雷の魔王ネクステラは、オレの説明に納得したらしく、今後の協力を約束してくれた。
「良いじゃろう。儂の部下をお前の思うように使って構わん。なに、死んでも代わりはおるから少しくらいは無理させても不問としようではないか」
いや、そんな風にいくら雷の魔王が言っても、オレがそんな事出来るワケないって……。
でも、工事に必要な人員を貸してもらえるのはありがたい。
これでゴーレムとオレ達だけでなく、他のスタッフも確保出来たという事だ。
そして雷の魔王ネクステラは、オレ達に土地を提供してくれた。
どうやらこの場所は、かつて人間との対決の際に砦を建設した場所で、人間の国との境目に存在する場所のようだ。
現在では朽ち果てた砦と櫓や見張り台の残骸が残っているようだ。
そうだな、この櫓や見張り台はそのまま修復すればアトラクションの基部に使えるかもしれない。
この場所は魔族側としても土地にわざわざ投資をするほどの場所でもない僻地の上、人間の国との境目ともいえる所なので、普通の魔族は喜んでこんな場所に住もうとは思わないようだ。
こんな場所に喜んで住むのはよほどの変人か、戦いを求める戦闘狂くらいだろう。
だが、テーマパークを作る上で、ここなら立地条件的にはかなり良い場所だと言える。
何故ならパナマさんの領地から船で来られる場所だし、魔族の土地とはいえ人間が魔族の国の奥に行くよりはよほど安全も確保される場所だと言えるからだ。
ここは適度に斜めな部分が多く、敵に攻め込まれにくい難所として砦が設置された場所だ。
だから後方には大きな崖があり、前方は開けた土地に奥の方に行くとなだらかになっている大きな坂が存在する。
これくらいの土地なら十分にアトラクション遊具を設置する広さと土地の頑丈さがあるようだな、よし、これならいけそうだ。
ここにテーマパークを造るとして、さて何をどう配置するかが問題だ。
ジェットコースター、フリーフォール、メリーゴーランド、回転ブランコ、バイキング、ミラーハウス、それにレストランといったところか。
テーマパークの半分以上は絶叫マシンにしておかないと、雷の魔王ネクステラの依頼である、人間の恐怖を集める、のノルマを達成するのが難しくなる。
だから絶叫マシンと言えるのは、ジェットコースター、フリーフォール、回転ブランコ、バイキングといったところか。
幸い、バイキングは昔人間と魔族が戦った際のオンボロな軍船が残っていたらしいので、それを使えばいいだろうな。
他の設備も、かつての人間と魔族が戦った際の砦の骨組みの残骸や、瓦礫を再利用すればいいのでそれ程建築資材に困る事は無さそうだ。
まあオレの居た世界の海外のジェットコースターには木造の物もあったが、それはメンテナンスの難度と危険度が高そうなので素直に鉄や金属を使って作った方が良いだろうな。
ジェットコースターは本来ならループを入れたいところではあるが、この世界の技術的に考えて、トロッコを走らせる物に安全バーを取り付ける程度だと、回転途中で落ちたりする危険性も考えられる。
そうなると基本は高い所から一気に降ろすのと、曲がりくねりながらも脱線しないはめ込み式の車輪を作るくらいだな。
それと後は高い場所にトロッコを持ち上げる為の歯車とモーターか。
これは、動力部分を雷の魔王ネクステラの魔力で十分賄えるだろうし、歯車部分のかみ合う部分は技術さえあれば造り方はオレでも十分に伝える事が出来る。
フリーフォールはかつての物見櫓を改修し、エレベーターの技術を使い持ち上げた後、一気に下に落とすようにすればいい。
問題は下に落とした後に衝撃を受けないように斜めにしておくことで直接の落下ダメージにならないようにしておくくらいか。
このフリーフォールは崖の部分の下に設置すれば、上から降ろしながら作業が可能だろうから高い場所をわざわざ作り上げる必要は無さそうだ。
バイキングはコンゴウに任せれば設置可能だろう。
元々人間と戦う為に用意された大型投石器と軍船の成れの果てがあるので、これを少し改良して電力で大きくスイングするように出来れば問題は無い、後は安全バーで下に落下しないようにするくらいだ。
回転ブランコは川に設置されていた大水車の残骸を改良し、エレベーターのシステムと回転モーターを使う事で、鎖でぶら下げたブランコが遠心力によって最大90度近くまで横に回転する椅子をシートベルトで固定すれば問題無いだろう。
もし仮に放り出されたり、安全バーが外れる事故が起きるとしても、翼の生えた魔族のスタッフがいれば落下前に助け出す事も出来るのがここでの一番の利点になるだろうな。
これは人間スタッフにはどうしても出来ない事なので、この場所で遊園地、テーマパークを開設する根拠にもなる。
遊園地のアトラクション遊具での事故はどうしても避けられない、だが問題はそのヒヤリハットを以下に減らす事が出来るかというところであって、数年に一度起きるか起きないかの大事故は心がけ次第で止める事が可能だ。
さあ、それじゃあ本格的に作業開始といこう。
だがその前にダイワ王に会って話をしておく必要がありそうだ。
ダイワ王との話し合いには、フォルンマイヤーさんとパナマさんも同席してくれることになった。
しかし、フォルンマイヤーさん、アレだけ絶叫マシンを嫌がっていたのに、どうしてオレに協力する気になってくれたのだろうか……??
オレ達は雷の魔王ネクステラに話をし、一度国に戻る事にした。
すると、ネクステラはトーデン、カンデンに命じ、オレ達を瞬時に王都に送ってくれた。
この力……ある意味人間の国に攻め込もうとすればいつでも攻撃できるぞ、という牽制になっているのかもしれない。
ここは下手に敵対するのは危険だとダイワ王に提言しておかなくては。
オレ達はフォルンマイヤーさんとパナマ様のおかげですんなりとダイワ王に会う事が出来た。
まあ、今やオレ自身がこの国には欠かせない人物扱いになっているともいえるところで、下手に邪険に扱うワケにはいかないのだろうな。
「コバヤシ殿、よくぞ参られた。それで、今度は何用じゃ?」
「国王陛下、実は……」
オレは雷の魔王ネクステラに連れ去られ、拷問器具を造らされそうになった話、それをどうにかして人間の恐怖だけを集める絶叫マシンの設置計画で納得させた話、そして人間の国と魔族の国の境目に遊園地を作る事になった話をダイワ王に伝えた。
すると、ダイワ王は最初こそ驚いていたが、その後オレの話を聞き、深く息を吐いた。
「はぁ、成程な。確かに下手に多数おる魔族と敵対するよりは、協力関係にあった方が得策であろう。だが、それを出来る者はそうはおるまい、コバヤシ殿、この件で我が国が魔族との戦闘を回避できるのであれば、この件は不問と処す。出来るようにやってみるがいい」
まあ、ダイワ王としても、魔族との戦争で犠牲者が多発するのは国政的にあまり選びたくない選択なのだろう。
そこでオレが魔族と人間の国の橋渡しが出来るなら、今回の件は成功する。
さて、ダイワ王の許可も得る事が出来た、それでは本格的にテーマパーク建設に取り掛かるとしよう!
そのためにはまずコンゴウを呼んで来なくては。
彼には以前作ったトロッココースターのある廃坑近くで待機してもらい、そのままになっていた。
オレ達がコンゴウの待機していた場所に行くと、そこでは動物に上に乗られて微動だにしないコンゴウの姿があった。
どうやら動物達はコンゴウに怯える事も無く楽しんでいるようだ。
仕方ない、もう少しこのままにしておこう。