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第81話 お湯の中の……和解??


 小林の建設した温泉保養施設の女湯側では、カシマール、モッカ、フォルンマイヤー、パナマの四人がワイワイ言いながら楽しんでいた。


「まったくコバヤシには驚かされるのである。何もなかった廃坑にこんなものを作ってしまうのだからな……」

「お兄さんは凄いのだ。ボクもこんなモノ全く知らなかったのだ」

「モッカ、みずあびはしてた、でもあったかいみず、なんだかへんっ。でもわるくないっ」

「そうですわね、あの方のアイデアのおかげでわたくしはとても助かっていますわ」


 四人は温泉に入る前に一通り小林に温泉の楽しみ方を聞き、それぞれが別の楽しみ方をしていた。


 カシマールは寝たまま楽しめる寝湯で寝ころんだまま寝てしまい、モッカは滑り台のある大きな露天風呂でスライダーに乗り、フォルンマイヤーはサウナと水風呂の繰り返し、そしてパナマは一人ゆっくりとお湯の中で浮かべたボードに乗せて本を読んでいた。


 どうやらここにいる全員が温泉の事を気に入ったようだ。

 四人とも、普段人には見せない程にだらけ切ったような緩い表情をしていた。


 男湯側は工事に携わった魔族達や小林本人で満員だったが、女湯側はこの四人の貸し切り状態みたいなものだ。

 だが、その中に謎の人影が二人姿を見せた。


「ほう、これがオンセンというモノですか、これはネクステラ様にご報告しなくてはいけません」

「そうですね、壁の向こう側にいる魔族の兵士達も魔力の感知から分かるように士気が上がっているようです、これは調査の必要がありそうです」


 姿を見せた二人は雷の魔王ネクステラの側近、トーデンとカンデンの二人だった。

 この二人……まあ何とも立派な物をお持ちのようで、モッカやカシマールはその旨を見て何とも言えない気持ちを感じていたようだ。


「で、デカいのだ……一体何をどうすればあんなに大きくなるのだ?」

「モッカ、まだせいちょうとちゅうっ、いつかあれくらいおおきくなるっ」


 残念ながらまだ子供ともいえる二人はトーデンとカンデンの二人を見て完全に圧倒されてしまったようだ。


 青肌でスレンダーな二人は、人間とはかけ離れた美しさがある。

 だが、彼女達に負けず劣らずだったのはパナマとフォルンマイヤーの二人だった。


 そしてあられもない姿のまま、女同士の戦いが始まってしまったようだ。


「お前達は、魔王の部下であるか。いったいここに何をしに来たのであるか?」

「まあまあ、ファンタ。ここには誰も武器を持ち込まないってコバヤシ様が言っておりましたでしょう。今は抑えてください」

「う、うむ……仕方ない。わかったのである」


 トーデンとカンデンの二人はフォルンマイヤーとパナマを見てクスクスと笑っていた。


「いったいなにがおかしいのであるかっ!?」

「いえ、人間とは面白いモノですね、このようなモノを作るなんて発想、ワタシ達には思いつきませんでしたから」

「そうですわね、あのコバヤシという男、是非ともネクステラ様の部下に欲しいですわね」

「そうはさせないのであるっ! コバヤシは私達に無くてはならない人物、魔族に渡すわけにはいかないのである!!」


 お湯から立ち上がったフォルンマイヤーは思わず、拳を握りしめて大声で叫んでしまった。


「フフフ、大丈夫ですわ。今はまだコバヤシには働いてもらわないといけませんからね、今すぐどうしようというつもりはありませんわ」

「ぐ……、こいつら……」


 どうやら一触即発の危機は去ったようだ。

 もしトーデン、カンデンの二人とフォルンマイヤー達がこの温泉場で戦っていたら、トーデン、カンデンの雷の魔法でここが阿鼻叫喚の地獄絵図になっていた危険性もある。


 そんなピリピリした空気だったが、その後は特に問題が起きる事は無かった。


「ふはー、なんだかこのお湯に浸かっていると、疲れが取れて気持ちがリラックスしてきたのである……なんか怒るのも馬鹿らしくなってきたのである……」

「そうですわね、こんなものいったい何の為に作ったのかと思いましたが、この中にいるととてもゆったりした気分になってきましたわ」

「そうであるな、ここは一時休戦とするのである……」


 フォルンマイヤー達とトーデン、カンデンはお湯に浸かっている間に癒され、とてもリラックスした気分になったようだ。


 そして六人とも、完全に脱力しただらけ切った表情のままでお湯を楽しんでいた。


 なんだかんだで、魔族と人間達は温泉という場所で癒された事により、お互い争う気が消えたらしい。


 そして、温泉を満喫した彼女達は服を着て建物の入口に来ていた。



「それではワタシ達は一度ネクステラ様の元に戻り、今後の計画についてお伝えして参ります。皆様とまたお会いできるのを楽しみにしております」

「うむ、わかったのである。お互いいい関係を築けるようにしていきたいと私も感じたのである。またお会いできる日を楽しみにしているのである」


 おや? 温泉の中で何かあったのだろうか?

 まあフォルンマイヤーさん達とトーデン、カンデンの二人が険悪な雰囲気ではなく、なんだか和んだ感じで会話が出来ている。

 やはり温泉はみんながリラックスできる場所だったんだろうな。


 オレの方でも魔族の戦士達は風呂から上がると、士気が高まったようでかなり元気いっぱいになっていた。


 これなら間違いなく、ここを湯治場にすれば集客は見込めるな。

 オレは風呂上がりの冷たい飲み物を飲み、そう確信していた。


 冷たい飲み物は牛乳にこの辺りで採れる果物の汁を混ぜたものを土で焼いた瓶に入れたものだ。

 流石にこの世界の技術ではガラス瓶の小さな物を作るのはまだ難しいようだな。

 オレ以外にも魔族の兵士達もこの冷たい飲み物を飲んでいた。


 どうやら彼等は味覚的に人間とかけ離れたという程のものでは無いようだ、それなら亜人種でもここに来られるようにしておけばさらに来客者は増えるだろうな。


 オレはこの場所の運営をパナマさんに任せ、再び雷の魔王ネクステラの城を訪れた。


「おお、コバヤシではないか。待っておったぞ。それで、トーデン、カンデンから聞いたが、お前はここに何か儂の意図とは関係ないモノを用意しようとしておるようじゃな」


 雷の魔王ネクステラはオレを訝し気に見ている。

 あのトーデンとカンデンの二人、いったいどういう風にネクステラに伝えたんだ?


「い、いえ。関係ないというワケではありません。リピーター確保の為ですから」

「リピーター? 何じゃそれは」


 オレは一度恐怖を与えた相手に、リピーターになってもらえれば何度でも同じ事が出来るといった内容を雷の魔王ネクステラに伝えた。

 そのリピーターを一日だけで帰らせない為の宿泊施設や温泉を作るという事が計画に追加になったという言い方で説明すると、彼は納得してくれたようだ。


「成程、つまり一度拷問を与えただけでは人間が壊れてしまい、後掃除も大変だが、そのリピーターというのになれば、人間自らが何度でもその拷問器具に入ろうとする。そういう事じゃな」


 少し本来の意図した説明とずれてはいるが、大まかな内容は間違っていない。

 内容に納得してくれた雷の魔王ネクステラはオレを見て指差した。


「良いじゃろう、コバヤシ、お前の思うようにやってみろ。トーデン、カンデンから大体の話は聞いておる。必要な物があれば何でも言うがよい、儂の権限で何でも用意してやろう!」


 これは太いスポンサー、出資者を確保したようなもんだ。

 雷の魔王ネクステラの完全協力を得た今、オレは誰に邪魔される事も無くテーマパークの工事にとりかる事が出来る。


 そして人間側でもダイワ王のお墨付きをもらっているので、こちらも問題になる事は無さそうだ。


 さあ、それじゃあここに大型の総合レジャーのテーマパークを作る事にしよう。


 よし、作業開始だ!!

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