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第86話 火の……魔王??

 勇猛果敢と思われる火の魔王エクソンの兵士達だったが、流石にSS級モンスターに相当するコンゴウを見て肝を冷やしたのだろう。


 まあ、SS級モンスターなんてものは、伝説、神話クラスのバケモノで、それこそ魔王と対等に戦えるほどの強さだ。


 オレ達の後ろにいるコンゴウは実際にその四人の魔王と戦った事のある最強の超巨大ゴーレムだ。

 流石のエクソン軍の兵士も、このコンゴウにはどうやっても勝てるワケがない。

 そしてオレはゴーレムマスター、下手にオレに攻撃をすると後ろのゴーレムによって反撃されると分かっていたようだ。


「き、貴様らは何をしにここに来た!? 我らがいる限り、エクソン様の元には行かせんぞ!!」


 槍を構えた兵士はそれでもオレに牽制をしてきた。

 たとえ命を失うとしても、火の魔王エクソンを守ろうというのか、大した忠誠心だ。


「待ってくれ、オレ達は戦いに来たワケじゃない。雷の魔王ネクステラ様に紹介されてここにいる火の魔王エクソン様に会いに来たんだ」

「そ、そうでありましたか。ネクステラ様のご紹介とは、これは失礼いたしました!」


 エクソンの兵士はキリっとし、再び高く槍を掲げて城門の前に立った。

 オレ達の事を城内に案内してくれたのはもう一人の兵士だった。


「さあ、お客人、ここを通るがいい。中にエクソン様がおられる、くれぐれも失礼のないように!」

「わかりました、ありがとうございます」


 オレ達はコンゴウを殿(しんがり)にして炎の魔城の中に入った。

 城の中は豪華とは言えないが、見る者を圧倒するような武骨な戦士の像やドラゴン、悪魔の像が配置され、それらには何かの仕掛けがあるようだった。


「お客人、下手に像に触れない方が良いです!」

「えっ、それは??」


 オレが像に触れると、その口から炎が噴き出してきた。


「うぁぁあああっ!!」


 オレは思わず後ろにのけぞり、どうにか炎の直撃を避ける事が出来た。

 危ない危ない、どうやらこの像は調度品でありながら、侵入者撃退のシステムでもあるようだ。

 火の魔王エクソンは趣味と実益を兼ね備えた物を好む現実主義者なのかもしれない。

 いくら侵入者がいたとしても、まさかこんな調度品にいきなり攻撃されるなんて普通は考えないだろう。

 だが、火の魔王エクソンはこれらの調度品に豪華さよりも実際の侵入者撃退システムを組み込んでいた。


 この事から考えられるのは、火の魔王エクソンには下手な小細工をするよりも、直接伝えたい事を伝えた方が話が出来そうだという事だ。


「こばやしっ、だいじょうぶかっ?」

「あ、ああ。少しビックリしただけだ。怪我はないから安心してくれ」


 これは下手に像に触ったり近づいたりしないように気を付けながら進んだ方が良さそうだな。

 オレ達は出来るだけ中央の道の側面の像から離れた場所を歩き、大扉の前に到着した。


 まさか、雷の魔王ネクステラの時みたいにドアを開けた瞬間炎が扉から噴き出してくるなんて事は無いよな……。


 オレは恐る恐る大扉を奥に押して開いた。

 特に中からは炎が噴き出してくる事は無さそうだ。

 オレ達は扉の中に入り、巨大なホールのような場所を奥に進んだ。


「お前達は誰だッ!!」

「オレ達は、雷の魔王ネクステラ様の紹介でここに来ました、貴方が火の魔王エクソン様ですか?」

「そうだッ!! オレ様が火の魔王、エクソン様だッ!!」


 部屋の奥で燃え盛る椅子に座っていたのは、筋骨隆々で大きな角の生えた偉丈夫だった。

 声もデカいが態度もデカい、まさに自信が服を着て歩いているような相手だ。


 だからと言ってここで物怖じしたら相手にもしてもらえない、ここは気持ちで負けるわけにはいかないんだ!

 伊達にこちとら建設業界の猛者といえる社長相手にプレゼンを勝ち抜いてきた自信がある。

 気合の勝負ならこちらにも負けられない意地があるんだ!


「お前達は人間かッ! 人間がよくあの地獄の噴門を抜けて来たものだなッ!! ひょっとして迂回してやって来たのかッ!?」


 彼のような人物は、ここで迂回してやって来たというような相手は相手をしないタイプだ。

 こういうタイプの相手は正攻法以外を嫌う。

 だからオレはここに来るまでのありのままを伝える事にした。


「いいえ、オレ達は地獄の噴門を超えてここに来たのです」

「ウソをつくなッ!! オレ様はウソをつかれるのが一番嫌いなんだッ!!」


 火の魔王エクソンの髪の毛が炎になり燃え上がった。

 どうやら彼は感情が髪に出るようだ。

 彼は怒りや感情が高まると、髪の毛が炎になって燃え上がるのだろう。


「ウソではありません、オレ達はファイアドラゴンに地獄の噴門を超えてもらってここに来たんです」

「何だとッ!! お前達はどんな方法であの気難しいファイアドラゴンを手懐けたというんだッ!! ウソでないなら言えるはずだッ!!」


 火の魔王エクソンは、まだオレが嘘をついていると思っているようだ、彼の髪の色がオレンジから青に変わっている。

 どうやらウソにさらにウソを重ねたと思われてしまったようだな。

 それならここに来た方法が嘘でない事をきちんと伝えよう。


「オレ達はここに来る途中で、ファイアドラゴンの住処の近くの崖から落ちそうなドラゴンの赤ちゃんを助けたんです。するとファイアドラゴンは、そのお礼にオレ達を地獄の噴門の反対側に送り届けてくれたんです」


 火の魔王エクソンの炎の髪が揺らいだ。

 少し気持ちに揺らぎが見えたのかもしれない。


「何だとッ! ファイアドラゴンの子供を助けたというのかッ!!」

「はい、そうです。オレ達はゴーレムの手に乗って、崖から落ちそうなファイアドラゴンの赤ちゃんを助けました。すると彼女がオレ達にお礼をしてくれたというワケです」


 炎の魔王エクソンの髪の色が青からオレンジになった。

 どうやら怒りから少し感情が和らいだのかも。


「そうか、その言葉に偽りは無いんだなッ!!」

「はい、これは作り話ではなく、本当の事です!」

「フフフ、ハハハハハッ!! いい、いいぞッ!! オレ様はそういう話が大好きなんだッ!! 良いだろう、お前の言う事を信じてやろうッ!!」


 燃え上がっていた炎の魔王エクソンの髪が普通の赤い髪に戻った。

 オレの話が本当だとわかって感情の高ぶりが落ち着いたのか。


 ほっ、助かった……どうやらオレ達の言っている話が噓ではないという事が分かってもらえたようだ。


「オレ様はなッ、ウソをつく奴は大嫌いだが、不器用でも本当の事を伝えようとする奴は好きなんだッ!! お前の話、話し方からウソの空気は感じなかったからなッ!! いいだろう、オレ様が話を聞いてやろうッ!!」


 どうやらこれで、ようやく話のスタートラインに着く事が出来たようだな。

 さて、どの部分からどう話せばいいのだろうか、とりあえずは下手に修飾語をつけるよりは、ストレートに内容を伝えてから後で細かい部分を補足した方が良いかもしれない。


「ありがとうございます、エクソン様。それで、お話というのは……是非とも火の魔王であるエクソン様の力をお借りして、この辺りにある可燃性の地下資源を譲ってほしいという事なんです」

「そうか、この地下にある物が欲しいという事だなッ!!」

「はい、そうです。是非ともお願いできますでしょうか」


 火の魔王エクソンは伝えたい事をストレートに話せば首を縦に振ってくれる人物、オレはそう思ったのだが……。


「ダメだッ!! それは出来んッ!!」

「えっ、それは、どういう事でしょうか……地下資源を譲ってもらう事は出来ないのですか?」

「ダメだッたらダメだッ!! この話をそれ以上続けるなら、焼き殺すぞッ!!」


 オレはここに来た目的をストレートに火の魔王エクソンに伝えたが、けんもほろろ、頭ごなしに却下されてしまった。


 くそっ、いったい何がダメだっていうんだよ!?

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