なんと、火の魔王エクソンは精製されたガソリンを一気にワインのように飲み干したのだ!
「いい味だッ! 他のモノもオレ様に飲ませろッ!!」
その後、火の魔王エクソンはLPガスの空気を吸い込み、軽油、灯油、重油を飲んだ。
気に入ったのはLPガス、それに軽油、灯油だったようだが、重油はとても飲めたものでは無いと吐き出してしまったようだ。
どうやら火の魔族の眷属にもエネルギー源の好き嫌いは存在するようだな。
吐き出した重油は彼の部下が掃除したが、それでもしばらく臭いは取れなかった。
「コバヤシッ! これはどこで取れたモノなのだッ!?」
「これは、地獄の噴門の地下にあった燃料を精製したものです。それぞれ同じ物でも温度を変える事でこれだけ成分が変わるのです」
「気に入ったッ! いいか、もしお前が地獄の噴門の火を消すだけでなく、この油をオレ様に提供できるのなら、お前の言う事を聞いてやろうッ!!」
どうやら本来の目的とは違ったが、重油以外は火の魔王エクソンが飲むためのモノとして提供する事になってしまったようだ。
だが、火の魔王エクソンが気に入ったのはガソリンとLPガスであり、それ以外の軽油や灯油はそれ程お気に召したようではないみたいだ。
しかし、火の魔王エクソンが言うには、この軽油や灯油は彼の部下に飲ませる為に用意しろという事らしい。
実際、オレが用意した油は火の魔王エクソンだけでなく、彼の部下達にも好評だったようだ。
また、ファイアドラゴンもこの軽油が気に入ったらしい。
彼女は自分の赤ちゃんにも口移しで軽油を飲ませていた。
成程、火の属性のモンスターにとっては、油は飲み物、活力の源になるのか。
これは原油精製プラントを造ったのが無駄にならなかったみたいだな。
まあ、本来の乗り物とかに使う為の精製とは異なった目的だが、ここが異世界だとするならそういうのもアリなのだろうな。
それぞれ軽油や灯油、ガソリン等、好みが違うようだが、燃える油を好むという点では共通しているようだ。
その後、火の魔王エクソンはオレ達に部下を同行させた。
どうやらこの石油精製プラントで作られた油を、彼の城に持ち帰らせる為らしい。
オレが石油精製を試みた目的は、本来のモノと変わってしまったが、それでも無駄に燃やすよりは使われるだけまあ良いと考えていいのかも。
実際、火の魔王エクソンの部下の兵士達はこの石油精製プラントから取れる取れたての油を飲んで満足しているようだ。
これで火の魔王の信頼が勝ち取れるなら、まあそれほど高いものではないな。
原油さえあればすぐにでも用意出来るものなので、これで火の魔族と信頼関係を作れるならそれもアリだろう。
さて、肝心の地獄の噴門の鎮火についてだが、火はかなり弱まってきているようだ。
コンゴウが次々と投げて入れている岩石や土は、燃え続けようとする火の勢いよりも量が増えた事で、少しずつ火が弱まってきている。
あと少しで全部鎮火出来るかもしれないところまで進展した。
アレだけ炎の壁のようになっていた火が、今では普通に炎の山か炎の穴と言える程度になっていた。
少し離れた場所から見ているオレ達も、今はそこまで空気の熱さを肌で感じないくらいだ。
よし、この調子であと数日も埋め続ければ、今度こそ地獄の噴門が姿を消すかもしれない。
だが、油断してはダメだ。
下手に気を抜くと、今度は地獄の噴門の火から引火したものが新しく造った石油精製プラントを大火事にしかねない。
そうなるとせっかく火を消した意味が無くなり、今度はその元石油精製プラントが新たな地獄の噴門のような場所になってしまう。
だから最後まで引火させないように地獄の噴門を鎮火させなくてはいけない。
今は五体のゴーレムに山を切り崩させ、その砕いた岩石をコンゴウが次々と地獄の噴門のクレーターの中に投げ込んでいる。
火の勢いは最大時の十分の一程度にまで減り、あともう少しで全部の火を消す事が出来そうだ。
よし、これでようやく地獄の噴門がただのクレーターになりそうだ。
コンゴウはラストスパートで大きな岩を燃え盛る炎の中に放り込んだ。
もう炎は巨大な岩石を溶かすまでの勢いを失い、岩をあぶる程度になっている。
よし、これで終わりだ!!
オレは最後に、コンゴウに超巨大な小山に匹敵する岩を持たせ、それを地獄の噴門の一番深い場所に置くように指示した。
「コンゴウ、その岩をそこに置いて最後だ!」
「グゴゴゴ……ゴゴ!!」
そしてついに、地獄の噴門は鎮火され、ただのクレーターになった。
やった、ついにやり切ったぞ!!
「お兄さん、お疲れ様なのだ……」
「コバヤシ、すまないな。私は今回何の役にも立てなかったのである」
いや、今回は燃え盛る炎相手に人間が何か出来るかと言えば何も出来ないんだから、全部ゴーレムに任せるのも仕方ない。
ゴーレムを使うオレと、魔獣の言葉の分かるモッカ以外、この地獄の噴門では何も出来なくても仕方なかったんだからそこまで何も出来なかった事を謝られても困るのはこっちだ。
「いいんですよ、普段活躍してもらってるんですから、こんな時くらいはゆっくりしてもらわないと、もうすぐここの鎮火も終わりますから」
「わかったのである。コバヤシ、何か私の力が必要な時は言ってほしいのである」
フォルンマイヤーさんはオレに深々と頭を下げた。
まあ、ダイワ王との交渉の時とか貴族や王族に会う時にはフォルンマイヤーさんに一緒に来てもらうのが、一番交渉が上手く行く方法だから、彼女には普段とても役に立ってもらっていると思うんだよな。
カシマールも、彼女が居なければ今のオレは存在しない。
カシマールに教えてもらえなけば、オレはゴーレムマスターのスキルの正体も分からないまま、戦奴の魂の入ったゴーレムに呪い殺されていたかもしれないんだから。
そういう意味では、彼女はオレの命の恩人と言っても間違いはない。
だから少々役に立たなくても何の問題も無い、むしろオレは彼女がいてくれるだけでいいと思っているくらいだ。
それに、彼女のネクロマンサーとしての力のおかげでコンゴウのコアを高い所に設置する事も出来た、いうならばコンゴウを動かす事が出来たのも彼女のおかげだ。
だからオレは彼女達を何も役立たずだとは思わない。
みんながいてくれたからオレはこの仕事を続ける事が出来たと思っている。
むしろ、ここにいる誰かが一人欠けていても、今のオレ達は存在しなかっただろう。
「みんな、エクソン様の所に行こう、地獄の噴門の火が消えた事を報告するんだ」
「わかったのだ……」
「うんっ、はやくいこうっ」
「そうだな、そうであるな」
オレ達は、コンゴウの手の上に乗せてもらい、火の魔王エクソンの居城に向かった
「何とッ! 本当にあの地獄の噴門の火を消したというのかッ!!」
火の魔王エクソンは、ガソリンをコップに入れて飲みながらオレ達の報告を聞いた。
「よくやってくれた、良いだろうッ! 約束通り、このオレ様の土地にある地下資源、いるだけ持っていくがいいッ! ただし一つだけ条件があるがなッ!!」
「エクソン様、ありがとうございます。それで、条件とは?」
「うむッ! 条件とは、オレ様にあの上質のガソリンを、そしてオレ様の部下達にもあの軽油という油を定期的に納める事だッ! 出来るなッ!!」
成程、火の魔王エクソンはガソリンや軽油を提供する代わりに重油や燃料を好きに使っていいと言っているのか。
「わかりました、それで……実はこちらもお願いがあるのですが……」
「どうしたッ! 言ってみるがいいッ!!」
「ここの燃料を運ぶのに、鉄道を敷きたいんです」
「テツドウッ!? 何だ、それはッ!!」
オレは、燃料の安全な輸送方法として、火の魔王エクソンに、鉄道敷設の計画について話してみる事にした。