モッカはファイアドラゴンの前に彼女の赤ちゃんを差し出した。
すると、ファイアドラゴンの真っ赤だった目が、次第に色が変わり緑色に変わっていく。
どうやら、ファイアドラゴンは感情が目に出るようで、赤は怒り、緑は平常といったところなのだろうか。
ファイアドラゴンはモッカが抱えていた我が子を口で咥えると、大事そうに手元にそっと置いた。
そして愛おしそうに毛づくろいを始めた、どうやらこのドラゴンはメスで、この子の母親なのだろう。
やはりこのファイアドラゴン、赤ちゃんが住処からいなくなった事で慌てて捜していたんだな。
でも無事に見つかって良かった。
これでオレ達も安心してこの先に進む事が出来そうだ。
ファイアドラゴンは自身の赤ちゃんを背中に乗せると、大きな翼で空に飛びあがり、何度も何度もオレ達の周りを旋回していた。
どうやら、あれが感謝を示しているポーズなのだろうか。
まあこれでこのファイアドラゴンの住処を抜ける事が出来そうだ。
オレ達は山を抜け、火の魔王エクソンの居城を目指し、南に向かった。
すると、先程のファイアドラゴンがオレ達の前に降りてきて、いきなり道を塞いでオレ達の行くのを邪魔しようとした。
オイオイ、コイツは恩を仇で返そうとしているのか??
だが、どうやらモッカの反応を見ると、そうでは無い事が分かった。
それにドラゴンの目は赤ではなく緑色だ、どうも何かオレ達に伝えたい事があるのかもしれない。
「こばやしっ、このさきいけないっ。じごくのふんもんがあるっ」
「地獄の噴門??」
それって雷の魔王ネクステラが言っていた場所か。
しかしそこを抜けない事には火の魔王エクソンに会う事は出来なそうだ。
オレはモッカに頼み、どうにかファイアドラゴンにこの先を進ませてほしいと伝えてもらった。
モッカの伝えようとした事は、ファイアドラゴンに理解してもらえたようだ。
すると、ファイアドラゴンは渋々その場から飛び上がり、オレ達の周りを旋回して飛んでいた。
いくら地獄の噴門なんてものがあると言っても、遠回りすればどうにかなるだろう。
――だが、オレの予想よりも地獄の噴門は凄まじい場所だった。
「こ、これが地獄の噴門!?」
「先が見えないのだ……」
「ここ、いきものなにもいないっ」
「圧巻であるな、しかしどうやってこの先に進めばいいのであるか?」
地獄の噴門とは、常に炎が吹き上がり、決して止む事のない超巨大火炎クレーターだった。
どうにか遠回りしようにも、見渡す限りの炎の壁は、どこまでも続き、いくらオリハルコンで出来たコンゴウでもオレ達を連れてここを突き抜けて通る事が出来なそうだ。
成程、コレは確かに火の眷属の魔族以外は誰も受け付けない場所だな。
いったいどうやってここを抜ければいいのかがまるで見当がつかない。
オリハルコンで出来たコンゴウ一体ならこの先に無傷で行く事は出来るだろうが、普通の石等で出来た五体のゴーレムはこの灼熱の炎であっという間に溶けてしまいそうだし、オレ達はこの炎の壁に触れた瞬間即死確定だ。
困った、さあどうすればこの地獄の噴門を抜ける事が出来るのだろうか。
今から迂回路を捜すとしても、この地獄の噴門は数キロ、下手すれば数十キロ先までありそうな超巨大クレーターだ。
だから迂回している間に時間がどんどん過ぎてしまい、本来の目的を果たす時間がかなり先延ばしになってしまう。
ダイワ王との期限はもう三か月も残っていない。
そんな迂回路を捜していたらそれだけで数週間は無駄に時間を使ってしまいそうだ。
さて、本当にどうすればいいのだろうか。
困っているオレ達の上空を飛んでいたファイアドラゴンが再びオレ達の前に降りて来た。
いったいどう言う事なのだろうか。
オレ達と敵対する意思は無い事はわかるが、オレはドラゴンの言葉は分からない。
すると、モッカがオレに嬉しそうな表情で話しかけて来た。
「こばやしっ、このふぁいあどらごん。モッカたちをむこうにはこんでくれるっ、そういってるっ」
「何だって!! 本当かそれは!」
「グゥウウウゥ……」
ファイアドラゴンの目は緑色のままだ、どうやら彼女は本当にオレ達をこの地獄の噴門の向こう側に運んでくれるらしい。
やはり情けは人の為ならずとはいったものだな。
偶然とはいえ、オレ達はファイアドラゴンの赤ちゃんを助けたお礼にこの地獄の噴門の向こう側に運んでもらえる事になった。
彼女は最初にオレ達をコンテナごと背中に乗せてオレ達全員を運んでくれた。
流石に巨大ゴーレム全部を一気に運ぶ事は出来ないので、何往復かにはなったが、ファイアドラゴンはオレ達全員を地獄の噴門の向こう側に運んでくれた。
ファイアドラゴンは炎の属性なのでこの火の中でも平気なのだろうが、彼女はオレ達の事を気遣い、わざわざ炎のはるか上空の場所を飛んでオレ達を運んでくれた。
その時見えた地獄の噴門は、辺り数キロ四方全てが見渡せるほどの大きさで、これを迂回しようとすればかなりの時間のロスになる事がよく分かった。
しかし、ファイアドラゴンがコンゴウを背中に乗せた時は、流石にあの巨体で体をフラフラにさせながら自分の身体よりも大きなコンゴウを運んでいたのでちょっと見ていて笑いそうになってしまった。
流石のファイアドラゴンでも大型のゴーレム五体と超大型ゴーレムを上空高くから運ぶのにはかなり体力を消耗したようだ。
それは彼女の姿を見ているだけで分かる、かなり息が荒そうだ。
これ以上無理をさせない為にも少し休んでもらおう。
それに下手にこの場から飛び去られてしまうと、オレ達はどうやって元の場所に戻ればいいのか方法が無くなってしまう。
「ギャオオウ……」
「こばやしっ、このこ、ここでまっててくれるっ。モッカたちがもどってきたらまたあっちがわにつれていってくれるっ」
それは助かる、もしここで置き去りにされたら、どうやってこの地獄の噴門を向こう側に戻ればいいのかわからなかったくらいだ。
ファイアドラゴンとしても今すぐここから飛び立つのは出来ないようなので、オレ達を乗せて帰ってくれるくらいまでは休息を取りたいのかもしれない。
まあ、実際火の魔王エクソンに会わないとこの後の話がどうなるかは分からない。
だからここに戻るにしても火の魔王エクソンとの話し合いの結果次第だけどな。
地獄の噴門の向こう側に到着したオレ達は、そのまま南を目指した。
南に向かえば向かうだけ暑さは増していく。
それでも地獄の噴門から遠ざかると少しはマシになったのかもしれない。
そしてオレ達は、南の荒野にそびえ立つ巨大な石造りの城に到着した。
見た目から武骨で頑丈そうなその城は、豪華や華美とはかけ離れた質実剛健と言える場所だ。
多分火の魔王エクソンという人物自体が、あまり豪華に飾り立てたものが好きでないのかもしれない。
オレ達はマグマの上の橋を渡り、火の魔王エクソンの居城に向かった。
マグマの上の橋は、頑強に作られているようで、コンゴウや五体の巨大ゴーレムが歩いてもビクともしなかった。
まあ、この広さと大きさからみて、魔族の軍団数万が移動できる規模の物を作ったのかもしれないが、それにしても巨大な橋だと言える。
火の魔王エクソンとは、戦いを好む戦闘狂なのかもしれないな……。
だが、オレ達はここに戦いに来たワケじゃあない。
むしろ戦いを起こさせない為、雷の魔王ネクステラの土地にエネルギー資源を運べるようにしたいのでその話をする為にやって来たのだ。
「誰だ、貴様らは!! ここを火の魔王……エク……な、何だアレは!?」
オレ達を食い止めるつもりだった火の城の兵士達は、オレ達の後ろにいる巨大ゴーレムを見て驚いていた。
よし、これなら戦闘にならずに話を進める事が出来るかもしれない!