「ネクステラ……様??」
「そうじゃ、儂がネクステラじゃ」
オレの目の前にいたのは、以前会った時よりもさらに幼い子供のような姿をした魔族だった。
「でもいったい、どうしてこんな風に??」
「うーむ、暴発した魔力は落ち着いて来たのじゃが、今度は儂が全力を放っておったらその魔力で全部の蓄積していたモノまで出し切ってしまったようじゃ。そして暴発していた時に比べ、落ち着いてはおるのじゃが、全力を出せぬ程力が落ちてしまったようじゃ」
どうやら雷の魔王ネクステラは体に蓄積していた魔力まで全部フルパワーで外に放出してしまったようで、体が子供に戻ってしまったようだ。
さらに、一度子供の姿で魔力を蓄積しようとしても、その体に見合っただけのサイズしか蓄積できないようなので、本来の雷の魔王としての力を出せる状態ではないらしい。
――って、どうするんだよ!! あのテーマパークのアトラクション、アレ全部ネクステラの魔力で動かしていたんだろ、それが枯渇してしまったって事はテーマパークの運営も危うくなってしまうぞ!!
仕方ない、まあオレが運営責任者というワケではないが、ここは雷の魔王ネクステラの意思に従って動く事にしよう。
「それで、ネクステラ様。あのテーマパークはどうしましょうか??」
「そう言われてものう、儂の力で動かしたものが動かなくなってしまった以上、儂の部下の魔族の者どもに動かさせるしかあるまい」
まあ、そういう結果になるか。
オレはトーデン、カンデンに伝え、今まで電動で動かせていたアトラクションの動きを魔族のスタッフ達に手動で動かすように伝えた。
まあ、空を飛べるものがいて、かなり力の強い奴もいて、それでトーデン、カンデンの二人は雷の魔力がネクステラほどではないがそこそこのレベルで宿泊施設や温泉保養地の照明くらいなら確保出来そうなので、このまま施設の完全休止とはならないようだ。
だが、早く妥協案を見つけ出さないと、魔族のスタッフの方に疲労が出てしまい、下手すれば大惨事が起きかねない。
もしこれで、テーマパークでの大惨事でも起きようものなら、今までどうにか友好的になりつつあった人間と魔族の間に解消不可能な深い溝が出来てしまう。
――それだけはどうしても避けないと!!
せっかく魔族や魔王と人間が戦わないで済むようにオレが頑張っていたのにその努力が一回の大事故のせいで水の泡になってしまう。
それを回避するには、魔族のスタッフの疲労を減らしつつこのテーマパークの運営をきちんと軌道に乗せ、そして安定したエネルギーの供給、コレが必要となる。
さて、しかしどうやって安定したエネルギーの供給が出来るのだろうか。
ここが海の近くなら波を使ったりした水力、波力発電というのも一つの手なのだが、この場所は、水は穏やかで発電機を回すエネルギーになる程のモノが無さそうだ。
だからと言って風が強いわけでも無いので、風力発電というのも難しそうだし、地熱発電はオレの元々いた世界でも試作段階の域を越えなかった。
さらにこの異世界でその地熱をエネルギーにするだけの技術が存在しないのでこれも無理。
そうなると、やはり石炭や石油といった化石燃料エネルギーに頼るしかないのだろうか。
だが、そんな石油や石炭、天然ガスはいったいどこに行けばあるのだろうか?
地下資源なのでアレがあるのは確実なのだろうが、それでもこの世界でその事に精通した人物がいるのだろうか。
「コバヤシ、どうしたのじゃ。何か良い考えでも思いついたのか?」
「ネクステラ様、この世界で石油、ガス等に強い人物を知りませんか?」
「それが何かはわからんが、コバヤシ、お前は何が欲しいのじゃ?」
質問に質問で返した形だが、もし雷の魔王ネクステラの知り合いに化石燃料やガス等に詳しい相手が居れば、その相手からそれらの石油燃料等を買い、ここで使えれば良いかもしれない。
「すみません、誰かガスや石油といった燃える資源に詳しい方をご存じありませんか?」
「火、じゃと……そうじゃな、アヤツなら、火の魔王エクソンなら何か知っておるかもしれんな」
火の魔王エクソン! それは以前コンゴウのコアが教えてくれたこの世界の四大魔王の一人だ。
水の魔王ベクデル、雷の魔王ネクステラ、火の魔王エクソン、そして空の魔王ヴォーイング、この四人がこの世界で四大魔王と呼ばれている。
だが、その中の空の魔王ヴォーイングと火の魔王エクソンにはオレはまだ会った事が無い。
そうだな、火の魔王エクソンなら自身のエネルギーに近い石油や天然ガス等に強いかもしれない。
「その、火の魔王エクソンとはどこにいるのですか?」
「そうじゃな、この南、ファイアドラゴンの住処を超えた先、そこにある地獄の噴門に行くがよい、その近辺に火の魔王エクソンの居城があるはずじゃ」
なんだよその地獄の噴門って!!
オレが知っている話でも地球のどこかに永遠に燃え続けるガス田と言われている地獄の門と呼ばれる場所が西アジアのどこかにあったはずだが、地獄の噴門という事はそれに似たような場所なのでは無いだろうか……。
だが虎穴に入らずんば虎児を得ず、ここで危険を承知で行くぐらいの事をしなくては、石油や天然ガスを手に入れるのは出来ない。
ここは場所を教えてもらった以上、実際に火の魔王エクソンに会いに行った方がいいのだろうな。
「わかりました、ネクステラ様。色々と教えて下さり、ありがとうございます」
「よい、儂はお前を気に入っておるのじゃ。コバヤシ、お前のおかげで儂は人間を苦しめる以外の方法で恐怖を得るという事を知れた、お前にはもっと多くの恐怖を人間から集めてもらいたいからのう」
やはり魔王というのは、ただの相手が気に入ったというだけで話をする連中ではなさそうだ。
実際オレが何かしらのメリットを彼らに与えている、だからオレは能力的には吹けば飛ぶような雑魚かもしれないが、魔王に一目置かれていると言えるのかもしれないな。
水の魔王ベクデルには、そのテリトリーで好き勝手にしていた連中をやっつける事で信頼してもらい、雷の魔王ネクステラには魔力の暴発の制御方法や新たなエネルギーの獲得方法を教えた事で気に入られた。
という事は、火の魔王エクソンも何か悩みや問題があるなら解決すれば石油や天然ガスに関する事で協力してもらえるかもしれないな。
オレはトーデン、カンデンに頼み、カシマール、モッカ、フォルンマイヤーさん、パナマさんを呼んでもらい、全員で話をした。
「つまり、今は雷の魔王ネクステラが思ったように魔力を使えないので、あのテーマパークの電力が使えないんだ、だからしばらくは魔族の兵士達の手動で色々とやってもらう事になる。オレ達はその間に火の魔王エクソンの居城に向かい、新たなエネルギーの資源を獲得するんだ」
「コバヤシ、イマイチよく分からないであるが、つまりは火の魔王エクソンに会わないと今の状況が良くならないという事であるのか」
「ボク、お兄さんについていくのだ」
「モッカもこばやしについていくっ」
カシマール、モッカ、フォルンマイヤーさんはオレの火の魔王エクソンに会う為の旅に付き合ってくれる事になった。
「コバヤシ様、ここの運営の補助はわたくしがトーデン様、カンデン様と行いますから、安心してくださいませ」
パナマさんはここに残ってテーマパーク運営の手助けをしてくれるらしい。
どうやらパナマさんの領地の方は前ボリディア男爵が見てくれるという事なのでそちらの問題は無いようだ。
さあ、それじゃあファイアドラゴンの住処を超えて火の魔王エクソンの居城を目指そう。
みんな……さあ行くぞ、出発だ。