誰もいない廃坑の奥の方から、トロッコに乗った四人の声が聞こえる。
まあ初めての体験だけに、みんなかなり驚いているようだ。
さて、そろそろここに到着するかな。
オレが待っていると、トロッコはゆっくりと速度を落とし、オレの手前で停止した。
乗っていた四人はかなり疲れたらしく、今はまともに会話も出来ないようだ。
ここは少し経ってから話をした方が良いな。
オレは四人が落ち着くまで待ち、その後トロッコから降ろしてやった。
「コ……コバヤシ、一体これは何の嫌がらせなのであるかっ!!」
フォルンマイヤーさんが普段見せないような涙目でオレに怒っていた。
「モッカ、これたのしかったっ、またやってみたいっ」
モッカはどうやら絶叫マシンが気に入ったようだ。
「ボク、コレ悪くないのだ……また乗っても良いのだ」
カシマールはまんざらでも無いといった感じか。
「コバヤシ様、確かにこれはたのしいかもしれませんわ、でも……以前わたくしが住んでいた時にお母様に乗せてもらった急流下りに比べれば、あまり速さは大したことなさそうですわね」
これはツワモノがいたもんだ、パナマさんはこの速さに平然としている。
どうやら彼女は初動こそビックリしたものの、これより早い急流下りを経験しているのでこの程度では何とも思わないといったところか。
さて、これで実際にジェットコースターを体験してもらった形になるのだが、各自の状況を確認すると……。
フォルンマイヤーさん、完全にアウト。
モッカ、リピーターになりそうなくらい楽しんでいた。
カシマール、こういう体験は嫌いではない。
パナマさん、もっと早くても問題なし。
三対一で絶叫マシンは好評だったという事が分かった。
「みなさん、コレがオレの伝えたかった事なんです、実際にやってみてどうでしたか?」
「私は二度と乗りたくないのである!! これに乗るなら死んだほうがマシなのである!!」
あーあ、フォルンマイヤーさんは完全に嫌になっちゃったみたい。
しかし彼女はこれよりも早くて安定感の欠ける乗馬はこなすのに、なんで絶叫マシンはダメなんだろうか??
「モッカはまたのってみたいっ」
「……うん、悪くないのだ」
「コバヤシ様、もっと早くする事は出来ないのでしょうか?」
どうやら乗り気になってくれた三人は今回の計画に協力してくれる可能性が出て来たな。
「あの、コバヤシ様」
「何ですか? パナマさん」
「もしよろしければなんですが、ここをわたくしに管理させてもらえませんでしょうか?」
管理も何も、ここは貴女の領地だからオレに断る必要なんて無いと思うんだけど……。
「そ、そりゃあ何の問題もありませんけど、どうするつもりなんですか?」
「せっかくこんな楽しい場所が出来たんです。それにここはもう廃坑で何も掘れませんから土地を遊ばせておくくらいなら、ここを有効活用したいと考えたのですが、どうでしょうか」
そうだな、ここは元々廃坑で、何にも使っていない場所だから、ここであの絶叫マシンを使うとすれば新たな収益になる可能性は高いな。
トロッココースター自体を電動の自動にしておけば、高い場所に持ち上げる際に労力は必要無くなる。
幸いこの近くには小さな滝があるので、水力発電でモーターを動かせば歯車を動かす事が出来る。
そうなれば自動でトロッコを動かせるようになるので、安全装置だけメンテナンスすればここを絶叫マシンで楽しめる場所に出来るかもしれないな。
後の問題は落盤を起こさせないための補強工事といったところか。
ここを廃坑ではなく絶叫マシンのアトラクションが楽しめる場所に改修すれば、ここで収益が発生する。
そうすれば実際に恐怖、スリルを楽しむ為に金を払う人がいるという事が確証になるだろう。
さて、そのお披露目方法としては、どうやって人を集めればいいだろうか。
コレが完成したら一度無料で乗れるプレオープンをしてもいいかもしれないな。
その前に事故が起きないようにきちんとした整備と補強を進める必要がありそうだ。
さあ、作業に取り掛かろう。
オレはパナマさんやアスワン・ハッタに頼み、人を用意してもらう事にした。
これだけの坑道だと、下手にゴーレムを生み出して作業すれば反対に落盤でも起こしかねない。
坑道の広さ自体がそれほど大きくないので外からゴーレムを入れるというのも難しそうだから今回は人間に工事してもらう方が良いだろう。
トロッコの走るレールとかの敷設も人がやった方が確実だ。
幸いこの廃坑は落盤で打ち棄てられた場所ではなく、単に鉱石が出なくなったので使われなくなっただけで地盤的には頑強で崩れる心配はなさそうだ。
だからトロッコの通る車輪の整備と落盤防止の補強、それと電力による歯車の回転、これだけ完了できればここを絶叫マシンに乗れる場所として公開する事はそう難しくはない。
実際作業は一週間少しで完了した、まあ……人手をパナマさんとアスワン・ハッタが用意してくれたから一気に進める事が出来たのが大きいだろうな。
コンゴウには大型の発電機を川に設置してもらい、水力発電でモーターを回す為のケーブルを敷いてもらう作業をやってもらった。
発電機自体はファラデー爺さんが作ってくれたので、それをコンゴウに頼んで川の所まで運んで来させた。
これを人力でやったらもっと長い時間と労力が必要だっただろう。
そんなこんなで十日程で作業は完了、廃坑はトロッコ型コースターのアトラクションが楽しめる場所としてリニューアルされた。
パナマさんによって伝書鳩が近隣の村々に送られ、廃坑跡に来れば砂糖がもらえるという話が伝えられた。
するとまあプレオープン当日には最後尾が見えない程の長蛇の列が出来上がった。
砂糖に釣られたとはいえ、これだけの人が集まったのを見ると圧巻だ。
まあ砂糖自体はサトウタケ精製プラントで作られたものの二級品なので、それ程費用として大変なものでは無い。
王侯貴族や富裕層向けに精製したものの一級品の残り汁から作られたものなので、いわばリサイクル品、廃棄する予定のモノを作り直したものなので売らずともいくらでも余っているくらいだ。
ここに集まって来た人達には、一度このトロッココースターを体験してもらってから砂糖を渡す事にした。
すると、砂糖目的で集まったはずの人達の中にはむしろこのアトラクションをもう一度楽しみたいといった人がかなりの数いたようだ。
やはり、このスリルを楽しむという感覚は、この異世界でも通用するという事がわかった。
これなら雷の魔王ネクステラの要望通りのモノが作れそうだな。
この様子をトーデンとカンデンもオレ達と一緒に確認し、驚いていた。
「コバヤシ様、本当に人間達が自ら恐怖を受けようとしていますね……信じられません」
「まさか、人間がこんなだったとは、これはネクステラ様にお伝えしなくては」
これはひとまず成功と言っていいだろうな。
用意した砂糖は全部無くなったが、それでも人の行列が尽きる事は無かった。
何故なら、後ろに並んでいたのは一度トロッココースターを体験した人達ばかりだったからだ。
この好評さなら、一人一回銀貨一枚くらいでも成り立つかもしれない。
それだけの金があれば、大勢のメンテ要員を雇う事も問題さそうだからな。
無料だから乗ったというよりは、コレは金を出しても乗りたいって人がかなりいるみたいだ。
これならここの廃坑跡が新たな収入源になってもなにもおかしくはなさそうだ。
トーデンとカンデンの二人は、この様子を雷の魔王ネクステラに伝える為、この場所を離れた。
さて、今回の実験が成功したから……次は本格的なテーマパークを作る計画を立てても良さそうだな。