出来る事だろう。
このトロッコというかゴンドラをどうやって上に戻すか、コレが今後の課題かもしれないな。
よし、これなら行ける。
オレはトーデンに城に戻してもらい、絶叫マシンをどう作るかを設計図に描いてみる事にした。
この世界の技術ではまだループコースター等は難しいだろうから、普通にレールを敷いて作ったほうが確実で安全だろうな。
とにかく、一度実際にみんなに体験してもらってからならみんなも理解してくれるかな。
オレは次の日、パナマさん達を連れて廃坑に向かった。
「コバヤシ様、一体ここで何をしようというのですか?」
「うう、何かイヤな予感がするのだ……」
「モッカ、なにかほるならてつだうっ」
「コバヤシ、お前はいったい何を考えているのであるか?」
論より証拠、とりあえず全員にトロッコに乗ってもらおう。
昨日のうちに魔族達にトロッコはまた上の部分に戻しておいてもらったので、パナマさん達にはそのままトロッコに乗ってもらえばいい、実際に乗れば絶叫マシンがどんなものかわかるだろう。
オレはパナマさん達をトロッコに乗せると、安全装置を外して一気に下に滑らせた。
「うわぁあああ!!」
「やっぱりイヤな予感が当たったのだぁあー!!」
「あははははっ、すごいはやさっ」
「何なのであるかぁあ、これはぁああっ!!!!」
全員の絶叫が廃坑に響き、トロッコはどんどん廃坑の奥に進んでいった。