まずはテーマパーク、遊園地というものがどういうものかを説明しないといけないな。
「コバヤシ、そのテーマパークとはいったい何なのであるか?」
フォルンマイヤーさんは先日からオレに対して否定的な感情しか出していない。
それは会話の仕方からも伝わってくるが、仕方ない。
彼女は絶叫マシン系の高い場所、早い動きが本当にダメみたいだからな。
「フォルンマイヤーさん、テーマパークとは、何かのテーマに沿ったモノを食べ物やアトラクションで再現した遊園地ですよ」
「ゆうえんち? なんだそれっ、たのしいのかっ??」
今度はモッカがオレの説明に興味を示したようだ。
「遊園地とは、沢山の遊具があってそれを使って楽しむ場所ですよ、モッカも絶対に気にいると思います」
「でもお兄さん、恐怖を集めるという事をあの雷の魔王に言われていたのに、どうして拷問が楽しい事になるのだ? よくわからないのだ……」
「カシマール、それはもうすでに度体験したでしょう、あのトロッココースターの爽快さと程よい恐怖、あの感覚ですよ」
実際に体験した人でなければ、あの絶叫マシンの恐怖と楽しさは伝わらない。
これはいくら口で説明しても、実際に体で体験しないと理解できないからだ。
「確かにあのヒヤッとした感覚、あれは恐怖の中に楽しさを感じるものでした。成程、コバヤシ様はその感情を雷の魔王様に献上しようとしておられるのですね」
「私は反対である! 魔王を喜ばせる事が人類に何の得になるのか、それが分からない上、それで力を得た魔王が人類を攻め滅ぼさないとも言えないからである!!」
あーあ、もうフォルンマイヤーさんは完全に意固地になってしまっていて、聞く耳を持とうとすらしてくれない。
その後も話は続いたが、イマイチ説明が伝わっていない。
やはり紙に書いて説明しないと理解できないのかもしれないな……。
この後も続いたオレ達のグダグダ話は、雷の魔王ネクステラを呆れさせてしまった感がある。
「……まあよい、今日は時間も更けた。儂が部下に命じて、お前達がこの城で安全に過ごせるようにしておいたわい。今日はゆっくり休んで明日また話の続きをするがよいわ」
雷の魔王ネクステラは、オレ達の内輪話にはあまり口を挟もうとせず、部屋を用意して歓迎してくれた。
オレ達はトーデン、カンデン達に案内され、城の豪華な客間に通されて休む事になった。
そして寝る前にオレは再び部屋の中でテーマパークが何かについてみんなに伝える事にした。
「つまり、テーマパークとは、時代やコンセプト、キャラクター等をそのテーマに合わせた遊園地で、乗り物や食べ物、お土産などでその世界を体験しようというモノなんだ」
「それで、そのゆうえんちってのがなんなのかがまだわからないっ、こばやし、おしえてくれっ」
そうなんだな、遊園地の概念自体がまだこの世界には存在しないという事か。
それだとそれの説明からという事になってしまうな……。
「遊園地とは、大きな乗り物や綺麗な場所で体を動かして楽しむ事の出来る、大人から子供まで楽しめる大きな公園みたいなモノなんだ、そこに設置されているのがジェットコースターやメリーゴーランド、回転ブランコに観覧車という事になるんだ」
「その、ジェットコースターってのがあの人を怖がらせるものだというのはわかったのである。だが、メリーゴーランドとは何なのであるか?」
そうだ、フォルンマイヤーさんならメリーゴーランドを説明すれば理解してくれるかもしれないな。
「メリーゴーランドとは、馬の形をしていて、丸い円の中を走るヤツです。一定期間回り続け、馬が上下する事で楽しめる乗り物なんです」
「???? コバヤシ、馬なんて普通に乗ればいいのに、何故そんな変な形の物を作って乗らなくてはいけないのであるか?」
あー、貴族様にとって乗馬は嗜みみたいなもので、むしろ馬に乗れない方が恥なのかもしれない。
それだとこの説明では意味不明かもしれないな。
「モッカもわざわざいきものでないものにのるいみがわからないっ、こばやしはなにをしたいのかっ」
下手に馬に乗れるスキル持ちがいると、馬に乗れない人が乗馬をしているような感覚を楽しめると言っても伝わらないのかもしれない。
これは実際に絵に描いて説明しないと伝わらなそうだな。
「良いですか? メリーゴーランドというのは、このように馬の形をした乗り物が円形に動く事で馬に乗れない人でも乗馬感覚を楽しめるようにした乗り物の事なんです。これなら子供でも落馬の危険性が無く、楽しむ事が出来るんです」
どうやら絵に描いて説明した事で、ようやくメリーゴーランドがどんな物かがみんなに伝わったようだ。
「成程、確かにこれなら馬に乗れない素人でも落馬する事無く馬に乗れるかもしれないのである。だが、これであの雷の魔王が納得するのであるか?」
「そのためのテーマパークです、コレは普通に楽しいだけのモノであって、恐怖を与えるのはあのジェットコースターになりますから。楽しいの後に恐怖を与える事で尚更に感情が倍増するという事ですよ」
「うう……コバヤシッ、私は気分が悪くなったので寝るのであるっ!」
フォルンマイヤーさんはあのトロッココースターの恐怖を思い出してしまったようで、もうベッドで布団に包まって一人で寝てしまった。
どうやら本当に高い所とスピードの速いのが怖いんだな。
だが、一応はテーマパークがどんなものなのかを一部だけでも分かってもらう事が出来たので、これでどうにか計画を進める事は出来そうだ。
オレ達はその後、観覧車と回転ブランコの話をして、それで解散し、それぞれの用意してもらった部屋に戻って眠りについた。
次の日、雷の魔王ネクステラの前に来たオレは、みんなを後ろに下がらせた上で雷の魔王ネクステラをテーマにしたテーマパークの説明を始めた。
「コバヤシ、それで……儂の望んでおる人間達から恐怖を集める方法は実現できそうなんじゃな?」
「はい、オレが計画したテーマパーク、これでネクステラ様の望む恐怖の感情を存分に味わっていただく事が出来ます!」
言葉の説明としてはおかしく感じるが、雷の魔王ネクステラの活力の源が人間の恐怖の感情だとすると、この説明で間違ってはいない。
そしてオレは設計図を見せ、テーマパークの全体図を雷の魔王ネクステラに見せた。
「ご覧下さい、これだけの器具で人間達を次々と恐怖の中に落とし、なおかつお金も集めて見せましょう!!」
「コバヤシ、儂は恐怖を集めろとは言ったが、金まで奪えとは言っておらぬぞ。無駄な事をして恐怖の感情を手に入れる前に人間達に逃げられたらどうするのじゃ?」
「大丈夫です、これには絶対の自信があります!!」
オレは雷の魔王相手に言い切った。
実際、オレが前いた世界ではテーマパークの金額はどう考えても少し高めだが、それでもリピーターは続出し、人間達がスリルを味わう為に大金を出すのは普通の光景だった。
だからこれにも自信がある。
それに、下手に無料などにすると、今度は運営が大変になるのでお金を払わせて楽しんでもらう事は必須だと言える。
人間、金を払ったモノにはそれだけの対価を求めるモノだ。
実際大金を払ったモノが面白くなければ、それこそ――馬鹿野郎! 金返せ!!――になるのは明白だ。
だから安くない金を払う以上、それ以上の対価、経験を欲しがるという事だ。
この心理を踏まえた上で、人を怖がらせるようなアトラクションを作る、それこそがテーマ―パークが成功する秘訣だとも言えるだろう。
さあ、それじゃあこの計画に許可を出してもらって早く作業に取り掛かろう!